糖尿病網膜症の早期発見を可能にする新しい眼底カメラが開発された。開発されたカメラは、独自の超広角技術により、網膜の約82%の領域を瞬時にとらえて画像化する性能があるという。
網膜を超広角技術で撮影
研究は、米国のハーバード大学ジョスリン糖尿病センターによるもので、米国眼科学会が発行する医学誌「オフサルモロジー」に発表された。
糖尿病網膜症は三大合併症のひとつで、成人の視覚障害の主要な原因となっている。網膜は、細い血管が張り巡らされていて、高血糖による細小血管障害の影響を受けやすい組織だ。
網膜は眼球の奥に広がっている薄い膜状の組織で、瞳孔から眼球に入った光を感じとる部分。「糖尿病網膜症を早期発見するために、網膜周辺の病変を見つけることが重要であることは以前から知られていました。しかし、従来の画像診断の技術には、網膜周辺の病変を検出するための精度はありませんでした」と、ジョスリンのビーサム眼科研究所のパオロ シルバ氏は言う。
新たに開発された眼底カメラは、独自の超広角(UWF)技術により、網膜を200度という超広角で撮影し、約82%の領域を瞬時にとらえて画像化する性能がある。1回撮影するだけで、網膜の大部分をカバーでき、画像の解像度も従来よりも高い。
UWF技術を取り入れた眼底カメラにより、糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症、緑内障など、網膜で兆候を確認できる疾患の早期発見が可能になる可能性がある。
糖尿病網膜症の治療に変化
「糖尿病網膜症の早期治療の研究」(ETDRS)は、3,700人以上の患者を対象に1979年に開始された。この研究では30度の角度で撮影する眼底カメラで7枚の写真を撮り、網膜全体の約3割をみて網膜症の判定を行っていた。
研究グループは、従来のETDRSで使用したのと同等の眼底カメラと、UWF技術を取り入れた眼底カメラを比較して、100人の糖尿病患者を対象に網膜症の発症と、網膜症だった場合の重症度を判定する研究を行った。
その結果、UWF技術を取り入れた新しい検査では、患者の3分の1以上で網膜周辺の病変が新たに発見され、10%の患者で網膜症が進行する危険性が高いことが分かった。
さらに4年後にUWFによる前向き観察研究検査を行ったところ、網膜周辺の病変が認められていた人では、網膜症が進行するリスクが約3倍に上昇していたことが分かった。さらに進行した状態である「増殖性網膜症」となるリスクは約5倍に増えていた。
糖尿病のタイプ、罹病期間、血糖値などの測定値を考慮して解析しても、UWF技術によって網膜症を早期発見できる可能性が高いことが示された。
「より規模の大きい研究で新しい画像診断システムの精度を確かめることができれば、糖尿病網膜症の治療に変化がもたらされる可能性があります」と、シルバ氏は言う。
UWF技術を取り入れた眼底カメラの価格はおよそ1,000万円と高価だが、技術開発により価格を下げることは可能だという。当面は、ジョスリン糖尿病センターなどの中核病院で眼底カメラによる画像診断を行い、得られたデータをクリニックなどに送信し治療を行う「遠隔医療プログラム」が考えられている。
In Diabetic Eye Disease, Peripheral Lesions in the Retina Point to Higher Risks of Progression(ジョスリン糖尿病センター 2015年8月27日)
Diabetic Retinopathy Severity and Peripheral Lesions Are Associated with Nonperfusion on Ultrawide Field Angiography(オフサルモロジー 2015年9月6日)
[ Terahata ]