埼玉県は、レセプト(診療報酬明細書)データを活用した糖尿病性腎症の重症化を予防する対策の実施状況について公表した。糖尿病の治療を放置していた人に受診勧奨を行ったところ、勧奨前に比べて受診者の割合が倍増したと報告された。
3ヵ月間で医療機関受診者が倍増
新たに人工透析を導入する患者のうち、原疾患(透析導入の原因となった病気)が糖尿病腎症だった割合は43.8%でもっとも多い(2013年調査)。
人工透析に移行すると、週2~3回の通院が必要となり、患者のQOL(生活の質)が著しく低下するのに加え、医療費も年間1人当たり約500万円と移行前の10倍に上昇する。
そこで、埼玉県では特定健康診査やレセプトのデータを活用して、糖尿病が重症化するリスクの高い人(ハイリスク者)が人工透析に移行するのを防止するため、2014年度から「糖尿病性腎症重症化予防対策事業」を開始した。
市町村が事業主体となり、ハイリスク者のうち、医療機関未受診の方や治療中断している人に受診勧奨を、また、糖尿病で通院中の人に食事・運動などの生活指導を行った。
対象となったのは18市町の市町村国民健康保険の被保険者99万778人。2014年度には19市町で事業を開始、2015年度には11市町が加わり、現在は30市町で実施している。
まず該当者に医療機関への受診を勧奨する文書を送付し、その後で重症化が進んでいるとみられる人には電話や訪問による再度の勧奨を行った。
2015年1月から3月にかけて実施した受診勧奨者数のうち3,283人について、3月分までのレセプトデータを分析して医療機関への受診状況を確認したところ、受診したのは698人(21.3%)だった。内訳は、未受診者2,741人のうち611人(22.3%)、治療中断者542人のうち87人(16.1%)だった。
1ヵ月当たりの医療機関受診者の割合は、受診勧奨後の2015年1月から3月の3ヵ月間では月平均8.2%に上り、それ以前の6ヵ月間(月平均4.1%)に比べ、2倍の人が受診しており、受診勧奨の効果が認められた。
同県保健医療政策課「受診勧奨の通知文や案内パンフレットにより糖尿病の重症化リスクをしっかり伝えたこと、また、症状が重いと思われる人には電話などにより再度の勧奨を行ったことが成果につながった」と述べている。
透析移行を防止すれば34億円の医療費を削減できる
糖尿病は自覚症状なく進行するため、治療を受けないままにしておくと、糖尿病性腎症など重大な合併症を併発するほか、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こし、重症化すると多額の医療費がかかる。未受診者、治療中断者に医療機関を受診してもらうことが合併症の防止や将来の医療費適正化につながる。
埼玉県は、18市町の698人が医療機関を受診したことにより症状が維持された場合、治療を受けないまま合併症が進行した場合と比較した将来(20年間)にわたる医療費適正化効果を約10億円、年平均約5,000万円と推計している。
受診勧奨による医療機関への受診結果は、2015年5月分までのレセプトデータを分析する予定。また、2015年度に事業を開始した11市町については、7月から9月にかけて受診勧奨を実施している。
生活指導に関しては、18市町で生活指導の必要がある2,436人に対して参加案内通知を送付したところ、845人(34.7%)から参加申し込みがあった。参加者に対し、かかりつけ医と連携し、2015年6月から半年間、保健師等が食事や運動などの生活習慣を改善する支援を行っている。
18市町の845人に生活指導を実施したことにより症状が維持された場合、人工透析への移行を防止することで、将来(20年間)にわたり約34億円、年平均約1億7,000万円の医療費適正化効果を得られると推計している。
市町村担当者からは「勧奨の結果を受託事業者から市に速やかに報告してもらえれば、対象者からの相談に迅速に対応できる」「個人に対応した受診勧奨の文書内容であったため、受け取った方から大きな反響が寄せられた」という意見が寄せられたという。
今年度末の生活指導終了後には、参加者の糖尿病性腎症の進行状況や人工透析移行防止による医療費適正化効果などを取りまとめる予定。また、2015年度に事業を開始した11市町については、生活指導の必要がある方を選定中で、9月から生活指導を実施する予定としている。
事業の全県への拡大も目指しており、県保健医療政策課では「糖尿病の不安がある人は治療を放置せずに、一歩踏み出して、ご自身の健康を守りましょう」「医療機関を受診していない方は速やかな受診を強くお勧めします」「治療中断中の方は、近くの医療機関に相談しましょう」と述べている。
糖尿病対策に関する情報(埼玉県保健医療政策課)
受診勧奨の通知文や案内パンフレット(埼玉県)
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[ Terahata ]