HbA1c値が高いと心血管疾患(虚血性心疾患、脳梗塞、脳出血)の発症リスクが上昇することが、約3万人の日本人を対象とした調査で明らかになった。脳梗塞や脳出血は、HbA1c値が低い場合でもリスクが上昇することも明らかになった。
糖尿病があると心血管疾患のリスクは1.8倍に上昇
日本人3万人を対象に調査
「多目的コホート研究」(JPHC研究)は、1990年に始まった大規模で長期にわたる観察型の疫学研究。全国11保健所と国立がん研究センター、国立循環器病研究センター、医療機関などとの共同研究として、追跡調査が続けられている。
調査は、岩手、秋田、長野、沖縄、茨城、新潟、高知、長崎の保健所管内に在住しており、1998〜2000年度および2003〜2005年度に実施された糖尿病調査に協力した、2万9,059人を対象に行われた。参加者は、HbA1c値が分かっており、初回の調査時までに心血管疾患(脳卒中や虚血性心疾患)を発症していなかった。
HbA1cは過去1〜2ヵ月間の血糖値を反映する検査値で、6.5%以上が糖尿病の診断基準のひとつとしても採用されている。HbA1c値が高いということは、血糖値が慢性的に高いことを示している。
過去の研究では、糖尿病患者では心筋梗塞、脳梗塞などの心血管疾患の発症リスクが2〜4倍高いことが示されている。海外では、HbA1cが高いと循環器疾患の発症率が高くなることを示した研究が多く報告されているが、日本人を対象した研究は少ない。
研究チームは、糖尿病調査で測定したHbA1c値を用いて、「5.0%未満」「5.0〜5.4%」「5.5〜5.9%」「6.0〜6.4%」「6.5%以上」「既知の糖尿病」の6つの群に分けて、その後の心血管疾患、虚血性心疾患、および脳卒中のリスクとの関連を分析した。なお、2回の糖尿病調査に参加していた場合は、2つのHbA1cの平均値を用いた。
追跡期間中に、参加者のうち935件の心血管疾患が発生した。年齢、性別、居住地域、BMI、収縮期血圧、HDLコレステロール、 non-HDLコレステロール、喫煙歴、飲酒歴、身体活動を調整したうえで、心血管疾患リスクを計算した。
その結果、HbA1c 5.0〜5.4%を基準とすると、心血管疾患リスク(95%信頼区間)は、「5%未満」で1.50倍(1.15-1.95)、「5.5〜5.9%」で1.01倍(0.85-1.20)、「6.0〜6.4%」で1.04倍(0.82-1.32)、「6.5%以上」で1.77倍(1.32-2.38)、「既知の糖尿病」で1.81倍(1.43-2.29)にそれぞれ上昇することが明らかになった。HbA1cが高い群だけでなく、低い群においても心血管疾患リスクは上昇した。
心血管疾患を虚血性心疾患、脳梗塞、脳出血に分けて分析したところ、虚血性心疾患はHbA1cが高いほどリスクが高くなるのに対して、脳梗塞や脳出血ではHbA1cが低い群と高い群においてリスクが高くなっていることが分かった。
「低HbA1cの群で心血管疾患リスクが上昇していた理由は明らかではないが、高HbA1cに加え、低HbA1cも心血管疾患リスクのマーカーである可能性が示唆さた」と、研究チームは述べている。
随時血糖値を統計学的に調整することで血糖の影響を取り除いても、低HbA1c群における心血管疾患リスク上昇がみられた。HbA1cは赤血球の寿命が短縮したり、若い赤血球が血液中に増加したりすると、見かけ上低めに測定される。そのため、何らかの原因で、HbA1cが見かけ上低く測定されているために、低HbA1cの群で心血管疾患リスクが上昇していた可能性もあるという。
また、肝硬変、慢性腎不全などの状態では、実際の血糖値に比べて、HbA1cが低値を示すことが多い。今回の研究で肝機能障害(血清ALT高値)や腎機能障害(血清Cr高値)のある人を除いた解析も実施したが、やはり低HbA1c群で心血管疾患リスクは上昇していたという。ほかにも、低HbA1cは栄養障害の指標となる可能性があるため、摂取カロリーが低い人やBMIが低い人を除いて分析を実施したが、同様の結果が得られた。
多目的コホート研究(JPHC Study)(国立がん研究センター がん予防・検診研究センター 予防研究グループ)
[ Terahata ]