糖尿病の人が血糖コントロールが悪い状態がつづくと、がんの発症リスクが高まることが知られているが、糖尿病予備群の段階でがんのリスクは15%上昇することが、90万人を対象とした調査研究で明らかになった。
糖尿病予備群の段階から動脈硬化のリスクは上昇する
「糖尿病予備群」(prediabetes)は、糖尿病と診断されるほどではないにしても、血糖値が正常値よりも高い状態をいう。空腹時血糖値が高かったり(100mg/dL以上、125mg/dL以下)、1〜2ヵ月の血糖の平均値を示すHbA1cが高いと(5.7%以上、6.4%以下)、糖尿病予備群である可能性が高い。
日本では成人男性の12.1%、女性の13.1%が糖尿病予備群とされる。その数は、1997年には680万人だったのが、2012年には1,100万人に増えた。糖尿病予備群であると、将来に糖尿病を発症する可能性が高いだけでなく、心筋梗塞や脳卒中、腎臓病などの原因になる動脈硬化も進行しやすくなる。
今回の研究では、糖尿病予備群の人では、がんの発症も増えることが判明した。これらの病気を予防するためには、糖尿病予備群の段階で、食事を見直したり、体重増加や運動不足にならないように生活習慣を見直すことが必要となる。
健診などで糖尿病予備群と指摘されたら、軽く考えずに医師の指導を受けることが大切だ。
糖尿病予備群ではがん発症リスクが15%上昇
研究は、中国順徳第一人民医院のユリ ヒュアン氏らによるもので、欧州糖尿病学会(EASD)が発行する医学誌「ダイアベトロジア」に発表された。
世界中で計89万1,426人を対象に行われた16件の研究結果を分析したところ、糖尿病前症の状態にある人ではそうでない人に比べ、全がん発症リスクが15%高いことが判明した。
がんの部位別にみると、相対リスクは胃がんと大腸がんで1.55倍、肝臓がんで2.01倍、膵臓がんで1.19倍、乳がんで1.19倍、内膜がんで1.60倍にそれぞれ上昇していた。気管支・肺がん、前立腺がん、卵巣がん、腎臓がん、膀胱がんではリスクの上昇はみられなかった。
肥満になるとがんを発症するリスクが上昇することから、体格指数(BMI)を調べた研究のみを解析したところ、肥満のある糖尿病予備群では全がん発症リスクは22%高いことが分かった。
がんと糖尿病の原因は共通している
なぜ血糖値が高いとがんの発症リスクが上昇するのか、研究者は3つのメカニズムで説明が可能と解説している。いずれも加齢に伴い影響が大きくなる要因だ。
ひとつは、糖尿病予備群の段階で、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの効きにくくなる「インスリン抵抗性」が亢進しており、血中のインスリン濃度が高くなり、がん細胞の成長が促されるからだという。
また、「AGE」はがん発症に関わる物質として注目されている。AGEとは「終末糖化産物」、すなわち「タンパク質と糖が結合してできた物質」のこと。強い毒性を持ち、老化を進める原因物質とされている。血糖値が高い状態が続くと、AGEが体にたまりやすくなり、がんの発症を引き起こしている可能性がある。
さらに、過剰なカロリー摂取によって、がん細胞の増殖を抑える「がん抑制遺伝子」の作用が弱くなることも原因となっている可能性がある。
「糖尿病の有病者と予備群の数は世界的に増えています。糖尿病とがんを引き起こす要因は共通するものが多くあります。多くは生活スタイルを健康的に変えることで改善が可能です。糖尿病予備群の段階で糖尿病に対策することが、公衆衛生上の大きな利益をもたらします」と、ヒュアン氏は強調する。
なお、過去の研究では、糖尿病の治療薬としてもっとも多く使われている「メトホルミン」が、がんの発症リスクを約30%低下させると報告されている。
「メトホルミンは広く利用されている薬剤であり、がんの抑制に役立てられると期待できます。ただし、糖尿病予備群の段階でこの効果が得られるかを、大規模な研究で確かめる必要があります」と指摘している。
[ Terahata ]