腎臓の機能が低下する腎不全を防ぐために、血糖と血圧のコントロールが重要であることが、国際的な大規模研究「ADVANCE-ON試験」で示された。早期に積極的な治療を進めると、治療効果は長期にわたり持続する。
血糖コントロールを改善すると腎不全リスクが減少
糖尿病腎症が進行し腎不全になると、人工透析が必要になる。現在、透析を受けている患者数は、日本だけで31万人を超える。いかにして腎不全に進展しないように抑えるかが、糖尿病腎症患者のQOLを改善する鍵となる。その光明となる研究が「第50回欧州糖尿病学会」で発表された。
20ヵ国215施設で実施された大規模研究「ADVANCE試験」は、心血管疾患リスクのある55歳以上の2型糖尿病患者1万1,140人を対象に2001年に開始された。
ADVANCE試験では、5年間近く薬物療法で血糖コントロールを強化することで、腎症の発症や悪化が減少し、さらには死亡リスクも抑制されることが示された。ACE阻害剤と利尿剤の組合せによる血圧治療を受けた患者は、死亡と心臓イベントのリスクが低下することも明らかになった。
ADVANCE試験の終了後に開始された「ADVANCE-ON試験」は、ADVANCE試験に参加した患者のうち8,494人について追跡調査した研究。強化療法で血糖コントロールを改善した患者では、通常療法に戻ってから年月がたっても、腎不全のリスクが減少しているかを調べた。
英国で実施された「UKPDS試験」では、糖尿病と診断されたら、早期にしっかりと治療すると、治療効果が長年にわたって持続され、心筋梗塞や全死亡が減少することが確かめられた。
この効果は「レガシー効果」と呼ばれており、糖尿病の治療を早期から強力に行うことで、糖尿病の合併症を減らせることを示す根拠となっている。今回の研究は、レガシー効果がADVANCE試験に当てはまるかを調査したものだ。
強化療法は腎臓に対して長期的な恩恵をもたらす
ADVANCE-ON試験に参加した患者は、ADVANCE試験で強化療法が行われ、その後はかかりつけ医による通常の診療を受けた。調査期間は約5年間(ADVANCE試験含めて追跡期間は9.9年)だった。
ADVANCE-ON試験終了時にもっとも多く用いられていた薬剤はメトホルミンであり、続いてインスリン、SU薬が多く使われた。
その結果、強化血糖値管理が通常療法に戻ってから5年の年月がたった後でも、腎不全の継続的な減少につながることが確かめられた。腎不全のリスクは強化療法群で標準療法群に比べ46%減少していた。
「強化療法は腎臓に対して大きな長期的な恩恵をつくりだします。2型糖尿病患者の腎臓を保護するために、積極的で効果的な血糖コントロールが重要であることが強く示されました。血糖と血圧のコントロールを積極的に行えば、心臓の安全に危険を及ぼさずに腎臓保護の面でかなりの恩恵を得ることができます」と、研究のディレクターであるジョージ国際保健研究所のソフィア ゾウンガス准教授は述べている。
ADVANCE試験は、オーストラリア国立保健医療研究審議会(NHMRC)、英国心臓財団、英国糖尿病学会などから資金提供を受けて行われた。
[ Terahata ]