糖尿病の治療は進歩しており、糖尿病とともに生きる人が長生きすることは珍しくなくなった。しかし、歳をとるにつれて治療のやり方を変えていく必要があるかもしれない。より健康でいられるために、良い方法がある。
60歳以上の3人に1人が糖尿病か糖尿病予備群
「2型糖尿病は、現在は若い人の発症も増えていますが、以前は高齢になってから発症することが多く、“成人病”と呼ばれていました。どの年齢の人であっても糖尿病を発症するリスクはありますが、現実には60歳以上の3人に1人以上が糖尿病か糖尿病予備群で、糖尿病は高齢者に多い病気です。歳をとると体の糖代謝の機能が衰えてくることが原因です」と、テキサス大学医学部準教授のブライアン タラク氏(内分泌内科)は話す。
「糖代謝」とは、食事として摂取したエネルギーを体の臓器が消費し、余分のエネルギーを蓄え、必要なときに利用する仕組みだ。食事をとると、食物から吸収されたグルコース(糖)が血液中に流れ込み、膵臓から分泌されるインスリンによって、エネルギーは各臓器に届けられる。
加齢にともない糖尿病の発症が増える背景として、老化のプロセスが関わっていることが挙げられる。加齢に伴い膵臓の機能が低下し、インスリン分泌が少なくなる。最初に食後の追加分泌が低下し、食後血糖値が上昇しやすくなる。
また、筋肉量が減り、脂肪の割合が増加することで、インスリンに対する反応性が低下する(インスリン抵抗性の増大)。
主治医機能とチーム医療で糖尿病に対策
歳をとるにつれ、高血圧や脂質異常症、心臓病などの発症リスクは高まる。高齢の糖尿病患者がそれらの病気を併発することは多い。病気の数が増えていくと、それに応じて治療は難しくなる。
「糖尿病と高血圧など、複数の病気を併せてもっているなら、それぞれの病気の治療計画も増えることを意味します。ひとりの患者を総合的に診療する主治医(かかりつけ医)が、医療チームとともに、総合的に対応するのが合理的です」と、タラク氏は話す。
主治医が継続的な服薬の指導や健康管理を行い、必要な時にいつでも患者と連絡がとれ、適切な指示を出せるようにし、必要なときは専門医にも紹介できるような体制づくりが必要だという。
数種類の治療薬を服用していると、薬物の作用が増強したり減弱化する、あるいは新たな副作用が生じるなど、「相互作用」が起こる可能性がでてくる。主治医が患者が服用している薬を把握していれば、相互作用を防ぐことができる。
主治医は生活面でもさまざまなアドバイスをしてくれる。例えば腰痛や関節症など運動器に障害があり通常の運動プログラムに参加するのが難しい患者に、より取り組みやすい運動を処方することも可能になる。
血糖降下薬やインスリン製剤の副作用に低血糖がある。低血糖は高齢の人や、食事摂取量がいつもより少なかったり遅れた場合、いつもより長く運動した場合、退院直後や腎不全を合併している人などにみられる。
ふらふらして気が遠くなる感じ、力が入らない感じなどの低血糖の症状は、ほかの病気や、高齢者にみられる症状に似ている。糖尿病治療薬を処方されている患者自身も低血糖を念頭に入れておき、主治医とよく相談しておくことが必要だ。
次は...糖尿病の治療を続ければ合併症を予防できる
糖尿病の治療を続ければ合併症を予防できる
血圧やコレステロールのコントロールと同じように、良好な血糖コントロールを維持することで、将来に糖尿病合併症を発症するのを防ぐことができる。
「糖尿病の治療には、すべて科学的な裏付けがあります。続ければ必ず大きな成果を得られます。主治医は、治療ガイドラインに合わせて、あなたに食事療法や運動療法、薬物療法に取り組むよう指導します。それらを実行すれば、合併症を高い確率で防げることが、多くの調査研究で確かめられています」(タラク氏)。
毎日のわずらわしい生活の中で、食事や運動に取り組むために、多くのことを学ばなければならないし、時間と辛抱強さが求められる。インスリン療法を行っている患者にとっては、指を穿刺して採血する血糖自己測定(SMBG)も行わなければならない。
「良い血糖コントロールを保つことで、糖尿病網膜症や腎臓病、神経障害などの合併症を40%減らすことができます。これに血圧コントロールが加われば、心臓病のリスクを33%、脳卒中のリスクを50%、それぞれ減らすことができます」と、タラク氏はアドバイスしている。
体のコンディションを良くすることは、例えば骨粗鬆症の予防など、糖尿病以外のことにも有用だという。糖尿病の治療は、健康的な生活を推進することを意味しているので、「治療を続けることで、糖尿病でない同年配の人よりもむしろ健康的になった」という人は珍しくないという。
合併症は少しずつ進行する 毎日の自己チェックが重要
毎日の自己チェックは、糖尿病を原因とする足病変を治療し予防する「フットケア」ではとりわけ重要だ。
糖尿病患者の足病変(潰瘍・壊疽)は、血糖コントロール不良にともなう神経障害、血流障害、感染症などが関連し起こる。米国疾病予防管理センター(CDC)は、眼科医の受診や腎臓病の検査を受けるのと同じように、足のチェックを定期的に行うことを勧めている。
靴に覆われた足は、靴ずれや胼胝(たこ)、水虫などのトラブルを起こしがちだ。日常生活で足に気を使うことはあまり多くはないが、糖尿病を発症すると、足の手入れと早期発見と早期対処が非常に重要になる。もしも足に水ぶくれや切り傷などが起きている場合は、早く治療しないと大きな問題に進展するおそれがある。
また、腰痛や関節痛が起きている場合は、思った通りに買い物に出たり料理をするのが難しくなり、理想から遠い不健康な食事しかできなくなるかもしれない。あるいは、糖尿病網膜症のために視力が低下し、薬のラベルや血糖測定器が表示する検査値を読みとれなくなるおそれもある。
「食事療法や運動療法、薬物療法を続けるを難しくする問題を抱えている場合に、すぐに相談できる相手をもつことは重要です。医師に相談できない場合は、看護師や療養指導士に話してみてください。また、ご自分の気持ちを伝えられる家族や友人、患者会などの身近な人々は大きな支えになります。低血糖が起きたときも、家族の適切なサポートが必要です」。
「必要なときに、適切な支援を得ることで、あなたは自分自身で糖尿病をより良くコントロールできるようになり、より健康的な生活をおくれるようになります。そのために、協力を得られる人が周囲にいることが重要です」と、強調している。
Diabetes In Older People―A Disease You Can Manag(米国国立老化研究所 2014年2月13日)
2011 American Society of Consultant Pharmacists (ASCP) Annual Meeting and Exhibition(Annals of Long Term Car 2012年1月16日)
[ Terahata ]