世界の人々の健康を脅かすもっとも大きな要因は、1990年当時は栄養失調による子どもの低体重や感染症だった。だが、この20年で生活習慣病を抱えながら長生きする人が増えた。2010年は高血圧が最大の要因になったことが、日本を含む国際チームの研究で分かった。この傾向は途上国でも進展しており、今後は不健康な食生活や運動不足への対策を中心とした保健医療政策が世界規模で求められる。
この研究は、日米英豪の大学と世界保健機関(WHO)が中心になり、世界187ヵ国を対象に死亡や病気のデータを解析したもの。日本からは東京大の渋谷健司教授(国際保健政策学)や川上憲人教授(公共健康医学)らが参加した。
生活習慣や環境汚染などのリスク因子で、各国の人々の死亡が早まったり健康を損ねたりして失われた年数を計算し、病気による社会的な負担を計算した。論文は英医学誌「ランセット」に発表された。
寿命が延びて生活習慣病は増えた
2010年の世界平均寿命は、男性67.5歳、女性73.3歳で、1970年と比べ男性で11.1歳、女性で12.1歳延びた。特に途上国が顕著で、インドなど南アジアは平均寿命の延びは顕著だった。2010年の時点で世界でもっとも平均寿命が長かったのは日本人女性(85.9歳)とアイスランド男性(80歳)だった。
一方で、がんや心疾患、糖尿病などの慢性疾患を誘引するリスク因子の負担は増加している。世界の死者数に占めるがんや糖尿病、心臓疾患などの非感染性疾患による死者の割合は、1990年の半分から、2010年には3分の2近くまで増加した。
「生活習慣病を予防・改善しないと、平均寿命は延びていても、そのうちで健康に過ごせる期間は短くなる」とインペリアルカレッジロンドンのマジッド エザッチ教授は言う。
2010年に世界でもっとも多くの死者を生んだ健康リスク要因は高血圧(940万人)と喫煙(630万人)、飲酒(500万人)だった。2010年に1位になった高血圧による負担の程度は1990年に比べて27%増えた。6位の肥満は82%、7位の糖尿病(空腹時高血糖)は58%と、それぞれ急増している。
寿命を縮めるリスク要因では、1990年に比べ2010年は、肥満は10位から6位に、糖尿病は15位から9位に、高血圧性心疾患は18位から14位、慢性腎臓病は27位から18位に、それぞれ順位を上げた。生活習慣病が軒並み順位を上げた一方で、結核やマラリアといった感染症や、栄養失調などは順位を下げた。
いまから始められる生活習慣病対策
高血圧は、塩分をとりすぎる食生活が原因のひとつになっているが、南アジアのように遺伝因子の影響が大きい地域もある。欧州や北米、日本などでは、高血圧は脳卒中などの死亡リスクの高い病気の原因になっており、薬物療法を受けている患者の割合は高い。
高血圧により死亡が早まった数は世界で940万人に上り、病気により失われた年数を示す障害調整生存年(DALY)の7%を占める。高血圧の次に多い喫煙による死亡数は630万人で、DALYの6.3%に上る。
調査を行った研究者らは、「これまで感染症対策を重点にしていた保健政策を見直し、健康維持も重視した保健医療に転換すべきです」と呼びかけている。
「良い知らせもあります。高血圧や糖尿病などの生活習慣病のリスクを減らすためにできることはたくさんあるということです。高血圧による負担を減らすために、食事の塩分をコントロールし、体に良い果物や野菜を利用しやすると効果的です。一次医療サービスを充実させることも必要です」とエザッチ博士は述べている。
Blood pressure, smoking and alcohol: the health risks with the biggest burden(インペリアルカレッジロンドン 2012年12月13日)
[ Terahata ]