日本ではまだ耳慣れない用語だが、「シリアスゲーム」という言葉をご存知だろうか? コンピュータゲームは子供が遊ぶものとされるが、医療や保健政策などの深刻(シリアス)な分野での教育やトレーニングの支援ツールとして役立てようという考え方で、国内外でさまざまな試みが始められている。
シリアスゲームは日本でも、川島隆太・東北大学加齢医学研究所教授が監修した携帯ゲーム機器向けのゲームなど、ヒット商品がある。糖尿病では、昨年発売された糖尿病患者向けソフト「
からだサポート研究所 糖尿病編」が知られる。このソフトは渥美義仁・東京都済生会糖尿病臨床研究センターセンター所長が監修し
た。
米国ではコンピュータゲームをより積極的に医療や保健指導に活用していこうという動きがみられる。生活習慣病など慢性疾患の治療や予防は患者が自己管理することが必要となるが、情報格差や教育が困難であるなどの問題がある場合に、問題解決のひとつの手段としてゲームが期待されているよう
だ。
2型糖尿病の予防をテーマとしたゲーム「Escape from Diab」
子供の教育を目的としているが、途中で飽きて投げ出すことがないよう、シナリオや登場するキャラクター造形にも嗜好を凝らしてあり、本格的な内容になっている。
米国で「Escape from Diab(糖尿病からの脱出)」という糖尿病予防をテーマとしたゲームが開発されている。まだ完成版はできていないが、試験版の動画をホームページで見ることができる。若者や子供が健康的な食事や運動など生活習慣の改善を学習できる内容で、開発するにあたり米国立糖尿病・消化器病・腎疾患研究所(NIDDK)より900万ドルという助成金が交付されている。
このゲームは、SFの世界でのアクションや冒険を通じて食生活や運動の大切さを学ぶことができる内容で、栄養学や公衆衛生学の専門家、糖尿病専門医などが協力し、行動科学の理論を適用し制作されている。
米国で子供や若者の2型糖尿病が増えている。食事のエネルギー量のバランスや身体活動を改善すれば、2型糖尿病や肥満のリスクを減らすことができるが、そのために適正な知識をもとに行動変容を促し、子供に自分で意思決定し健康的な生活習慣を選ぶことを教える必要がある。
このゲームで遊んだ子供が食事や運動などをどれだけ改善できたかを実証するために、10歳から12歳の子供約200人を対象とした4ヵ月の試験が昨年開始された。ゲームを開始する前後の身長や体重、腹部周囲径、エネルギー摂取量や栄養素、1日の運動時間などの変化の他に、食事内容、食品の好み、食事で何を期待できるかという目的意識、健康的な生活をおくるための意欲や障害を克服するための方法など、社会心理学的な調査も行うという。
調査のリーダーで心理学者でもあるベイラー医科大学小児栄養研究センターのThomas Baranowski教授は「健康的な食事と運動を習慣化するために、学齢期の子供の時期から行動変容を学ぶことが重要となる。こうしたマルチメディアを利用したゲームが有用である可能性がある」としてい
る。
ベイラー医科大学小児栄養研究センター
米国立糖尿病・消化器病・腎疾患研究所(NIDDK)
[ Terahata ]