脳卒中や心筋梗塞などの循環器疾患を今後の10年間に発症しない可能性がもっとも高いのは、「喫煙しない、節酒、適正体重」の人であることが、厚生労働省研究班の調査推計であきらかになった。
この研究は、厚生労働省研究班「多目的コホート研究(JPHC研究)」(主任研究者・津金昌一郎国立がんセンター予防研究部長)によるもので。米医学誌「Preventive Medicine」電子版に発表された(2008年11月)。
調査対象となったのは沖縄、茨城、新潟、高知、長崎、沖縄の9保健所管内に住む40〜69歳の約9万6000人。生活習慣のうち、がん発症と関連が深い3つの要因(喫煙、飲酒、肥満度(BMI))に着目し調査した。1990年と93年に生活習慣に関するアンケートを行い、約10年追跡した。
調査開始時のデータから、喫煙は1日当たりの本数により4グループ、飲酒は回数と1週間当たりの量によって5グループ、身長と体重からBMI(肥満度)を算出して7グループに分け、年齢は5歳ごとに区切って6階層に分けた。約10年の追跡期間中に5797人ががんと診断され、2591人が循環器系疾患を発症した。
分析の結果、10年間にがんか循環器疾患を起こすか、死亡する可能性がもっとも高いのは、男性は「1日40本以上喫煙、週に300gエタノール(日本酒2合相当)以上の飲酒、BMI30以上」、女性が「喫煙、同1合相当以上の飲酒、BMI30以上」であることが分かった。
10年間に循環器疾患を発症する人の割合(男性)
厚生労働省研究班「多目的コホート研究(JPHC研究)」(2008年)
例えば、50〜54歳の男性で、1日にたばこを40本吸い、週にお酒を日本酒2合相当以上飲み、BMI30以上の肥満というもっとも不健康な条件が揃っていると、もっとも健康な条件が揃っている人に比べ、10年間に脳卒中や心筋梗塞などの循環器疾患を発症する割合は4.8倍に、がんは2.8倍に達する。また、循環器疾患やがんにならないで生存している割合は81%にとどまる。
リスク要因のうち健康的な要素(喫煙しない、飲酒は時々、適正体重)が1つでも増えると、循環器疾患やがんになる割合は低くなる。研究では、がんと循環器疾患では発症の割合を減少させる効果はリスク要因で異なり、がんでは喫煙と飲酒の効果が、循環器疾患では喫煙と肥満の効果が大きいことが示された。
研究者らは「がんと循環器系疾患を減少させるには、まず禁煙・節酒の健康政策を推進し、その次に対象者を肥満度の高い集団に絞って肥満度を下げる政策をすすめることが、より効果的な予防につながる」としてい
る。
10年間に循環器疾患を発症する人の割合(男性)
多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究(JPHC Study)
[ Terahata ]