文部科学省所管の科学技術振興機構(JST)は、糖尿病合併症を早期発見するための診断キットを開発するのに成功したと発表した。開発したのは、糖尿病の初期から血液中に増加する「終末糖化産物(AGEs)」を診断材料として利用する技術。
糖尿病診断キット
糖尿病の治療で、血糖コントロールの良し悪しを調べる検査
*として「HbA
1c(ヘモグロビンA
1c)」がもっとも多く用いられている。HbA
1cは、赤血球中のヘモグロビンという蛋白のうち、糖と結合しているヘモグロビンの占める比率を表す。赤血球の寿命は120日と短いので、検査の時点から過去1〜2カ月間の血糖状態を反映する。
一方、「終末糖化産物(AGEs)」は、蛋白質と糖が反応して最終的に生成される物質で、活性酸素をつくり、糖尿病合併症を引き起こし進展させる原因のひとつと考えられている。AGEsの蓄積量を調べれば糖尿病合併症を早期発見でき、進行度が分かるが、検出が難しいので現状では診断などに用いられていない。
この研究開発で、井上浩義・慶應義塾大学医学部教授らは、AGEsを抗体ではなく一本鎖塩基である「DNAアプタマー」を用いて認識させることで、糖尿病の初期段階から容易に診断するのに成功した。さらに、その診断方法をもとに血中AGEs測定キットと組織AGEs染色キットを開発した。
これらを使って、体の中でAGEsを作らせない物質(AGEs生成阻害物質)や、すでにできてしまったAGEsに結合して分解を速める物質(AGEs結合物質)を抽出し、天然素材によるAGEs吸着食品素材・成分なども開発。今後は機能性食品、化粧品、化成品などへの利用も期待できるという。
科学技術振興機構は産学連携事業の一環として、大学・公的研究機関などの研究成果をもとにした起業のための研究開発を推進している。今回の研究成果をもとに10月に大学発ベンチャーである「株式会社いぶき」を設立した。開発した診断キットの5年後の保険適用を目指している。
* 糖尿病の検査
日本の糖尿病患者数は増え続けており、2006年の調査によると「糖尿病が強く疑われる人」は820万人、「糖尿病の可能性が否定できない人」は1050万人に上る。
それにともない糖尿病の検査も増加しており、「HbA1c」の検体件数は2000年には400万件程度だったが、2007年には倍以上の840万件に増えた。糖尿病腎症の診断に用いられる「尿中アルブミン」の検体数も、2007年には2000年の3倍以上に増えた。
科学技術振興機構(JST)
診断と予防で糖尿病患者のQOL向上に貢献するベンチャー企業設立(プレスリリース)
[ Terahata ]