一般社団法人 日本糖尿病・妊娠学会

会報 2004 November Vol.6 No.2

【巻頭言】
「妊娠前から耐糖能低下が存在した可能性も除外しない」を除外する一方策

濱田 悌二
社会保険久留米第一病院名誉院長/久留米大学客員教授

 妊娠糖尿病(GDM)の定義づけは、長い年月を経てかなり様変わりをしてきた。ただ、基本的概念として、妊娠によって生じた母体の特異な糖代謝異常に起因する病態の呼称であることは変わりはない。それゆえに、妊娠前に糖尿病を持つものとは区別しておきたいとする基本は、いまも貫かれているものと考える。

 さて、妊娠糖尿病の概念<定義>について、現在、わが国で用いられているものは、1999年の日本糖尿病学会委員会勧告(糖尿病、42巻、385ページ)に示されたものである。これは、日産婦学会専門委員会指針とも同じく、いずれも第4回国際GDMワークショップ勧告を尊重して提言されたものであることから、本来、その意図するものに違いはないと受け止めるべきものであるが、その文言の解釈には研究者間で差が見られる。とは言え、この勧告(指針)が示されたことで、漸く医師国試に妊娠糖尿病が取り上げられた意義は大きい。

 問題となる上記の文言であるが、それは、妊娠糖尿病の定義の中に「妊娠中に発症または初めて発見された耐糖能低下を指す」に続いて「妊娠前から耐糖能低下が存在した可能性も除外しない」とし、「耐糖能低下の程度は問わない」とされている点である。このため、明らかに妊娠前から糖尿病を持つ女性が、偶々、妊娠中に診断されただけでGDMに含まれることになる。

 定義は誰にでも理解できるよう明快であることが肝要である。さらに、人種差、地域特性の影響を受けるとしても、国際的統一性も保たれる方が望ましい。

 話は変わるが、現在、わが国は少子化に苦しんでいる。出生数がブーム時の半数以下の110万を割ることさえ、時間の問題という気配がある。残念なことではあるが、悪いことばかりでもない。

 現状でのわが国の妊婦管理は、相当綿密な精度と普遍性をもって実施できる能力を持つと信じてよい。12週未満の妊娠初期に、母体合併症としての糖尿病の有無を、わが国の全妊婦にわたって明らかにしておく試みはいかがであろうか。完璧にとはいかないにしても、それに限りなく近く実行できる可能性は、わが国の社会環境、医療環境上の能力として備えていると考えて良いのではないであろうか。妊娠前に試みることはいま一歩としても、妊娠初期に、正常妊婦か、糖尿病か、または軽度の耐糖能異常妊婦かを診断区別することは、いまや不可能ではないように思われる。要はそのシステム化を進める意思の有無にかかっている。妊婦管理の担い手であり、かつ、GDMの定義にも責任のある産科医によって、これを達成してみることはできないものであろうか。そうすれば、妊娠糖尿病の定義上、混乱のもととなる「妊娠前からの耐糖能低下の存在する可能性」についての分析は詳細となり、実質的にこれを除外することができる。そうすれば、この話題に対して、我々の国際的な提言力もまた大きくなる。

 1960年初頭から、妊娠と糖代謝を見続けてきたものとして、本学会の若い会員諸氏のこれからの活躍に夢を託したい。

理事長コメント

 妊娠糖尿病の定義に関して、日本糖尿病学会では2型糖尿病が多い本邦の特徴を考慮して、「糖尿病型を呈するものはGDMと区別する」と書かれている。一方、日本産科婦人科学会の定義は、1型糖尿病が多い米国のADA(アメリカ糖尿病学会)で1997年に発表されたものと同じである。この差異が常に議論の焦点になっている所であり、厳密には二つの学会は同じコンセンサスを得ていないといえよう。そのため、「妊娠初期に糖尿病の有無を明らかにする」という濱田悌二先生の実質的な提案は、今後の一方策として重く受け止めたい。

大森賞を受賞して

菊池 透
新潟大学大学院医歯学総合研究科小児科学分野

 この度は、大森賞を賜り厚く御礼申し上げます。非常に光栄に存じます。受賞した「肥満小児における出生体重と高インスリン血症・インスリン抵抗性との関連」に関する研究は、内山聖教授のご指導のもと、教室の内分泌グループおよび研修医の先生方のご協力の賜であり、ここに深く感謝致します。

 本研究は、低出生児ほど糖尿病、高血圧などの生活習慣病のリスクが高いというBaker理論に興味をもったことから始まりました。この理論は、今後の人類の存続を左右するであろう生活習慣病の起源が胎生期にあるということを示しており、小児科医としてこの大きな健康問題の解決に対して何かお手伝いできるのではないか。と考えました。当教室では、以前より小児の血圧に関する研究が行われていたので、まず、日本人健常小児での血圧と出生体重の検討を行いました。結果は、Baker理論の通り出生体重と血圧は負の関連を認めました(Acta Peadiatrica 85:132, 1996)。

 その後、肥満小児の著増が問題になり、小児肥満がその後のあらゆる生活習慣病の起源と考えられてきました。小児科医として小児肥満対策が急務となり、その一環として肥満小児と出生体重との関連を検討しました。肥満小児では、種々の合併症は内臓脂肪蓄積およびそれに引き続く高インスリン血症と正の関連がありますので、負の関連が予測される出生体重と重回帰分析で検討しました。解析の結果、内臓脂肪蓄積の指標である腹囲、最大腹膜前脂肪厚とは独立して、出生体重はインスリン、HOMA-R と負の関連があることを認めました。この結果は、肥満小児でも出生体重が生活習慣病との関連があることを示しており、健全な妊娠出産がすべての小児の生涯の健康にとって重要であることを示していると考えられました。すなわち、本学会の活動が人類の健康に寄与することを、改めて認識した次第です。

 諸先生方のご期待に沿えるように、今後も小児生活習慣病に関する研究を続けていきたいと存じます。

診察室だより 北から南から

医療法人青木医院

青木 かを里

 青木医院は茨城県水戸市にあるベッド数14床、年間出産数350程度の有床診療所です。昭和36年に義父が産婦人科として開業し、平成8年から主人(産婦人科)と私(内科)も一緒に診療をしています。当院で生まれた方が当院でパパやママになったり、内科に通院中の方のお孫さん、曾孫さんが生まれたりということもよくあり、地域の家庭医として診療に当たっています。いつもこのニュースレターに紹介されているような大きな病院ではありませんが、東京女子医大糖尿病センターで勉強させていただいたお陰で内科も糖尿病の患者様が増え、看護師、助産師、管理栄養士も糖尿病治療に積極的になって、勉強会に参加したり糖尿病療養指導士の資格を取ったりするようになりました。

 本来ならばリスクの高い糖尿病合併妊娠は、総合病院でのお産が安全だと考えており、当院からも周産期センター等にご紹介させていただいている例もありますが、幸い地域病院やこども病院の先生方のご協力があり、また他院からご紹介いただくこともあって、1年間に6〜10名のインスリン管理が必要な妊婦さんが出産、1型糖尿病合併妊娠もこの6年間で7例、経験させていただきました。(大森安恵先生や佐中眞由実先生にはいつもご相談に乗っていただき大変感謝しております。)

 私と主人の診察室は扉1枚ですぐ行き来ができるため、私が産科の診察に立ち会うことも簡単で、また病室の上階が自宅なので夜間のお産も妊婦さんと一緒に頑張ることができ、コミュニケーションは取りやすいと思います。産後もご自分の検診を兼ねてお子さんを連れて遊びに来てくれたり、ときには医師としてではなく母親同士の会話(子育ての愚痴など)を楽しんだりすることもあり、開業医ならではのやりがいを感じます。これからも医療のレベルを落とさないためにこの学会で勉強させていただき、満足できるお産のお手伝いができればと思っています。

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