一般社団法人 日本糖尿病・妊娠学会

会報 2003 October Vol.5 No.2

【巻頭言】
血糖自己測定と妊婦の糖尿病管理

池田 義雄
タニタ体重科学研究所 所長

 昭和40年から糖尿病臨床と取り組むようになった。10年を経た頃、診療している1型糖尿病の予後が極めて悲惨なものであることを実感させられていた。当時のインスリン注射療法はレンテインスリン(現在の中間型インスリンに相当)の1日1回投与が中心で、在宅治療に際しては、尿糖測定がすすめられていた。しかし、多くの症例が数年の経過で合併症を来たし、1型糖尿病の治療はお手上げとも言える状態であり、特に糖尿病婦人の妊娠、出産は極めて困難であることが常識的であった。

 尿糖から血糖へ:このような中で、アメリカのマイルス社(エームス事業部)により dry chemistry system による簡易血糖測定法が開発され、1974年小型化された Dexter(デキスター)が簡易血糖測定を実用化させるに至った。

 この頃、所属していた内科の糖尿病専門外来には若年発症糖尿病症例が、既に80名を超えていた。これら若年者の糖尿病管理の質を高める上で、「尿糖から血糖へ」という自己管理法への革新について、デキスターはそれを可能にしてくれた。

 糖尿病でも安全な出産:糖尿病と妊娠に関する臨床経験で忘れられない1例が、M.S さんであった。彼女は24歳で初回妊娠、7ヵ月目にケト・アシドーシスを伴って糖尿病を発症し、妊娠中毒症を併発するとともに死産をするに至ったという辛く、悲しい経験を持っていた。

 2型糖尿病だった M.S さんは、その後熱心な治療下で空腹時血糖を120mg/dl 以下に維持し、「今度こそは元気な赤ちゃんを産みたい」という本人並びに家族の希望のもと、2回目の妊娠に至った。既に1976年からの血糖自己測定(SMBG)に関する試験的研究でよい結果を得ていたのを踏まえて、M.S さんには妊娠4ヵ月目から SMBG を指導した。

 その後妊娠月数が進むにつれて血糖上昇が認められるようになり、妊娠6ヵ月目からインスリン注射が開始された。この際目指した血糖コントロール値は空腹時血糖80mg/dl 以下、食後140mg/dl 以下。これを目標にした M.S さんの場合、当初6単位でスタートしたインスリンは28単位まで増量され、出産のための入院まで2週間に1回の外来通療下での管理が続けられた。そして38週、経膣分娩下で何の障害もなく目出度く女児を得た。

 1979年、この症例も含めて SMBG を導入した5名の妊娠・出産管理成績を報告した。同じ年、英国からも、また米国からも糖尿病婦人における妊娠・出産管理に向けての SMBG 導入が極めて有用であることが明らかにされた。

 研究会スタートの原動力:第1回の「糖尿病と妊娠に関する研究会」(当学会の前身)は、1985年12月7日に開催されている。このような研究会をもつべきではないかということを大森安恵先生(現・当学会理事長)にお話したのは、その前年のことであった。既に始まっていた「血糖の自己測定と糖尿病の管理シンポジューム」では、糖尿病婦人の妊娠管理に際しての SMBG の有用性が取り上げられていた。そして、SMBG の導入による若年発症糖尿病の管理が円滑に出来るようになることで妊娠症例の増加も予測された。更にはこれらが契機となって、いわゆる妊娠糖尿病についての関心も急速に高まってきたことを踏まえて、妊娠に特化した糖尿病に関する研究会の必要性が考えられたのである。

 研究会としてのスタートから、明年は第20回を迎えることになる。研究会から学会へと進化した中で、糖尿病と妊娠に関する疫学・病態生理・診断・治療・管理の全てにおいて著しい進歩と発展のみられたことは御同慶の至りである。このような状況を導く端緒となった SMBG 研究を振り返りつつ、これを本号の巻頭言とする。

診察室だより 北から南から

千葉県 JFE健康保険組合川鉄千葉病院

佐々木 憲裕(内科)

 当院は、JR蘇我駅の前にある病床360床の病院で、私の専門は代謝内分泌(とくに脂質代謝)です。内科受診の患者さんの25%が糖尿病を有しており、糖尿病の患者さんを多く診ている関係で、産科より妊娠糖尿病や肥満の患者さんが紹介されてきます。

 2001年度の分娩数は615例で、10例が妊娠糖尿病(1.6%)、1例が糖尿病合併妊娠でした。

 妊娠糖尿病の確定は、原則として75gブドウ糖負荷試験(日本産科婦人科学会の診断基準)で行います。診断が確定すると、まず外来で食事療法と血糖自己測定を教育し、血糖のコントロールが不良な場合は、入院にてインスリン導入をいたします。

 食事療法は、一般には標準体重1kg 当たり30kcal で行い、妊娠の月数に応じて150kcal から350kcal を上乗せするように言われていますが、かえって肥満を助長するようなので、私はカロリーの上乗せはせず、逆に肥満の妊婦さんでは、標準体重1kg 当たり25kcal とし、場合により1日1200kcal 程度にすることもあります。低カロリーでの児への悪影響はありません。肥満による無月経のため、1日1000kcal 以下の半飢餓療法中の患者さんが、妊娠に気がつかず数か月経っていた症例でも、児には問題ありませんでした。

 妊婦さんは血清コレステロール値が300mg/dl 程度の高脂血症を示すことが多くみられますが、肥満や糖尿病で食事療法を行っている妊婦さんには、高脂血症がみられません。一般に、妊婦さんはカロリー過多ではないかと感じております。

 今後、妊娠糖尿病の患者さんはますます増加してくると思われます。妊娠糖尿病の症例を減らすためには、小児期からの食事療法の介入が、国家レベルで行われる必要があると感じています。

静岡県 静岡赤十字病院

村上 雅子(内科部長〈内分泌代謝科〉)

 静岡赤十字病院は、JR 静岡駅近辺の官庁街に位置する、病床数540床、1日平均外来患者数1,700名の総合病院です。当院は、市内の四つの主な病院の一つとして地域高度・専門・救急医療を担っております。

 しかし糖尿病、内分泌代謝領域においては、数年前から浜松医科大学第二内科からスタッフが赴任する中、4年前、私が赴任する以前は、専門医が不在の状態でした。このため、妊娠糖尿病はもとより糖尿病教育ですら、教育入院が専門に行われる主な病棟が当初はなく困りました。

 そこで、患者教育・治療のため、チーム医療による教育入院の有用性・必要性をスタッフに繰り返し講議し、ようやく院内の方々の理解を得て参りました。また、通院中の糖尿病合併妊娠症例、糖尿病患者さんにも、さまざまなパンフレットを使っての指導や、スライドを使った講義を毎週行いました。

 以来、産婦人科からの依頼で、当初は糖尿病合併妊娠例の治療と教育に始まり、更にはこれまで注目されることなく専門的治療は行なわれずにいた妊娠糖尿病例の紹介が増加し、教育入院も行うことができるようになりました。その結果、現在では産科の先生方のご理解を得て、妊婦検診には、検尿に加えて血糖測定を追加していただき、妊娠糖尿病疑い例には OGTT を施行、日本産科婦人科学会の判定に従い妊娠糖尿病と診断し、その後、当科で教育加療する方針に至りました。

 現在通院中の約1500〜1600名の糖尿病患者さんと共々、13名(12名はすでに分娩、1名のみ現在外来通院中)の妊娠糖尿病患者さんにも喜んでいただけるようになり、多くの患者さんをはじめ地域の先生方のご意向にも応えられる、患者教育のチーム医療の充実・発展に努めております。

 今後はさらに、専門医療を行う地域の中核病院の一つとしての責務を担って行けるように力を尽くしたいと、日々努力している毎日です。

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