一般社団法人 日本糖尿病・妊娠学会

会報 2001 December Vol.3 No.2

【巻頭言】
糖尿病と妊娠
すこやかな母と子の誕生のために 新生児科医がなすべきこと

仁志田 博司
東京女子医科大学 母子総合医療センター所長・教授

 東京女子医科大学には、日本で唯一独立した診療単位としての糖尿病センターがある。その2代目の所長を務めた本学会の理事長でもある大森安恵名誉教授は、常日頃「糖尿病でも母親となる、女性としての喜びを叶えてあげるのが、私の女医としての仕事である」と言っておられた。

 また、当大学に1984年に設立された母子総合医療センターは、産科・小児科の壁を取り払い、妊婦・胎児から母体・新生児への連続した医療を各部門の専門家が協力して行うセンターである。我々の母子総合医療センターにおいては、母体管理もさることながら、胎児から出生の時を経て新生児になり、さらに乳児・幼児になって発達していく児を一貫して管理するのが目的のセンターであり、毎週火曜日に行われる周産期カンファレンスにおいては、産科・新生児科・児のフォローアップチームおよび小児外科のみならず、症例においては、眼科・脳外科・泌尿器科さらには母体の疾患に応じて、糖尿病や腎の専門の内科の医師も参加する学際的なカンファレンスとなっている。

 糖尿病に関しては、糖尿病センターがあるところから、これまで数百例を超える糖尿病の母体から生まれた児(IDM)が NICU において管理されており、その数は紛れもなく日本一となっている。単に症例数のみならず、その児の予後を含めた内容においても、我々は世界のトップクラスと自負しているが、その理由は、先に述べた内科・産科・新生児科・小児科のチームプレーに負うところがほとんどである。

 IDM の予後および、どのような合併症が起こりうるかは、出生前の母体糖尿病の管理の是非に左右される。奇形の発生頻度は、受胎前後にどのように管理されたか、また新生児に起こる低血糖や心筋肥厚などの IDM に特有な臨床的問題のほとんどが胎児高インスリン血症に続発するものである。胎児高インスリン血症は、母体血糖のコントロールの反映であり、母体の糖尿病管理が児の出生後の問題に大きく関与していることが理解される。

 過去16年の間に IDM に特有な caudal regression syndrome などの奇形が経験されたが、そのすべてが他院で管理された後に、糖尿病センターを介して母子総合医療センターを受診した例であった。また、数例の神経学的後遺症を有した児においても、その母親は他院からの搬送例であった。それらの児は、小児保健部門で長期に身体的発育や知能の発育に関するフォローアップがなされ、新生児部門と産科部門さらには糖尿病センターにも、その結果がフィードバックされている。

 これまで述べたように、新生児科医の糖尿病と妊娠に係わる役目は、チームの一員として、たまたまコントロールが不良な児に起こりうる種々の医学的問題に関し、暴投となってしまった球を受けるキャッチャーのような役目だけではなく、常にキッチリとしたルチーンをもって IDM を管理することにより、1人でも現代の医学で防ぎうる異常を持つ児が発生しないようにすることである。IDM に最も頻度の高い低血糖は、痙攣などの臨床症状が明らかになる以前に、急激に発達する児の神経学的発達に影響を及ぼすかもしれない。低血糖を臨床症状が出る前に捉える唯一の方法は、きめの細かい血糖値の測定以外にない。しかし、低血糖は血糖を調べることによって必ず発見できるのみならず、グルコースの投与という比較的簡便な方法で100%対応できるものである。

 多くの大学が講座という枠の中にとらわれ、相互の情報の交換とコミュニケーション不足から診療態勢の協調がうまくいっていない現状の中で、糖尿病センターと母子総合医療センターがある東京女子医科大学は、糖尿病母児にとって、最もふさわしいシステムを持っていると言えよう。

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