一般社団法人 日本糖尿病・妊娠学会

会報 2015 April Vol.17 No.1

【巻頭言】
周産期とウィメンズヘルスケアを繋ぐ

安日 一郎
国立病院機構長崎医療センター 産婦人科部長

 昨年11月28、29日、長崎ブリックホール国際会議場において第30回日本糖尿病・妊娠学会年次学術集会を開催し、第30回という記念すべき節目の会長を務めさせていただいた。「周産期とウィメンズヘルスケアを繋ぐ」というテーマを冠し、「糖尿病と妊娠」にかかわる産婦人科医、糖尿病内科医、家庭医、助産師、看護師、栄養士、保健師など、全国から多職種の皆さんにご参加いただき、また、一般演題も例年の60演題前後を大きく上回る86演題という史上最高の応募数であった。「糖尿病と妊娠」というテーマに対して、多職種にわたる医療従事者の皆さんの関心の高さを実感できたことは大きな収穫であった。

 さて、「糖尿病と妊娠」というテーマを産婦人科医として考えるとき、第一のテーマは妊娠と出産、そして新生児の医療、すなわち周産期医療である。大部分の産婦人科医はこの周産期医療を切り口に、「糖尿病と妊娠」に関わることになる(余談だが、産婦人科医は「妊娠と糖尿病」という方がより馴染みやすい)。しかし、産婦人科医として欠いてはならないもう一つの重要なテーマは、ウィメンズヘルスケアという視点である。女性の生涯の大きなイベントである妊娠、出産、育児を、健康かつ安全に過ごせるようにサポートすることは産婦人科医の責務で、その背景には、女性がより健康な状態で妊娠に至るという前提を欠かせない。このことは、糖尿病女性にとって奇形の予防戦略として極めて重要であることは周知のことであるが、一方で、妊娠前に診断されていない糖尿病が、妊娠を契機に初めて診断されるケース(“妊娠中に診断された明らかな糖尿病”)が依然として後を絶たない。こうした背景には、我が国のウィメンズヘルスケアの現状が、先進国の中でも決して芳しい状況にないことを指摘しなければならない。

 我が国のウィメンズヘルスケアの現状を語るとき、よく引き合いに出されるのは女性のがんの検診率の低さで、たとえば、子宮頸がんの検診率である。私が研修医となる以前から、子宮頸がん「検診車」の導入など、日本の子宮頸がん検診の普及・推進活動は世界に先駆けたものであったと記憶している。しかし、その後30数年間に他の多くの先進国では80%を超える検診率を達成するが、日本は30%程度にとどまり、世界の後塵を拝す現状である。乳がん検診率も同様で、このように、先進国の中では際立って低い女性のがんの検診率の背景には、日本ではウィメンズヘルスケアという概念が浸透していない現状がある。最近、当院の初期研修医が「大学の医学教育の中ではウィメンズヘルスケアという言葉を聞いたことがない」と言っていたが、医療を供給する側はもちろん、医療を受ける側(すなわち女性)にもその概念はいまだ極めて希薄である。

 女性は、思春期、性成熟期(妊娠・出産、妊娠中絶)、更年期、老年期と至る生涯の中で、女性特有の疾患とヘルスケアのテーマが存在し、こうした疾患やヘルスケアを対象とした医療、とりわけプライマリケアの部分をウィメンズヘルスケアといい、欧米先進国では、産婦人科医のみならず、家庭医(あるいはプライマリケア医)がそのかなりの部分を担っている。子宮がん検診、乳がん検診、ワクチン接種、経口避妊薬の処方、そしてローリスク妊娠の妊婦健診や正常分娩まで、プライマリケアとして家庭医の担うウィメンズヘルスケア領域は多岐にわたる。もし、日本で家庭医がずっと以前からウィメンズヘルスケアを担っていたら、先進国では例を見ない昨今の妊娠適齢期女性の風疹流行は起こっていなかったかもしれない。経口避妊薬の普及を家庭医とともに展開できれば、望まれない妊娠による女性の健康被害をもっと少なくできるであろう。しかし、日本における家庭医の育成はようやく始まったばかりである。

 新診断基準の導入によって、妊娠糖尿病にスポットライトが当たっている。妊娠糖尿病既往女性が将来、高率に糖尿病を発症するというリスク因子としての意義は、1970年代後半の有名なBoston GDM研究で初めて明らかにされた。それから40年を経て、今日の世界的な肥満と糖尿病のパンデミックを背景に、その意義はますます重要なものとなっている。とりわけ日本人は糖尿病発症高リスク人種であり、糖尿病発症予防戦略という観点から、妊娠糖尿病既往女性はその重要なターゲット・ポピュレーションである。妊婦の約10%弱に発症するため、分娩後のフォローアップ体制の確立には、糖尿病内科医や産婦人科医のみならず、より多くの医療プロバーダーを必要とすることは論を待たない。

 そこで私が提案したいのは、より多くの他職種との協働である。助産師、糖尿病療養指導士、保健師、栄養士はもちろんのこと、そのフォローアップ・チームのリーダとしての家庭医との協働が必要。妊娠糖尿病既往女性は、糖尿病のみならず、メタボリック症候群、そしてその下流にある心血管イベント発症という女性の生涯の健康被害のリスクを有している。したがって、妊娠を契機として見つかる妊娠糖尿病は、産婦人科医とウィメンズヘルスケアを繋ぐモデルともなる。家庭医を含めた多職種チームと協働してそのフォローアップ体制を確立できればと、ウィメンズヘルスケアを共に担う仲間としての家庭医の発展を願ってやまない。

学会長特別賞を受賞して

石原 佳奈
弘前大学医学部附属病院 周産母子センター

 このたび、第30回日本糖尿病・妊娠学会年次学術集会において、「当科における妊娠糖尿病妊婦の長期予後調査」という演題で、学会長の安日一郎先生より学会長特別賞を賜りました。心より御礼申し上げます。

  一昨年の学術集会に参加した折に、「来年こそは自ら発表を」と心に誓い、意気込んで参加した本学術集会で、このような栄誉ある賞をいただけたことを大変光栄に存じております。この賞に恥じぬよう研鑽を積み、少しでも青森県の健康寿命の一助となるべく、また、本学会にも貢献できるように今後も精進して参ります。引き続きご指導ご鞭撻を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

双当科における妊娠糖尿病の長期予後調査

 妊娠糖尿病(以下 GDM)が将来極めて高率に2型糖尿病、生活習慣病を発症するという事実を受け、日本一の短命県であり、生活習慣病関連死の多い県においてGDM既往女性の長期フォローアップ体制を構築することは、本県女性の健康寿命改善につながるのではないかと考えました。

 そこで、まず当院のGDM既往妊婦に対しアンケート調査を行ったところ、回答が得られた84名中4名が既に2型DMへ移行(すべて1点陽性GDM)しており、しかもその平均移行年数がわずか2年ということが判明しました。さらに、約4割が産後まったく健診を受けておらず、その中に2型糖尿病移行者や生活習慣病患者がいる可能性も否定できないという結果でした。また同時に、昨年よりGDM既往女性に対するフォローアップ外来も開設することとしました。産後の糖負荷試験の結果が、糖尿病型の患者については内科の先生にフォローしていただくこととし、境界型と正常型患者については当科で定期的に健康管理を行うというものです。

 GDMの長期フォローの重要性について、分娩前より十分に説明し、また再来予定日前には予約確認票を送付するなどして、可能な限り脱落者を出さぬように努めております。

糖尿病療養指導鈴木万平賞受賞のこと

大森 安恵
海老名総合病院・糖尿病センター長/東京女子医科大学名誉教授

 鈴木万平氏は1903年静岡県に生まれ、1926年東京帝国大学法学部卒業後、東洋紡を経て、46歳で三共株式会社(現 第一三共株式会社)社長にご就任。第一等や藍綬褒賞を受け、大きな業績を残して、77歳でご逝去されている。晩年、糖尿病に罹患、この疾患に対する研究の発展を祈念していた由である。鈴木万平氏夫人はその遺志に基づき遺産の5億円を寄贈して、1993年、鈴木万平糖尿病学国際交流財団(現 鈴木万平糖尿病財団)を設立された。

 2007年、財団設立15周年を記念して、鈴木万平記念糖尿病国際賞と糖尿病療養指導鈴木万平賞を創設され、鈴木万平記念糖尿病国際賞には米国のStienerやBell、デンマークのMogensenらが選ばれている。

 糖尿病療養指導鈴木万平賞は、糖尿病療養指導に積極的に取り組み、治療、予防に貢献された医療者または団体が受賞の対象になっているそうである。第1回受賞者は小児糖尿病治療の草分けである丸山博先生で、その後は、インスリン自己注射の努力をした平田幸正先生、療養指導者の養成機構に努力した北村信一先生や看護師の中村慶子先生、栄養士の立川倶子先生たちが受賞している。

 私は糖尿病があると危険だから妊娠は禁物であると言われていた不文律を打破し、糖尿病があっても妊娠、分娩は可能であるという医学概念を世に広め、糖尿病患者さんに人生の幸せをもたらしたということで、2014年の第7回目に受賞者となった。賞金は驚くべき高額の300万円を拝受した。一人でこのような受賞に値する仕事ができるわけはないので、すぐにお礼として、東京女子医科大学の吉岡弥生賞に100万円、海老名総合病院に研究奨励賞として100万円、東京女子医大糖尿病センターに50万円を寄付させていただき、50万円は感謝の気持ちを込めて家族に贈った。

 賞は、行っている仕事を深く理解し、温かく推薦してくれる人がいなければ受賞に至るものではない。私の場合は内潟安子先生と武田倬先生が推薦して下さった。司馬遼太郎が賞に関して「誰がその賞を受けたかによってその賞の格付けが決まるので受賞者を選ぶことは大変難しい。片山蟠桃賞を作ったとき、第1回はドナルド・キーンにした。」と書いている。

 糖尿病療養指導鈴木万平賞の品格を損なわず、推薦者の期待に答えるべく一層の精進努力をして病める人のお力になりたいと思い、心から感謝しつつ記述させていただいた。

編集長訪問インタビュー

北野 滋彦
東京女子医科大学糖尿病センター糖尿病眼科教授

小 浜 先生はなぜ眼科医になられたのですか。また、糖尿病を専門とされたきっかけは何でしょうか。

北 野 父が日本大学の眼科の教授をしていました。当初は医学部の進学は考えていませんでしたが、父の勧めもあり、日大に進学しました。眼科を選ぶかどうかも迷いましたが、結局、東京大学の眼科に入局しました。糖尿病眼底、福田の分類で有名な福田雅俊先生に出会ったのが、糖尿病眼科を専門とするきっかけです。

小 浜 糖尿病妊婦を年間何人くらい診察されていますか。その中に妊娠中に憎悪した例はありますか。

北 野 糖尿病妊婦は年間50症例くらいです。妊娠経過中に憎悪した例というより、妊娠してから厳密な血糖コントロールをしたために増殖性網膜症が悪化した例はあります。

小 浜 糖尿病センターにおける糖尿病眼科部門の特色について教えてください。

北 野 まず、外来では内科診察室(12診)と眼科診察室(9診)は同じ場所で、対峙するような形で診察が行われております。視力検査室ではなく、糖尿病視力検査室と表示されているところは、ほかでは見られないと思います。

小 浜 今後、日本糖尿病・妊娠学会に期待するところがあれば教えて下さい。

北 野 妊娠してからの血糖コントロール、眼科治療ではなく、妊娠前の教育が重要と思います。そのためにも学会の役割は大きく、期待するものも大きいと思います。

インタビューを終えて

 北野教授の「糖尿病眼科治療とは眼科のみでするのではない。内科とタイアップして、十分な血糖管理の上で行われるべきである」というお言葉が印象的でした。この教室から、多くの糖尿病眼科専門医が全国に広がり、一人でも多くの患者さんを失明から救ってあげられたらと、願わずにはいられませんでした。

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