一般社団法人 日本糖尿病・妊娠学会

会報 2014 April Vol.16 No.1

【巻頭言】
炭水化物を考える

武田 純
岐阜大学大学院医学系研究科 内分泌代謝病態学教授

 昨年11月、岐阜市で年次学術集会のお世話をさせていただいた。初日に、11年ぶりに改訂された日本糖尿病学会の食品交換表が発刊されたので、食事療法に関する教育講演や、プレ妊娠からポストを通した療養指導に関するシンポジウムはタイムリーであった。

 改訂ポイントの一つとして、食事に占める炭水化物の割合について60%、55%、50%の配分例を示した点がある。食生活の多様性を考慮しての改訂であり、糖質としては55%、50%、45%程度となり、大雑把には半分ぐらいと理解される。また、巷で蔓延る糖質制限についても言及してあり、過度な制限は身体にとって危険である、として全否定していない。その背景として、肥満やインスリン抵抗性がある。

 そもそもアトキンスダイエットに代表される低炭水化物ダイエット(低糖質?)は、肥満を「炭水化物中毒」と捉え、肥満を助長するインスリンを多く分泌させるグルコースを制限することにあった。キーワードは「インスリン過分泌」であり、欧米人型の体質を対象とする。従って、日本人型の2型糖尿病体質(やせ型、インスリン分泌不全)では適応に注意を要することは言うまでもない。

 飢餓状態では、グルコースは肝の糖新生でまかなわれる。窮乏が進むとケトンもエネルギーとして消費されるが、ケトンは、蓄積した脂肪酸をβ酸化することによりアセチルCoAを取り出して生成される、あくまでも代替エネルギーである。ケトン云々よりも、遊離脂肪酸の動員はインスリン作用を減弱させるので無視できない。Himsworthは80年も前に、低糖質食はインスリン感受性を低下させて耐糖能を障害することを論文にしている。実際、OGTTを実施する場合、現在の成書は、少なくとも3日前から糖質を150g以上摂取することを指示している。小生は正常であるが、会食が多く糖質を1週間近くとれなかったので75gOGTTを試みたところ、境界型、インスリン過分泌を呈した。あわてて食事を戻し再検したら、正常に復したので安堵したものである。背景として、脂肪分解で生じた遊離脂肪酸によるインスリン感受性の低下が考えられる。糖尿病診断では、GTTで糖尿病型を示しても、別の日に結果の再現が求められるが、まさに教科書を自身の体で確認した。

 1960年代の本邦の栄養摂取量は2,100kcalであり、炭水化物は76%を占めたが、糖尿病も肥満も少なかった。アミラーゼ遺伝子のコピー数多型の解析から、日本人は欧米人に比して糖質食に対応する遺伝的体質を獲得してきたとされる(Nat Genet 2007)。インスリン感受性が良好であれば、炭水化物を多くとってもインスリン分泌は少なくてすみ、食後血糖は上昇しない。肥満と高インスリンを生じるメジャー糖尿病遺伝子は存在しないこともゲノム解析で確定している。一方、現在に至るまで主食は減少を続けており、我が国は低炭水化物食を実践してきた。糖質摂取で血糖値が上昇しやすくなるのは、二次的にインスリン抵抗性が上昇する生活を送ってきたことに問題がある。

 昨年、中国の糖尿病人口は1億人に到達し、境界型も5億人になったとJAMA誌に報告された。成人の約半数である。農水省による供給カロリーの経年的な国際比較では、1950年代の中国はイモ類や穀類などが主体であったが、以降は肉類や果実の割合が急増している。車も保有台数も増加した。まさに、日本がたどった道を中国が加速した格好である。

 グルコースプライミングは膵β細胞のインスリン分泌予備能を上昇させることが知られている。一方、母体の低栄養が胎児の成人以降の糖尿病リスクを増大させることは、動物実験でも疫学的にもすでに示されている。グルコースシグナルの減弱が児の発育遅延につながることも遺伝子レベルで示された。したがって、児の成人以降の健康プログラムを考えると、バランスのとれた食事が基盤になることは当然である。食物繊維も炭水化物であり、根菜などを多用する和食はまさに世界に誇る健康食である。

大森賞を受賞して

森川 守
北海道大学大学院医学研究科 産科・生殖医学分野

 このたび、第29回日本糖尿病・妊娠学会年次学術集会にて、栄えある研究奨励賞(大森賞)を賜りました。大森安恵先生、平松祐司理事長、武田純学術集会長、選考委員の先生の皆様に厚く御礼申し上げます。

 今後も研鑽を積み、一層研究に精進を続け、学会のますますの発展に微力ながら尽力させて頂きたいと思いますので、引き続き、ご指導ご鞭撻を賜りたくお願い申し上げます。

双胎妊娠では単胎妊娠に比べ妊娠糖尿病(GDM)が発症しやすいか?

 GDM出現率に関して、海外から、双胎では単胎に比べ高いとの報告と両者では差がないとの報告があり、本邦でも検討した。

 そこで、妊娠初期随時血糖測定で24〜26週に50gGCTを施行され、北海道大学病院で2008〜2012年に26週以降に分娩した妊婦のうち耐糖能異常のために紹介された妊婦は除外し、単胎では双胎と年齢、非妊娠時BMI、分娩日が近い順をもとにマッチングさせて、症例数が4:1になるよう抽出し、新診断基準を用いて、GDM・OvertDMの出現率を検討したところ、単胎(344名)と双胎(86名)では差を認めなかった。(8.4% vs. 9.3%, p=0.830)。

【チャンレンジ最前線】
新妊娠糖尿病既往女性の啓蒙を目指して
〜済生会宇都宮病院と宇都宮市の取り組み〜

友常 健
済生会宇都宮病院 糖尿病・内分泌内科

 協議の結果、平成25年7月からGDM既往女性の啓蒙を目的として、宇都宮市子ども家庭課との連携を開始しています。現在、宇都宮市の乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業)では、当院で使用しているパンフレットを指導員が携行し、母親からGDMに関する質問があれば、指導員がパンフレットに基づいて説明のうえ、医療機関への受診を勧めてもらえることになっています。なお、当院では公共機関との連携を前提に、企業色のないものとして、国立成育医療研究センターが作成したパンフレットである「妊娠中に『血糖が高い』と言われた方へ〜出産後も気をつけて欲しいこと〜」を用いています。

 GDMは今後も症例数の増加が見込まれる一方、医療現場は逼迫しつつあります。GDMについての取り組みを今後も発展させるためには、特定の部署や人員に負担を集中させないことが重要と考え、当科ならびに産婦人科の医師、さらには産科病棟スタッフと相談して取り組みを進めています。

 当院の取り組みが皆様の参考になることを期待して、今後も学会発表を通じて経過を報告していきたいと思います。

編集長訪問インタビュー

雨宮 伸
埼玉医科大学医学部小児科教授

 埼玉県・毛呂山の埼玉医科大学医学部小児科の雨宮伸先生をお尋ねしました。病院は活気にあふれ、スタッフの方々がいきいきと仕事をされていると感じられました。

小 浜 貴科での小児糖尿病の診療体制についてお教え下さい。

雨 宮 埼玉医科大学病院では6年前から、小児科・新生児科・産科・小児外科および関連診療科で成育医療センターを構成し、 小児糖尿病は糖尿病・生活習慣病センターとの連携で、医師・糖尿病認定看護師、糖尿病療養指導士(看護・検査・栄養士)のグループ診療を行っています。

小 浜 貴院での年間分娩数と糖尿病妊婦の割合をお教え下さい。

雨 宮 2012年度の分娩数は701例で、糖尿病合併妊娠と妊娠糖尿病の合計は64例でした。

小 浜 先生はどうして小児糖尿病学を選ばれたのですか。

雨 宮 小児内分泌・代謝学に興味があり、米国に臨床留学し、1974年当時の糖尿病性ケトアシドーシス治療への科学的・生理的アプローチの必要性を痛感したこと、 日本での持続インスリン静注療法の普及等が小児糖尿病学を専門とするきっかけとなりました。

 新生児糖尿病における持続インスリン皮下注療法の経験を含め、小児、さらに妊娠管理への応用を1980年代に始めていたので、 糖尿病妊娠研究会が発足した当時に松岡健平先生の紹介で症例経験を発表させて頂きました。 1994年からは、全国での多施設共同研究を松浦信夫教授、佐々木望教授と立ち上げる機会があり、 現在も継続する日本人小児1型糖尿病に関するエビデンスを『小児・思春期糖尿病管理の手びき』にコンセンサスガイドラインとして遂次出版できるようになっています。

小 浜 今後の日本糖尿病・妊娠学会に期待することをお教え下さい。

雨 宮 児期発症糖尿病女子における計画妊娠、および非糖尿病思春期女子への糖尿病発症リスクの啓発、その基盤となる糖代謝異常を伴う妊娠での合併症予防に関する科学的知識の普及が小児科医に期待されることと考えます。今後はさらに、学会として母体・胎児期・新生児環境とその子の将来の糖尿病発症リスクとの関連を明確なエビデンスとして提唱し、糖尿病の発症予防の礎を築いていただきたいと思います。

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