一般社団法人 日本糖尿病・妊娠学会

会報 2013 September Vol.15 No.2

【巻頭言】
低出生体重、高出生体重と生活習慣病

杉原 茂孝
東京女子医科大学東医療センター 小児科教授

 わが国における2,500g未満の低出生体重児と3,500g以上および4,000g以上の高出生体重児の出生頻度の推移は厚生労働省大臣官房統計情報部「人口動態統計」によると、1980年以降、特徴的な変化が起きていることが示されています。2,500g未満の低出生体重児は、1980年には約5%でしたが、その後年々増加し、2010年には約10%となっています。一方、3,500g以上の高出生体重児は、1980年には男子約25%、女子約20%でしたが、その後年々減少し、2010年には男子約13%、女子約8%となっています。つまり現状では、両者ともに全体の約10%を占めています。

 小児科領域では、1970年〜2000年にかけて肥満小児が急激に増加し、それに伴って小児の2型糖尿病の頻度も増えたというデータが示されています。肥満小児の急激な増加には、この時代の生活習慣の変化が、大きな影響を及ぼしていると考えています。同時期に進行した低出生体重児の増加と高出生体重児の減少という現象は、どのように説明されるのでしょうか。若年女性の痩せ志向や出産の高齢化も関与していると思われます。妊婦の栄養・体重管理の変化も影響していると思われますが、産婦人科の先生方のご意見を伺えたらと思っております。

 近年、出生前の胎児成長の悪いこと(低出生体重)が成人の生活習慣病、とくに2型糖尿病や心血管疾患の発症リスクに大きな影響を及ぼすことが数多く報告されました。すなわち、胎児期の子宮内環境の重要性が明らかとなっています。低出生体重に加え、さらに小児期の肥満の出現が成人の生活習慣病発症リスクを上げることも示されています。

 一方、ピマインディアンの20〜30歳代男女や台湾の学童の調査では、2型糖尿病の出生時低体重と高体重の両極に多いU字型を呈しました。日本人小児2型糖尿病患者でも、コントロールに比べ、低出生体重と高出生体重の比率が高いU字型分布であることが示されています。すなわち、高出生体重児もハイリスクと言えます。

 妊娠の低栄養、過栄養(肥満)、高血糖、糖尿病などが、低出生体重児、あるいは高出生体重児を介して、次世代の小児期からの肥満、メタボリックシンドローム、2型糖尿病の発症へとつながり、さらにこの子どもたちが成人して妊娠・出産すれば、さらに次の世代へとこれらの病態が引き継がれていくことになります。従って、生活習慣病予防についてライフサイクルを通して考えてみる必要があります。

 胎児期からの予防としては、妊婦の糖尿病や高血糖の治療、および妊婦への教育と支援が非常に重要です。妊婦さんのモチベーションは非常に高いと思われます。児の将来の健康に関する妊婦への啓発活動は、有効であろうと想像しますが、現実には難しい点もあるかと思われます。また、妊娠した時点の母体の痩せや肥満の状況で、すでに児の予後がある程度決まっているというお話もあるようです。

 妊娠糖尿病の診断基準の変更に伴い、助産師さんや産婦人科、内科の先生方の妊婦の管理基準や治療も厳しくなっていることと思いますが、妊娠した時点ではすでに遅いということになれば、小児期から青年期を扱う小児科医の責任は大きいと思われます。乳幼児期・学童期・思春期・成人期を通して母子ともに健康教育・健康管理を行っていく体制が重要と考えられます。ライフサイクルを通して糖尿病をはじめとする生活習慣病の治療や予防を行うシステムづくりをするには、内科、産婦人科、新生児科、小児科のさらなる連携が必要であることは言を待ちません。

【チャンレンジ最前線】
多施設共同研究の重要性:JDPSの紹介

杉山 隆
東北大学病院周産母子センター

 本学会の研究事業として、現在、糖代謝異常合併妊娠に関する多施設共同研究(Japan Diabetes and Pregnancy Study: JDPS)を展開していますが、この礎を築いて下さったのが大森安恵名誉理事長です。大森先生は、東京女子医科大学において、1971年より本調査に携わってこられました。1996年からは佐中眞由実先生にバトンタッチされ、第7回の調査は、私が幹事として2003年から2009年までの7年間の我が国における糖代謝異常合併妊娠の調査を担当いたしました。

 我が国において臨床研究を行う場合、施設内研究では症例数が集まらず、多施設共同研究が有用となります。糖尿病合併妊娠の頻度そのものは低くはありませんが、妊娠合併症としての母体合併症や新生児合併症をエンドポイントとした臨床研究を行う場合、症例数が重要となります。

 このような視点より、今回の7年間のデータはきわめて貴重であると言えます。施設数は40施設ですが、どの施設も治療はほぼ統一されており、施設間のアウトカムに差を認めませんので、我が国を代表する質の高い多施設共同後方視的検討と考えられます。

 今回私どもは、1型糖尿病・2型糖尿病・妊娠糖尿病の臨床背景や妊娠予後の相違、母体の体格別の妊娠糖尿病の妊娠予後の相違、旧診断基準に基づく妊娠糖尿病と妊娠時に診断された明らかな糖尿病の妊娠予後の相違などに関し、データをまとめ、投稿しました。

 今後は、本学会主導で、国立成育研究センターを中心に本研究をレジストリー試験の形で進める予定です。このレジストリー試験は、糖尿病合併妊娠のみならず、妊娠糖尿病では妊娠予後だけでなく母児のフォローアップスタディも含みますので、とてもチャレンジングな研究です。本研究の目的は、「我が国における糖代謝異常合併妊娠の実態を把握し、問題点を明らかにすることにより、糖代謝異常合併妊娠の管理および治療に役立てること」であり、我が国の臨床研究に基づき問題点を抽出し、それに対して方策を立てる意味でも、今後、重要な臨床研究のモデルになると考えています。さらに継続的研究によりコストエフェクティブネスに関する解析も行うことができ、医療経済の視点からも重要な研究となります。私も微力ながら本研究の発展のために全力を尽くす所存です。

 この場をお借りして、JDPSにご協力頂きました先生方および調査委員の先生方に心より感謝申し上げます。

診察室だより 北から南から

大阪市立総合医療センター 代謝内分泌内科

福本 まりこ

 大阪市立総合医療センターは大阪市の北東部に位置し、平成5年に開院した病床数1063床、1日約2000人の患者さんが通院する地域の中核病院です。

 代謝内分泌内科には1ヶ月当たり約4,500人通院されており、インスリン治療中の糖尿病の方は1、500名、CSIIは平成25年5月末現在で53名が使用されています。周産期センターは母体胎児集中治療室6床、新生児集中治療室12床を備え、大阪府の総合周産期母子医療センターの指定を受け、ハイリスク妊産婦・ハイリスク新生児に対し、高度周産期医療を提供しています。糖代謝異常合併妊娠は年々増加しており、平成24年には1型6名、2型9名、妊娠糖尿病48名を管理させていただきました。

 当院では糖尿病認定看護師・糖尿病療養指導士による外来療養指導や管理栄養士による栄養指導も当日予約が可能なため、産科や近隣医療機関からご紹介いただく患者さんの栄養指導からSMBG・インスリン導入まで外来で受診当日に可能という機動力、チームワークの良さが自慢です。大きな病院ではありますが、医局は診療科の枠組みがなく、同じ部屋に机を並べていますから、患者さんの相談、報告などは産科・眼科・新生児科の先生方とも気軽にお話できる状況にあり、患者さんにも安心していただけていると感じています。

 私は当院に入職して12年目になりますが、外来診療の合間に出産や帝王切開に立ち会わせていただくこともあります。赤ちゃんの誕生の瞬間に立ち会える感動と喜びは普通に内科医をしているとなかなか味わえないもので、糖代謝異常合併妊娠の診療をさせていただいて役得(?)と日々感じています。

 これからも糖尿病を持つ女性、妊娠糖尿病の方々に安心・安全なお産を提供できるように、また産後の糖尿病予防に向けてチーム一丸となって取り組んでいきたいと思います。

 日本糖尿病・妊娠学会の先生方には今後ともいろいろご指導の程よろしくお願い申し上げます。

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