一般社団法人 日本糖尿病・妊娠学会

会報 2008 April Vol.10 No.1

【巻頭言】
学会の「強さ」

豊田 長康
三重大学学長

 本年の11月28日と29日に、第24回日本糖尿病・妊娠学会年次学術集会が、高崎健康福祉大学健康栄養学科教授の小浜智子先生のお世話で開催される予定です。もう24年の歴史を積み重ねてきたのですね。当初は「糖尿病と妊娠に関する研究会」という研究会で1985年に発足し、第17回目から「日本糖尿病・妊娠学会」として現在に至っています。この研究会の立ち上げと学会化は、本会名誉理事長の大森安恵先生のリーダーシップの賜物であり、今日まで学会が発展し続けていることは先生の大きなご功績であると思います。

 糖尿病と妊娠という境界領域のテーマは、そのテーマの重要性にも関わらず、糖尿病学者にとっても、小児科学者や私の専門である産科学者にとっても、あるいはコメディカルの方々にとっても自分の専門外、あるいは特殊なテーマであるというイメージがつきまといがちです。しかし、糖尿病と妊娠は、それぞれの分野におけるもっともすぐれた知識や技術の応用と、さまざまな分野の方々の連携なくしては解決しないテーマです。本学会が、各分野のすぐれた方々から成り立ち、また、いろいろな職種の方々のご参加をいただいていることは、たいへんすばらしいことです。

 また、「メタボ」という言葉は、ずいぶんと一般の方々に浸透しましたが、糖尿病と妊娠の重要性については、大森先生や学会の皆様が長い間アピールをし続けていただいたおかげで、ある程度理解が深まったものの、まだ隅々までは浸透していないようです。この点については、本学会が中心となって、引き続き粘り強く国民に訴えていく必要があると感じます。

 ところで、私が学長職について4年が経ちました。この間、三重大学という一地方大学の経営に忙しい毎日を送ってきました。以前は20以上の学会に所属していましたが、いまは、少数に絞っています。本学会は私が毎年参加させていただいている数少ない学会の一つです。

 さて、どこの大学の学長でも、構成員に対して、自分の所属する大学に愛着心をもってほしいと願うものです。愛着心があってこそ構成員に団結力や熱意が生まれ、その結果、組織が強くなります。それと同様に、私は、学会という組織においても、会員が愛着心をもっていることがその学会の「強さ」ではないかと思っています。

 本学会は、規模的には日本糖尿病学会や日本産科婦人科学会とは比べものになりませんが、しかし、小規模の学会であっても、マンモス学会に劣らない「強い」学会にすることはできるのではないかと思います。皆さんも所属している学会のすべてに愛着心を感じるかというと、必ずしもそうではないのではないでしょうか?むしろ、大規模学会よりも本学会くらいの規模の方が、愛着心を抱いていただくには、ちょうどよい規模かもしれません。

 研究者が愛着心をもつのは、切磋琢磨しつつも、お互いに尊敬し合い、助け合うという研究者気質によって形成されるネットワーク、あるいは"研究者仲間"といってもいいかもしれませんが、に対してではないかと思います。このような研究者仲間においては、学問の上では激論を戦わせる間柄ですが、共同研究をしようということになれば、みんなで協力して一つの仕事を達成することができます。本学会においても、いままでに、妊娠糖尿病のスクリーニングに関する多施設共同研究や全国の糖尿病妊婦の実態調査を多くの研究者の方々のご協力でやってきました。私は、みんなで一緒に共同研究ができるかどうかということが、その学会の「強さ」を測定できる一つの指標ではないかと思っています。

 この意味で、私は、日本糖尿病・妊娠学会はすばらしい学会であると思います。みんなで一緒に仕事をしようという気にさせる研究者仲間のネットワークを大切に育て、ますます本学会が「強い」学会に発展することを期待しています。

大森賞、学会長特別賞を受賞して

柳楽 清文
富山大学医学部産科婦人科学教室

 この度は、第23回日本糖尿病・妊娠学会におきまして、名誉ある大森賞を受賞することができ大変光栄に存じます。大森安恵先生、中林正雄先生をはじめ、選考委員の諸先生方に厚く御礼申し上げます。また、実際の研究に際してご指導賜わりました、富山大学病態制御薬理学部の笹岡利安先生をはじめ、日々ご支援いただいている産科婦人科学教室の諸先生方に深謝申し上げます。

 女性の一生のなかで変動する性ホルモンは、メタボリック症候群の原因となるインスリン抵抗性にも関与します。今回の研究「エストラジオール(E2)とプロゲステロン(P4)のアディポサイトカインからみたインスリン抵抗性」では、E2やP4が培養脂肪細胞でのインスリン作用とアディポサイトカイン(アディポネクチン:Ad、レプチン:Lp)の発現に及ぼす影響を検討しました。インスリンによる糖の取り込み、IRS-1のチロシンリン酸化、Aktのセリンリン酸化は生理的濃度のE2では亢進しましたが、高濃度のE2を処置すると有意に低下し、高濃度のP4を処置した場合も有意に低下しました。培養上清中のAdやLpのタンパクは、高濃度E2を処置した場合Adで低下、Lpで増加、高濃度P4を処置した場合Adは低下、Lpは増加しました。以上より、妊娠後期の高濃度E2やP4が、脂肪細胞から分泌されるAd産生低下やLpの産生亢進を介して、Ins抵抗性を引き起こしている可能性が示唆されました。

 大森賞の受賞を励みとし、今後も教室の連携を大事にして、一層研究に精進してまいりたいと思います。今後ともご指導のほど、よろしくお願いいたします。

酒井 敬子
至誠会第二病院糖尿病内科

 この度は、第23回日本糖尿病・妊娠学会におきまして、栄誉ある学会長特別賞を受賞することができ、大変光栄に存じます。大森安恵先生、中林正雄先生をはじめ、選考委員の諸先生方に厚く御礼申し上げます。

 胃癌術後の合併症としてダンピング症候群に伴う急峻高血糖(oxyhyperglicemia)が知られており、これは後の耐糖能障害との関係が指摘されています。しかし、oxyhyperglicemiaが妊娠に与える影響についての報告は少なく、また、糖尿病合併妊娠と運動療法についての研究も多くありません。

 今回、進行胃癌により胃全摘術および化学療法を施行され、oxyhyperglicemiaを合併したものの、分食とマタニティーヨガにて良好な血糖コントロールを得、健児を出産した一症例を報告させていただきました。

 血糖管理を行った当科・本田正志先生ならびに胃癌を完治した横浜市立大学病院外科・大館敬一先生をはじめ、マタニティーヨガを指導した看護師の方々、分食を指導した栄養士の方々、産科の先生方、他、皆様方のご尽力の賜物で無事に出産を迎え、報告することができました。ここに深く感謝申し上げます。

 癌治療の進歩により、進行癌術後例の妊娠出産も可能となりました。今回の経験を胸に、今後も臨床、研究に励んで行きたいと思います。今後ともご指導のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

診察室だより 北から南から

大阪府立母子保健総合医療センター母性内科

和栗 雅子

  1981年に大阪府立母子保健総合医療センター(363床、うち母性棟は100床)が開設されてから、母性内科は我が国初の周産期専門内科として、さまざまな内科疾患合併妊婦の管理に取り組んできました。糖代謝異常妊娠もその一つですが、妊娠中だけでなく糖尿病女性の妊娠前管理、妊娠糖尿病の分娩後管理にも力を入れています。私は1997年から勤務していますが、現在定期的に通院している糖尿病患者さんは、妊娠前や分娩後も含め1型が約30名、2型が約50名です。妊娠糖尿病は約20名ですが、分娩後のフォローアップ健診を受ける人は年間約100名です。

 糖尿病患者教育を進めていくうえで使用する「DM教育のプログラムと指導要項」や「糖尿病と妊娠テキスト」を医師・助産師・栄養士からなる糖尿病ワーキンググループ(WG)で作成し、指導してきました。

 医療者による個別指導だけでは、妊娠前の厳格な血糖管理に対して患者の受け入れが不十分なときもあり、これからの妊娠出産に対する不安に一人で悩んでいる患者も多いことから、2005年1月に、1型・2型、妊娠前・妊娠中・産後の枠を超えた友の会『なでしこ?タイム(由来:花ことばより、積極的・前向きに活動する糖尿病女性の集まり)』を設立し、3ヶ月に1回、交流会形式の勉強会を開催しています。勉強会には、WGメンバーに薬剤師・臨床検査技師も加え、患者参加形式の講義も1〜2題入れ、料理教室も行い、回を重ねるごとに活動は発展しています。また、会場内に託児スペースを用意し、WGメンバーが保育もすることで出産後の参加者も増加し、毎年参加のべ人数は40名を超えています。

 患者会を通して、挙児希望や妊娠中の方は出産経験者から実体験の情報や心理的サポートを得られ、育児に追われ自己管理がおろそかになりがちな産後の方は妊娠前や妊娠中の仲間と接することで自己管理意欲を思い出し、さらにスタッフも糖尿病教育に対する意識が以前より高まったようです。このような活動はお互いによい影響を与え合っており、今後も継続・発展させていきたいと思っています。

【ヤングコーナー】
ヤング1型糖尿病セミナー(YOKOHAMA VOX)を開催して

菊池 信行
横浜市立大学附属市民総合医療センター小児科

 昨年、ヤング1型糖尿病セミナー(YOKOHAMA VOX)を開催した。開催に先立ち、県内医療機関への協力依頼と並行して、セミナーHPから「1型糖尿病を発症して間もない方、発症して時間は経過しているけれどなかなか1型糖尿病と向き合えない方、不安や悩みを抱えたり、とまどったりしている方が一人でも気軽に参加でき、意見交換・情報交換をすることで、自身をもって1型糖尿病とともに生活していくことができる場所を目指しています」と呼びかけた。

 考えていた以上に反響は大きく、第1回に約100名が、今年1月の第2回には約150名が参加された。このセミナーは、講演とグループディスカッションの2部構成で、グループディスカッションでは、進学・就職、妊娠・出産、日常生活、血糖コントロールなどのテーマごとに話し合いが行われている。「妊娠・出産」には毎回、多くの患者、パートナー、家族が参加され、「実際に1型で出産を経験した方の話を聞けてよかった」「不安で不安で仕方がなかったので、この会に参加してよかった」など、ネットでは得ることのできないリアルな体験に触れた肯定的な感想が寄せられている。

 若年発症糖尿病女性のだれもが、正常な妊娠・出産に希望がもてる状況になった。しかし、「計画妊娠」のハードルが下がったわけではなく、健やかな妊娠継続・出産には多大な努力が必要であることに変わりはない。このため、患者の多くはさまざまな支援を必要としている。診療現場での支援には限界もあり、こうした患者同士の情報交換(ピアカウンセリング)の場の重要性を実感している。

 開催にあたり、同様に通院施設や患者会の垣根を越えた公開行事を継続して開催している大阪のDM VOXスタッフからは、多くのサポートをいただいた。会の趣旨に賛同し、ボランティアとして参加されている多くの医師・医療スタッフの方々とDM VOXに感謝の意を表したい。

日本糖尿病・妊娠学会 会報 一覧へ ▶

© 1985-2019 一般社団法人 日本糖尿病・妊娠学会