一般社団法人 日本糖尿病・妊娠学会

妊娠中の糖代謝異常と診断基準(平成27年8月1日改訂)

2015年08月01日

 妊娠中に取り扱う糖代謝異常 hyperglycemic disorders in pregnancyには、1)妊娠糖尿病 gestational diabetes mellitus (GDM)、2)妊娠中の明らかな糖尿病 overt diabetes in pregnancy、3)糖尿病合併妊娠 pregestational diabetes mellitusの3つがある。

 妊娠糖尿病 gestational diabetes mellitus (GDM)は、「妊娠中にはじめて発見または発症した糖尿病に至っていない糖代謝異常である」と定義され、妊娠中の明らかな糖尿病、糖尿病合併妊娠は含めない。

 3つの糖代謝異常は、次の診断基準により診断する。

診断基準

1) 妊娠糖尿病 gestational diabetes mellitus (GDM)

75gOGTTにおいて次の基準の1点以上を満たした場合に診断する。

  1. 空腹時血糖値 ≧92mg/dl (5.1mmol/l)
  2. 1時間値 ≧180mg/dl   (10.0mmol/l)
  3. 2時間値 ≧153mg/dl   (8.5mmol/l)

2)妊娠中の明らかな糖尿病 overt diabetes in pregnancy (註1)

以下のいずれかを満たした場合に診断する。

  1. 空腹時血糖値 ≧126 mg/dl
  2. HbA1c値 ≧6.5%

*随時血糖値≧200 mg/dlあるいは75gOGTTで2時間値≧200 mg/dlの場合は、妊娠中の明らかな糖尿病の存在を念頭に置き、1または2の基準を満たすかどうか確認する。(註2)

3)糖尿病合併妊娠 pregestational diabetes mellitus

  1. 妊娠前にすでに診断されている糖尿病
  2. 確実な糖尿病網膜症があるもの

註1.妊娠中の明らかな糖尿病には、妊娠前に見逃されていた糖尿病と、妊娠中の糖代謝の変化の影響を受けた糖代謝異常、および妊娠中に発症した1型糖尿病が含まれる。いずれも分娩後は診断の再確認が必要である。

註2.妊娠中、特に妊娠後期は妊娠による生理的なインスリン抵抗性の増大を反映して糖負荷後血糖値は非妊時よりも高値を示す。そのため、随時血糖値や75gOGTT負荷後血糖値は非妊時の糖尿病診断基準をそのまま当てはめることはできない。

これらは妊娠中の基準であり、出産後は改めて非妊娠時の「糖尿病の診断基準」に基づき再評価することが必要である。

定義の変更に関する補足解説

1.「妊娠中の明らかな糖尿病」への変更

従来の「妊娠時に診断された明らかな糖尿病」を「妊娠中の明らかな糖尿病」へ変更した。

HbA1cのみでは糖尿病と診断しないという日本糖尿病学会の診断基準との齟齬があり、「糖尿病と診断」という表現は妥当ではないという点が議論された。

本病名はあくまで妊娠中の管理を優先するための暫定的なものであるという観点から、「診断された」という断定的表現を削除することが妥当と判断した。

また、IADPSG診断基準では”overt diabetes in pregnancy”と表記され、「診断された」という文言の削除によって、よりIADPSG基準との整合性の高いものとなった。

2.「high risk GDM」について

本改定前の診断基準の註釈として定義されていた「high risk GDM」は、IADPSG基準にその表記がなく、わが国独自のものとして定義された。

この定義は、「妊娠中の明らかな糖尿病」には至らないが、GDMよりも重症の妊娠中の糖代謝異常という点と、分娩後に糖尿病に進行するリスクが高いという2つ概念を反映させたものである。後者については日本人についてもそのエビデンスが確立されつつある。

一方、前者の周産期有害事象に関しては、国際的にもGDMでは肥満や空腹時高血糖の方がより強い周産期予後不良のリスク因子とされ、随時血糖値≧200mg/dlあるいはOGTT2時間値≧200 mg/dlのみを「high risk GDM」と規定することは、周産期の一般的なハイリスク因子の概念との間に齟齬を生じさせている。

そうした観点から本表記を削除することとした。しかし、現時点では、本病名が保険診療の血糖自己測定(SMBG)の適応病名として採用されているため、今後の保険診療におけるSMBG適応拡大までの当面、「high risk GDM」という表記は保険病名として引き続き使用する。

平成27年8月1日

お知らせ 一覧へ ▶

© 1985-2024 一般社団法人 日本糖尿病・妊娠学会