高齢者が地域活動に参加しやすくすることで、高齢者の孤立を防ぎ、抑うつなどを予防できるという研究を、国立健康・栄養研究所などの研究グループが発表した。
「ソーシャル・キャピタルを整備することが、超高齢社会を迎えた日本では必要」と、研究者は指摘している。
孤立が高齢者の健康の障害に
一人暮らしの高齢者が増え、高齢者の孤立が問題視されている。孤立は高齢者の健康にとって大きな障害となる。
「市民参加」が抑うつへのなりやすさと強く関連することが、国立健康・栄養研究所などの研究グループなどの研究で明らかになった。
研究は、高齢者の予防政策の科学的な基盤づくりを目的とした研究プロジェクト「JAGES(日本老年学的評価研究)」の一環として行われた。プロジェクトは、約30万人の高齢者を対象に行われており、全国の大学・国立研究所などの30人を超える研究者が参加している。
今回の研究は、JAGESプロジェクトの2010年と2013年データと、日本福祉大学健康社会研究センターによる愛知老年学的評価研究(AGES)プロジェクトの2006年データを使用して行われた。
社会的な孤立はストレスになる。ストレスはうつ病や不安症(不安障害)といった心の不調を引き起こし、糖尿病にも影響を与える。社会的なネットワークに恵まれている人は、2型糖尿病の発症リスクが低いという報告がある。
孤立が慢性化すると、うつ病の発症が増え、さらに糖尿病が悪化するという悪循環におちいるおそれもある。40歳代や50歳代の若い世代も安心はできない。早い時期から孤立に対処することが必要だ。
関連情報
地域活動への参加で抑うつが6〜7%減少
研究グループは、地域で生活する男性1万4,465人と女性1万4,600人データから、地域活動に参加する人の割合を地域ごとに算出。さらに、個人の抑うつ傾向の有無について約3年間の追跡調査を行った。
さらに、2006年、2010年、2013年の3時点パネルデータを用いて、抑うつ傾向になる時点から1時点前のソーシャル・キャピタル尺度と抑うつ傾向の有無との関係について、2時点パネルデータと同様の結果が得られるか7,424人で確認した。
その結果、「地域の会・グループに参加している」と答える人の割合が多い地域ほど、その後3年間で抑うつ傾向になる人が少なくなることが分かった。
具体的には、そうした参加者が6%多くなると、抑うつ傾向になる人が男性では7%、女性では6%、それぞれ少ないという結果になった(オッズ比:男性0.93、女性0.94)。この傾向は、最大6年間の追跡調査でも変わらなかった。
個人レベルのスコアと抑うつ傾向の発症との関連は、3つのソーシャル・キャピタル尺度のいずれの場合も有意だった。3時点パネルデータを用いた分析でも同様の傾向が得られた。
「ソーシャル・キャピタル」を評価
「市民参加」が抑うつのなりにくさに強く関連
近年、人とのつながりが健康的な生活を保つための資源ととらえる考え方が注目されており、「ソーシャル・キャピタル」と呼ばれている。多くの人が地域活動に参加している地域では、人々がつながりを持ちやすい、つまりソーシャル・キャピタルの豊かな地域であると言える。
今回の研究では、健康に関連するソーシャル・キャピタルを評価する質問票が用いられた。
この質問票では、「市民参加」(ボランティア活動や趣味、スポーツのグループなどの地域の会・グループへの参加の多寡)、「社会的凝集性」(地域への愛着や信頼の多寡)、「互酬性」(住民同士の助け合いの多寡)――という3つの要素を測定した。
その中で、「市民参加」が抑うつのなりにくさにとくに強く関連することが分かった。
地域の市民参加を促進する保健・福祉サービスの充実などの環境を整えることが、日本の超高齢社会における老年期の抑うつ症状の発症を予防するうえで重要となる。
「今回の研究では、保健医療福祉の領域での個別の支援を超えて、高齢者に優しい地域づくりに着目することの意義が示された」と、研究グループは述べている。
研究は、医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所 栄養・代謝研究部 エネルギー代謝研究室の山口美輪氏らによるもの。論文は、医学誌「Journal of Epidemiology」に掲載された。
一般社団法人 日本老年学的評価研究機構
医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所 栄養・代謝研究部 エネルギー代謝研究室
Community Social Capital and Depressive Symptoms Among Older People in Japan: A Multilevel Longitudinal Study(Journal of Epidemiology 2018年11月24日)
[ Terahata ]