新潟大学の研究グループは、糖尿病腎症の早期診断や予後予測に役立つ可能性のある、糖尿病腎症の成因にもとづく尿検査法を開発したと発表した。
腎臓で、糸球体から濾過されるタンパク質などの物質を再吸収する分子「メガリン」の尿中排泄量を測定するもので、早期から糖尿病腎症の発症・進展しやすさを診断できるようになるという。
糖尿病腎症の成因にもとづく検査法を開発
研究は、新潟大学大学院医歯学総合研究科機能分子医学講座の斎藤亮彦特任教授を中心とする研究グループによるもので、米国糖尿病学会誌「Diabetes」に発表された。
糖尿病の合併症である糖尿病腎症は、透析導入原因疾患の第1位を占めている。また、糖尿病患者は腎症を合併すると心臓病や脳卒中の危険も増大することが知られており、糖尿病性の発症・進展を食い止めることは、糖尿病治療における最重要課題のひとつとして挙げられている。
日本では腎不全によって約32万人が透析療法を受けており、その数は年間約3万8,000人ずつ増加している。透析療法は患者の負担が大きいだけでなく、医療費の増加も重要な問題になっている。
これまで、糖尿病腎症が発症・進展しやすい人とそうではない人が存在することは分かっていたが、どのようにしてそうした人を見分けるかは明らかではなかった。
また腎臓を保護するために行われている治療が個々の患者にとって妥当なものかを評価する方法も確立されていない。
そこで研究グループは、糖尿病腎症の成因にもとづき、その発症・進展のリスクを予測し、治療に指針を与えるとともに、簡便に行える検査法の開発に取り組んでいる。
「メガリン」を測定し、糖尿病腎症を早期診断、予後予測
同研究グループは2015年に、腎臓の近位尿細管細胞にある「メガリン」という分子が「入り口」となって、腎障害性タンパク質などを取り込むことにより、リソソームという細胞内小器官にタンパク質代謝負荷をきたし、その機能を障害させることで、糖尿病腎症が進展するメカニズムを明らかにした。
「メガリン」は近位尿細管細胞に発現し、糸球体から濾過されるさまざまな物質(タンパク質や薬剤など)を再吸収し、それらの代謝を促す受容体として機能している。
今回の研究では、リソソーム障害による糖尿病腎症の発症・進展機序に伴って、「メガリン」がエクソソームという微小構造物に搭載されて、腎臓から尿中への逸脱が増加することを明らかにした。
さらに、その「メガリン」を尿中で定量することで、糖尿病腎症の早期診断や予後予測に役立つ可能性があることを突き止めた。
この「尿中メガリン測定法」は、すでに新潟大学とデンカ生研が共同特許を取得しており、臨床での実用化に向けて研究を進めているという。
臨床での実用化に向けて研究を開始
腎臓は約100万個のネフロンという構造体が集まってできており、糸球体というフィルターを通して、水分を含む血液由来のさまざまな成分が濾過され、尿細管の中を流れていく過程で、尿細管細胞で再吸収・代謝されたり、あるいは逆に尿細管細胞からさまざまな物質が分泌されて、最終的に尿が生成されている。
ネフロンの数は生まれた時に決まっており、尿細管の長さはおおおよそ20歳代まで伸びていき、それが腎臓の代謝機能を規定する。
ネフロンの数が少ない、あるいは尿細管の長さが短い場合に糖尿病を罹患すると、それにかかる代謝負荷が増大し、糖尿病腎症の発症・進展リスクが増大する可能性が生じてくる。
また、一部のネフロンが障害されると残存するネフロンの負荷が増大し、さらに障害が進行するリスクが高まる。
そのような場合、尿中メガリン測定値をクレアチニン値(機能ネフロン数を反映する)で除すことによって、単一ネフロン当たりの代謝負荷を評価することができる。
この検査法は、糖尿病腎症以外にも慢性腎臓病でも、重症度や予後の診断に役立つ可能性があるという。
研究グループは今後の展開として、尿中メガリン測定を組み込んだ臨床研究を行い、3~4年後を目処に尿中メガリン測定試薬の発売や、その後の薬事承認を目指している。
新潟大学大学院医歯学総合研究科機能分子医学講座
Exocytosis-Mediated Urinary Full-Length Megalin Excretion is Linked with the Pathogenesis of Diabetic Nephropathy(Diabetes 2017年2月14日)
[ Terahata ]