夏休みシーズン本番を迎え、海外旅行を予定している人も多いだろう。旅行を楽しむためには健康管理が重要で、渡航先によっては感染症対策が欠かせない。
糖尿病の人が血糖コントロールの悪い状態が続くと、体の免疫反応が低下し、感染症にかかりやすくなることが知られている。感染症が急速に重症化することも多く、回復に時間がかかる。
そして、感染症にかかると血糖値が上昇するので、コントロールが悪化し、糖尿病そのものにも影響が出てくる。ふだんから血糖コントロールを改善するとともに、感染症にかからないように工夫することが大切だ。
リオオリンピック後にジカ熱は拡散する?
ジカウイルスへの懸念からリオデジャネイロオリンピックの開催地変更か延期を求めて世界各国の医師や科学者、研究者ら150人が署名した世界保健機関(WHO)に宛ての公開書簡が5月に公開された。
ブラジルはジカウイルスの感染数が多い国だ。世界中からオリンピックに来た50万人の観光客がジカウイルスに感染したおそれのある状態で帰国し、各地でジカ熱をまん延させる危険性があるという。
ブラジル保健相はこの公開書簡を否定。現時点で、オリンピックの日程・開催地に変更はない。しかし、男子ゴルフの松山英樹選手が出場を辞退するなど、ジカ熱の流行がトップアスリートへ影を落としている。
蚊はジカ熱やデング熱、日本脳炎などを媒介する
ジカ熱は、ジカウイルスが主に蚊を媒介として人に感染し、発熱、頭痛、筋肉痛などの風邪のような症状に加え、皮膚の発疹を伴う。
WHOなどの報告によると、ジカウイルスが流行している地域で、頭部や脳が異常に小さい「小頭症」などの先天異常、ギラン・バレー症候群(筋肉を動かす運動神経の障害により急性の運動まひを起こし、手足に力が入らなくなる病気)、その他の神経症候群や自己免疫症候群が増加している。まだ、関連性は明らかではないが、注意が必要だ。
WHOと各国の公衆衛生当局は、ブラジルへの渡航者に蚊に刺されないよう対策するよう呼び掛けるとともに、妊娠中の女性はリオデジャネイロを含め、ジカ熱が流行している地域には行かないよう勧告している。
ジカ熱と同じ蚊を媒介とするデング熱は、2014年に日本で海外渡航歴のない人が発症し、約70年ぶりに国内感染が起こった。国内に持ち込まれたウイルスが、蚊を介してほかの人へ感染したと考えられている。
ジカ熱やデング熱はタイやフィリピン、ベトナムなどアジアでも流行している。知らぬ間に日本に入ってきたウイルスで、渡航してなくても感染する状況が、今年も起こりえる。
海や山など野外で活動することが増える夏は、蚊も活発に活動する時期。蚊は、ジカ熱やデング熱、日本脳炎などさまざまな病気を媒介する。これらの感染症が流行する地域へ渡航する人はもちろん、国内でも蚊に刺されないための対策をしっかりすることが大切だ。
蚊媒介感染症にかからないための対策
● 虫よけ剤を必ず使う
蚊を媒介とする感染症から身を守るには、虫よけ剤が役に立つ。日焼け止めを使う場合は、先に日焼け止めをつけてから、虫よけ剤を使用する。
日本製の虫よけ剤の成分は、「ディート」と今年新たに薬事承認された「イカリジン」がある。
厚労省が「ディート」30%製剤と「イカリジン」15%製剤の製造販売承認に対し、「迅速審査」を行うことを各都道府県に通知した。これらの製品が登場すると、国内でも高濃度の虫よけ剤の入手が可能となる。
● 子どもや乳児への虫よけ剤の使用
子ども、とくに乳児への虫よけ剤の使用については、虫よけ剤が使用できない場合は、ベビーカーにぴったりと合う蚊帳でベビーカーを覆る。事前に小児科に相談しておくと安全だ。
● 蚊を駆除しているホテルに滞在
蚊を媒介とする感染症は、蚊を駆除することで感染予防につながる。可能な限り、しっかりと網戸がとりつけられているか、エアコンが備わっている、または、蚊をしっかりと駆除しているホテルなどに滞在する。蚊取り線香も有効だ。
● 皮膚の露出部を少なくする
長袖のシャツ、ズボンを着て、できるだけ皮膚の露出部を少なくする。
● 都市部でも蚊に刺されやすい
蚊に刺されやすいのは、公園など自然の豊かな場所だけではない。工事現場のブルーシートにたまった水たまりでも、蚊は繁殖する。つまり、都市部でも安心できない。
● 帰国後に体調が優れない場合は医療機関を受診
帰国後に体調が優れなかったり、発熱などの症状が出たら、近くの医療機関または検疫所にご相談することが大切だ。
医療機関を受診する時には、医師に、渡航先や渡航期間、渡航先での活動などについて、詳しく伝える必要がある。
必要なワクチンをあらかじめ接種しておく
ジカ熱に対するワクチンは、今のところない。デング熱は、ワクチンが開発されて海外では承認されたが、日本ではまだの状態。
それ以外のA型肝炎、破傷風、黄熱にはワクチンがある。海外に行く場合は、必要なワクチンをあらかじめ接種しておくことが重要だ。特に南半球は冬季を迎えインフルエンザが流行するため、季節性のインフルエンザワクチン接種も役立つ。
「トラベルクリニック」を活用する
「トラベルクリニック」は、旅行者や海外赴任者に対し、海外に行く前後に診療し、健康上の指導や感染症治療にあたる専門外来だ。
トラベルクリニックは旅行者や海外赴任者に渡航先でリスクがある感染症について注意を促し、必要に応じて予防接種をする。国際渡航医学会に登録されている日本の施設は2016年7月現在で、32都道府県の92施設に上る。
どの地域でどんな感染症が流行しているかといった情報は刻々と変わる。トラベルクリニックでは、渡航先の感染症の流行情報を把握しており、医療事情の情報提供にも応じている。
トラベルクリニックの役割は、病気予防だけではない。海外では言葉の問題や保険制度の違いから、思わぬ事態に直面することもある。年齢や持病に合わせた健康指導、現地の医療機関の紹介もトラベルクリニックの役割だ。
Off the Podium: Why Public Health Concerns for Global Spread of Zika Virus Means That Rio de Janeiro's 2016 Olympic Games Must Not Proceed(ハーバード大学 2016年5月27日)
[ Terahata ]