血液中にわずかに含まれるアミノ酸の量から、腎臓病が悪化するリスクを予測する方法を発見したと、大阪大学と九州大学の研究チームが発表した。人工透析の導入を防ぐために、リスクの高い人を早期に発見し、積極的に治療できるようになる可能性がある。腎臓病を合併しやすい糖尿病などの治療にも役立つという。
腎臓病の進展を予測する画期的な方法を発見
慢性腎臓病(CKD)は、血液中の老廃物を取り除く働きをもつ腎臓の働きが、健康な人の60%以下に低下するか、あるいはタンパク尿が出るといった異常が続く状態をいう。現在、日本には約1,330万人のCKD患者がいるとされ、これは成人の約8人に1人にあたる数だ。
腎機能が低下してしまうと、それをもとの状態に戻すのは困難だ。腎臓の機能が10%にまで低下すると、人工透析や腎移植を受けなければ生きられなくなる。さらにCKDは、透析になるだけではなく、心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患の重大な危険因子になる。腎臓を守ることは、心臓や脳を守ることにつながる。
透析療法は患者の生活の質(QOL)を大きく低下させ、医療費を増大させる。慢性腎臓病を進展させないことが重要な課題となっているが、予後を推定する有効な方法はみつかっていない。
大阪大学腎臓内科学の猪阪善隆教授らの研究チームは、血中に微量しか存在しない「D型アミノ酸」に着目。
アミノ酸はタンパク質の構成要素であり、ほとんどのアミノ酸には「L型アミノ酸」と「D型アミノ酸」がある。大部分は「L型アミノ酸」だが、最近の技術の進歩により「D型アミノ酸」がごく微量あり、さまざまな生理活性をもつことが分かってきた。
研究チームは2005~09年に大阪大学の関連病院を受診した慢性腎臓病患者118人を対象に、九州大学薬学部の浜瀬健司准教授らが開発した新型の「高速液体クロマトグラフィー」解析装置を活用して、血中のD型アミノ酸を測定し、平均4年間経過を見た。
その結果、2種類の「D型アミノ酸」について、血中濃度が高いと人工透析や死亡に至るケースが、濃度が低いケースの2~4倍になった。
「D型アミノ酸」のような体内の代謝物はその時々の体内の状態を反映している。今回の成果は、腎臓病の進行を抑制し透析導入を防ぐために、患者の個人差に合わせて最適な医療を提供する「テイラーメイド医療」を実現させる手かがりとなる。
「これまで有効な予測法がなかった腎臓病の進展を予測することを可能とする画期的な方法を発見した。腎臓病に合併しやすい心不全、心筋梗塞などは、慢性腎臓病の重症度により予後が大きく変動する。これらの疾患でも患者の予後を改善できる可能性が高い」と、猪阪教授は述べている。
研究は、大阪大学大学院医学系研究科内科学講座(腎臓内科学)の猪阪善隆教授、医学部附属病院老年・腎臓内科の木村友則氏、九州大学薬学部 浜瀬健司准教授らの研究グループによるもで、科学誌「Scientific Reports」オンライン版に発表された。
大阪大学大学院医学系研究科内科学講座(腎臓内科学)
Chiral amino acid metabolomics for novel biomarker screening in the prognosis of chronic kidney disease(Scientific Reports 2016年5月18日)
[ Terahata ]