10月10日は「世界メンタルヘルスデー」だった。世界メンタルヘルスデーは世界保健機関(WHO)が協賛する国際デーで、オランダに本部を置く「世界メンタルヘルス連合」(WFMH)が1992年に、「メンタルヘルス問題に関する社会の認知を高め、偏見をなくし、正しい知識を普及する」ことを目的に開始した。
うつ病がもたらす社会的な損失は深刻
世界メンタルヘルスデーには、職場のメンタルヘルス対策を行う必要性が訴えられた。もっとも多くみられるメンタルヘルスの不調として、うつ病に焦点があてられた。
糖尿病患者はうつ病になりやすく、またうつ病患者も糖尿病になりやすいことが知られている。うつ病になると、血糖コントロールが難しくなり、結果として糖尿病合併症を発症しやすくなるので、うつ病を早期に発見し適切な治療を受けることが重要だ。
うつ病を発症する患者は増えており、世界の17ヵ国で実施された国際調査によると、20人に1人が生涯にうつ病の状態を経験しているという。うつ病が原因で自殺する人の数は全世界で年間100万人に上ると試算されている。
うつ病がもたらす社会的なコストも深刻だ。うつ病による社会的損失は、年間に米国では約25兆円(2,100億ドル)、欧州では約12.5兆円(920億ユーロ)に上ると試算されている。しかし、うつ病に対する対策は十分に行われておらず、うつ病に対する医療費は全体の2%に過ぎない。
思考の悪循環を断ち切る「認知行動療法」は効果的
うつ病の主な症状は、「抑うつ気分」「興味や喜びの低下」「エネルギーが低下し疲れやすくなる」「睡眠と食欲の障害」「集中力の低下」などで、しばしば不安症の症状を伴う。慢性化したり再発を繰り返し、仕事で責任ある行動ができなくなどの機能の障害を生じる。これらの症状が続く場合にうつ病と診断される。
適切な治療が行われるためには、重症度やうつ病のタイプを見分けることが大切だ。薬物治療に優先し、患者の話をよく聞き適切なアドバイスをする支持的精神療法(カウンセリング)、うつ病とはどのような病気かなどを説明する心理教育が行われる。
中等症・重症の場合には、治療の最初から積極的に抗うつ薬による治療が行うと同時に、うつ病になりやすい考え方の傾向を修正する「認知行動療法」が行われることがある。
抗うつ薬で治療する場合、副作用の比較的少ない新しい抗うつ薬1種類がまず処方される。抗うつ薬は原則、単剤から始め、場合によっては2剤を併用することもある。症状がなくなる(寛解)までに2~3ヵ月が必要だ。
「認知行動療法」とは、認知・行動の両面から働きかけ、セルフコントロールを高め、社会生活上で起きるさまざまな問題の改善や課題の解決をはかる心理療法のこと。うつ病を発症する人では特徴的な認知の偏りがみられ、これが気分や行動、身体の状態などに影響し、悪循環から抜け出せなくなりやすい。この悪循環を断ち切る方法として認知行動療法は有効とされている。
高齢者のうつ病には注意が必要
うつ病は働き盛りの人に多い病気だが、高齢者にも多くみられる。退職による孤立、経済的な心配、配偶者や親しい人との死別、病気や体の衰えといった環境の変化がきっかけとなり、うつ病を発症することが多い。
高齢者のうつ病で現れる症状は、アルツハイマー型認知症の初期の症状に似ている。どちらも活気がなくなり引きこもりがちになり、物事に対する興味も示さなくなる点が共通しているが、認知症のもの忘れはゆっくり進行し、本人に自覚はなく、周囲の人から指摘され病気が発見されることが多い。それに対し、うつ病のもの忘れは比較的急にはじまり、本人に自覚があり苦痛に感じたり、自己否定の考え方に偏りがちだ。
高齢者のうつ病では、薬は少量から使い始め、副作用やのみ合わせに気をつけることが必要となる。趣味をもったり、家庭や地域で役割をもったりなど、自分に合った方法で生活の中で楽しみを見つけ、人と関わりをもつことがうつ病を改善するのに効果的という調査結果がある。
Depression in the workplace(世界メンタルヘルス連合)
Depression(世界保健機関)
[ Terahata ]