筑波大学は、血液中の「アミロイドβペプチド」の排除や毒性防御に働くタンパク質「シークエスタータンパク質」が、認知機能低下のマーカーになることを発見したと発表した。認知症を健診などの血液検査で早期発見できるようになる可能性がある。
健診で活用できる実用的な検査法の開発につながる成果
厚労省研究班の調査によると、2012年の日本の認知症高齢者数は462万人で、予備群数は400万人に上る。認知症の7割がアルツハイマー病で、要介護の原因疾患の20%が認知症であり、その社会コストは14.5兆円と推定されている。
認知症は、症状が出るずっと前から病気が進行することが知られている。認知症は発症すると治癒は難しいが、発症から10年~20年前に神経細胞毒性のある物質が脳内に蓄積しており、この段階で治療的介入ができれば、発症を遅らせることができると考えられている。
認知症の予備群が「軽度認知障害」(MCI)で、さらにその前に「プレクリニカル期」という臨床症状のない時期がある。
アルツハイマー病の発症の20年くらい前から、認知症の要因のひとつである「アミロイド・ペプチド」が脳内に蓄積することが知られている。
認知症では、症状が出る前に先んじて治療的介入する「先制医療」が重要となる。臨床症状のないプレクリニカル期やMCIの段階で介入するために、病気の進行の目印になる「バイオマーカー」が必要だ。
研究チームは今回の研究では、血液中のアミロイド・ペプチドの排除や毒性防御に働くタンパク質「シークエスタータンパク質」が認知機能低下のマーカーになることを発見した。
認知症の症状がでる前に「先制医療」 実現に期待
今回の研究のもとになったのは、2001年から継続して実施されている茨城県利根町のコホート研究で、研究チームは3年後ごとに認知機能検査、臨床診断と採血を行い、血液中のバイオマーカーの探索をしてきた。
約2,000人から始まったコホート研究で、それぞれの参加者を時間軸にそって、健常からMCIや認知症まで継続的に調査する「縦断研究」によって、シークエスタータンパク質の血液中の変化が明らかになった。
研究チームはこれらのタンパク質を独立した他の臨床サンプルで調べた結果、最終的に補体タンパク質、 アポリポタンパク質、トランスサイレチンの3つの血清タンパク質を組み合わせた解析(マルチマーカーによる回帰分析)により、認知機能健常とMCIを約80%の精度で識別することに成功した。
研究チームはさらに独立したコホート研究で、その再現性を確認した。今回発見されたバイオマーカーは、実用性がある一般的な血液検査法で測定できることから、今後の先制医療の実現に貢献することが期待されると研究グループは述べている。
今後、さらに検査の精度を上げるとともに、バイオマーカーによる早期発見と発症前の治療的介入が、認知機能の低下の進行を防ぎ、認知症の発症を予防することを、長期的なコホート研究によって確かめるとことが必要としている。
この研究は、筑波大学医学医療系の内田和彦准教授、東京医科歯科大学医学部の朝田隆特任教授らの研究グループによるもので、医学誌「Alzheimer & Dementia: Diagnosis, Assessment & Disease Monitoring」に発表された。
筑波大学医学医療系
Amyloid-β sequester proteins as blood-based biomarkers of cognitive decline(Alzheimer & Dementia: Diagnosis, Assessment & Disease Monitoring 2015年6月)
[ Terahata ]