脳卒中は男性に多い病気と思われがちだが、実は女性の脳卒中は増えており、重症化しやすいことが知られる。脳卒中の危険信号を知っておき、発症したら迅速に治療をするための対策が必要だ。
脳卒中は女性にも多い病気
脳卒中は、脳の血管が詰まったり破れたりして、脳の機能が損なわれる病気の総称。脳卒中を発症したら、すぐに治療を受ける必要がある。そのために重要なのは、脳卒中の発症時に現れる症状に早く気づくことだ。
脳卒中は男性だけでなく女性でも多い病気で、米国で女性の死亡原因の第3位に、日本でも第3位になっている。米国では女性の脳卒中患者数が多く、脳卒中による死亡の6割を女性が占めているという。
脳卒中の怖いところは、後遺症が残りやすく、寝たきりの主な原因になることだ。特に女性では、男性に比べて脳卒中後の回復が不良で、生活の質(QOL)も低下することが知られている。
女性の脳卒中の典型的な症状
脳卒中を発症したときは、可能なかぎり早く医療機関を受診することが重要で、そのために典型的な症状を覚えておくことが必要だが、女性の多くは脳卒中の危険信号についての知識が不足していることが米国の調査で明らかになった。
5月の脳卒中予防月間に合わせて、米オハイオ州立大学は全国の1,000人の女性を対象に、意識調査を行った。その結果、妊娠高血圧、顔面などの皮膚にあらわれる病変、偏頭痛、経口避妊薬、ホルモン置換療法などが女性の脳卒中の危険因子であることを知っていた女性は10%に過ぎないことが分かった。
また、吃逆(しゃっくり)とともに不規則な胸部痛、頭痛や吐き気がある場合は、脳卒中などの脳の病変が呼吸中枢に影響を及ぼしているおそれがある。しゃっくりが脳卒中の早期危険信号であることを知っていた女性は10%だった。
「多くの女性は、脳卒中は男性が発症する病気だと考えていますが、それは間違いです。女性は自分も脳卒中を発症する可能性があることを知るべきであり、どうしたら予防できるかや、発症した場合の適切な治療について知識をもつべきです。脳卒中の兆候を無視してはいけません」と、オハイオ州立大学のダイアナ グリーネチャンドス氏は指摘する。
女性の脳卒中予防ガイドラインを発表
米国心臓協会(AHA)と米国脳卒中協会(ASA)は昨年、女性の脳卒中予防ガイドラインをはじめて発表した。そこでは、女性の脳卒中は一般に高齢期に発症するが、そのリスクを早い段階で低減することが重要と指摘している。
高血圧、前兆を伴う偏頭痛、心房細動、糖尿病、うつ、感情的ストレスは、女性に多い脳卒中の危険因子となる。
さらに、妊娠中期以後に、妊娠がきっかけになって高血圧症を発症したり、高血圧が伴う蛋白尿がみられると「妊娠高血圧症」と診断される。高血圧は脳卒中の最大の原因で、特に女性では妊娠高血圧症がある場合、その後の高血圧発症リスクが4倍、脳卒中リスクが2倍に上昇する。
脳卒中を予防するために血圧コントロールが必要
脳卒中を予防するためにまず必要なことは、血圧値を適正に治療することだ。自分は健康と考えている女性も、自分の妊娠・出産期に起きたことを振り返ってみることが大事だ。
ガイドラインでは「妊娠高血圧症の既往をもつすべての女性は、定期的な検査を受け、高血圧、肥満、喫煙、高コレステロール血症のような危険因子の治療を行う必要がある」と推奨している。
また、経口避妊薬を服用する前に検査を受け、高血圧の有無を調べるべきだとしている。その理由は、両者の合併は脳卒中発症リスクを増加させるためだ。またピル内服中の喫煙は脳卒中リスクを増加させるため、喫煙すべきではないとしている。
閉経後の女性に対し女性ホルモンである「エストロゲン」と「プロゲスチン」を投与する治療は「ホルモン代替療法」と呼ばれ、骨密度を上げ骨折の危険因子を減らすメリットがある。この治療も脳卒中のリスクを上昇させるので、注意が必要だ。
心房細動にも注意が必要だ。心房細動は脳卒中のリスクを5倍に上昇させ、この年齢層の女性は男性に比べ不整脈を発症しやすい。「75歳以上の女性は不整脈のひとつである心房細動の検査を受けるべきである」とアドバイスしている。
脳卒中の危険信号「FAST」を知り迅速に治療
「脳卒中の"危険信号"を認識し、迅速な治療を受けることは非常に重要となる。米国脳卒中学会は、脳卒中の"危険信号"への認識を高めるために、「F. A. S. T.」という標語を作り、キャンペーンを行っている。
顔の麻痺(Face)、腕の麻痺(Arm)、言葉の障害(Speech)の頭文字を組み合わせたもので、Tは時刻(Time)の頭文字で発症時刻のこと。3つの症状の有無と発症時刻を確認して、一刻も早く救急受診するよう呼びかける標語だ。
「脳卒中の症状について知っておき、1つでも突然起こったときには、すぐに救急車を呼ぶことが重要です。様子をみている間に手遅れになるケースもあります。脳卒中の危険信号について理解することで、脳卒中による死亡率や障害を減らすことができます」と、米国脳卒中学会のキャロリン ブロッキントン氏は指摘する。
脳の血管が詰まる脳梗塞の場合、発症から3~4時間なら多くの脳細胞はまだ完全に死んでない。この間に治療を受けることができれば、脳の機能を取り戻せる可能性が高くなる。
脳卒中が疑われる症状が数時間以内に消えた場合は、脳の血管にいったん血栓が詰まったものの、すぐに溶けて血流が再開する一過性脳虚血発作(TIA)の可能性がある。TIAを放置しておくと数ヵ月以内に脳梗塞を発症することが多い。TIAを疑う症状が現れたら、早めに医療機関を受診することが大切だ。
Survey Finds That Most Women Do Not Know Female-Specific Signs, Symptoms Of Stroke(オハイオ州立大学 2015年4月17日)
Hidden Stroke Risk Factors for Women(米国脳卒中学会 2014年2月6日)
[ Terahata ]