「マインドフルネス瞑想」はストレス管理に役立つメンタルトレーニングとして米国で普及している。認知症を予防し、睡眠障害を改善する可能性を示した研究が発表された。
「マインドフルネス」は、日本の禅などの考え方や瞑想をベースにしたメンタルトレーニングとして米国で発達した。マインドフルネスを日本語に訳すと「気付くこと」「意識すること」という意味になる。自分の体や心の状態を意識する瞑想を毎日行うことで、ストレスを受ける場面に遭遇したときなどに否定的な感情にとらわれることなく、平静さを保てるようになるという。
最近は宗教色を一切排除し、科学的な根拠を示した研究が増えており、マインドフルネスを応用した瞑想は認知症やうつ病の症状改善に有効と考えられている。集中力も高められるとして、米国ではマインドフルネスをベースにした社員研修プログラムを提供する企業が増えている。
いつまでも若く 瞑想が脳の老化を防ぐとの研究
瞑想は認知症のリスクを低下するのに効果的という調査結果を、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究チームが発表した。
先進国で1970年代に比べ平均寿命が10年以上長くなったのは良いことだが、寿命の延長と高齢者の増加は認知症などの脳疾患の増加という新たな問題をもたらした。
「マインドフルネスを取り入れた瞑想は、加齢にともない増える精神疾患や神経変成疾患といった脳の病気のリスクを減らすのに効果的である可能性があります」と、UCLA脳マッピングセンターのフロリアン クルト氏は言う。
脳には神経線維が集中している「灰白質」と呼ばれる部位がある。高齢者がコンピューター断層撮影(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)といった検査を受けると、灰白質の異常がみつかることがあり、多くは、部分的に血液が行き渡らなくなる虚血性病変だ。灰白質の異常が重度になると、脳機能障害や生活能力の低下が引き起こされ、認知症のリスクが高まる。
「瞑想を習慣として行っている人では、加齢に伴う脳の白質病変の度合いが少ないことは、過去の研究で確かめられています。今回の調査で、瞑想が神経細胞を含む脳の灰白質を保護する可能性が示されました」と、クルト氏は言う。
高血圧や糖尿病が脳の白質病変の危険因子
研究チームは、瞑想をする習慣のある50人と、瞑想をしていない50人の脳を調べた。瞑想をしている参加者の平均年齢は51.4歳で、男性28人、女性22人からなり、瞑想の期間は平均19.8年間だった。
参加者の脳をMRIを用いて調べたところ、瞑想をしているグループでは瞑想をしていないグループに比べ、灰白質の減退が少ないことが確認された。
クルト氏は「白質病変には高血圧や糖尿病などの生活習慣病や、生活スタイル、遺伝的な要因などさまざまな因子が影響しています。今回の研究だけでは、瞑想と灰白質保護の直接的な関連を示すのは不十分です」としながらも、「瞑想が脳の老化に良い影響をもたらすという科学的なエビデンスは増えています。今後の病理学的な解明を期待しています」と述べている。
マインドフルネス瞑想が睡眠の質を改善
また、マインドフルネス瞑想を行うと睡眠の質が改善するという研究を、南カリフォルニア大学の研究チームが発表した。この研究は、米国医師会が発行する医学誌「JAMA Internal Medicine」に掲載された。
研究には、睡眠障害を抱える55歳以上の患者49人が参加した。参加者に睡眠と認知行動の関連を教える6週間の教育プログラムに参加してもらい、うち24人にはそれに加えてマインドフルネス瞑想に取り組んでもらった。
マインドフルネス瞑想のプログラムでは、ストレスへの対処法やリラックスの仕方、心を静める呼吸法などが教えられた。瞑想を行うグループは就眠前に毎日20分の瞑想を行った。
睡眠の質を「ピッツバーグ睡眠質問票」(PSQI)を用いて調べたところ、6週間のプログラムの開始前の平均スコアは10だった。通常の教育プログラムに参加したグループでは、スコアが平均1.1ポイント改善したが、マインドフルネス瞑想に取り入れたグループでは平均2.8ポイント改善していた。
「マインドフルネス瞑想を行ったグループは、睡眠の質の改善がより改善していました。瞑想が高齢者の睡眠の質を改善するという研究は過去にも行われています」と、研究者は述べている。
Forever young: Meditation might slow the age-related loss of gray matter in the brain, say UCLA researchers(カリフォルニア大学ロサンゼルス校 2015年2月5日)
Mindfulness Meditation Appears to Help Improve Sleep Quality(米国医師会 2015年2月16日)
[ Terahata ]