DNAが傷ついたときの生体反応やがんの抑制に関わるタンパク質「ATM」が、糖尿病の発症に関係していることを、東京医科歯科大学の研究チームが明らかにした。
なぜ糖尿病の人は「がん」を発症しやすいのか
日本糖尿病学会と日本癌学会の合同委員会が2013年に発表した調査で、糖尿病の男性はそうでない男性に比べて1.27倍がんになりやすく、特に、大腸がんになるリスクは1.36倍、膵臓がんは1.85倍、腎臓がん1.92倍も高いことが明らかになった。
糖尿病の人がなぜがんになりやすいのか? インスリンは細胞を成長させ増殖させるホルモンであり、増え過ぎると細胞のがん化につながるのではないかと考えられているが、発症メカニズムはまだ明らかになっていない。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科の高木正稔氏らは、糖尿病と発がんの関連解明につながる新しい分子メカニズムを発見した。
研究チームが着目したのは、DNAが傷ついたときに起こる生体反応や発がん抑制に関わるタンパク質「ATM」。
研究の背景となったのは、ATM遺伝子の変異が原因で免疫不全や運動失調などを引き起こす「毛細血管拡張性運動失調症」だ。発症すると高い確率で糖尿病とがんを合併しやすいことが知られている。
正常な脂肪細胞は、脂肪の燃焼を促す善玉ホルモンとして知られる「アディポネクチン」などを分泌し、個体の糖代謝を正常に保っているが、ATMが変異していると、脂肪細胞の分化が抑制されアディポネクチン分泌が減り、糖尿病を発症しやすくなるという。
研究チームは、ATMの遺伝子を欠損したマウスで詳しく解析した。ATMがないマウスでは、脂肪細胞の成熟に関わる転写因子が誘導されず、個体の脂肪組織が未熟なままだった。
DNAが傷ついたときに発生する生体反応(DNA損傷応答)は糖尿病発症に関係している。さらに、ATMはがん抑制遺伝子であり、欠損していると細胞のがん化が促されるという。
「DNAの傷の修復にかかわる分子が糖尿病発症に関係していることを具体的に示すことができた。糖尿病患者にATMの異常が潜んでいる可能性があり、がんの発症にもつながっている。マウスを使った実験の結果だが、ヒトでも同じことは起きているだろう。糖尿病の臨床研究の新しい一歩になりうる」と、高木氏は述べている。
研究は、東京医科歯科大学内分泌代謝学分野、国立長寿医療研究センター、国立成育医療研究センター、順天堂大学、ソニーが共同で行ったもので、米科学誌「Cell Reports」オンライン版に発表された。
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究所 分子内分泌代謝学分野 医学部附属病院 糖尿病・内分泌・代謝内科
[ Terahata ]