母乳に含まれる脂肪酸が子供の体内で脂肪を燃やす遺伝子のスイッチを入れる働きをしていることを、東京医科歯科大学などの研究チームがマウスを使った実験で突き止めた。
母乳で育った子供は肥満や糖尿病になりにくい
母乳に多く含まれる栄養成分である脂質が、体内で脂肪を燃やす遺伝子のスイッチを入れる働きをしていることを、東京医科歯科大学の小川佳宏教授(内分泌代謝学)らの研究チームがマウスの実験で突き止めた。
研究は、母乳で育った子供は肥満などの生活習慣病になりにくい可能性を示すもので、医学誌「ダイアベティズ」に10月13日付けで発表された。
研究チームは、出生直後のマウスの肝臓の遺伝子を解析。脂肪の燃焼に関連する遺伝子の状態を比較した。
母乳に豊富に含まれる脂質と結合する性質がある「PPARα」という分子は、脂肪燃焼の遺伝子を活性化させるスイッチのように働いている。脂肪が豊富に含まれる母乳を与えてしばらくすると、スイッチをオフからオンの状態に変わることが判明した。
PPARαの働きを活性化させるると、DNAメチル化という現象が消失し、脂肪を燃焼させる遺伝子が活性化されることも分かった。
遺伝子そのものを変化させずに遺伝子のはたらきを調節する仕組みを「エピジェネティクス修飾」と呼ぶ。DNAメチル化はエピジェネティクス修飾のひとつで、遺伝子のはたらきを抑制する。DNAメチル化が減少すると、遺伝子のはたらきが増加する。
脂質が豊富な母乳で育てると、脂肪が燃焼しやすくなることが知られていたが、遺伝子レベルでのメカニズムは分かっていなかった。母乳に含まれる脂質は、乳児の栄養成分として重要なだけでなく、成人になってからの健康にも深く関わっている可能性があるという。
胎児期や乳児期の栄養状態は、何らかの仕組みで記憶され、大人になっても影響を与えることが知られている。例えば、妊婦が過栄養や栄養不足だと、生まれた子どもが成人になってから生活習慣病になりやすい。
研究成果は、乳児期の栄養を調整すれば、肥満や2型糖尿病などの生活習慣病になるリスクを減らせる可能性を示したもので、小川教授は「乳児期に良好な栄養状態を体に記憶させることは、子供の健康な発育・成長に重要。胎児期?乳児期の栄養状態に介入すれば、生活習慣病の危険度を下げられる可能性がある」と話している。
東京医科歯科大学
Ligand-Activated PPARα-Dependent DNA Demethylation Regulates the Fatty Acid β-Oxidation Genes in the Postnatal Liver(Diabetes 2014年10月13日)
[ Terahata ]