笑いはお金がかからず、いつでも臨機応変に、ストレスを管理する効果的な手段になる。「よく笑うことはストレス低減につながります。血糖値やコレステロール値を下げるのにも効果的です」と専門家はアドバイスしている。
副腎皮質から分泌されるホルモンでストレスに関わるホルモンとされる「コルチゾール」や「アドレナリン」は、過度なストレスがかかると血液中に増える。不安やうつ、怒りに満ちた状態は精神的なストレスを高め、睡眠不足、たまった疲労は肉体的ストレスを生む。こうした状態が続くと体内ではストレスホルモンの分泌が促進される。
米ロマリンダ大学の研究で、笑うことでストレスホルモンの分泌が減ることが確かめられた。また、笑いによって脳内神経伝達物質の「セロトニン」の分泌も活性化する。これにより精神が安定し、うつ病などの発症を抑えやすくなる。
笑いが糖尿病患者のコレステロール値を改善
毎日の笑いは、糖尿病患者の血中コレステロール値の改善を助け、心臓発作のリスク低減にもつながるとの研究が、2009年の米国生理学会(APS)年次集会で発表された。
米ロマリンダ大学のリー ベルク博士(予防医療)らは、2型糖尿病で高血圧と高コレステロール血症のある成人患者20人(平均年齢50歳)を対象に実験を行った。参加した患者は糖尿病の治療を受け、降圧薬とコレステロール降下薬を服用していた。
参加者を、生活に積極的に笑いを取り込む笑い群と対照群に無作為に割り付けた。笑い群には、テレビのお笑い番組やビデオのコメディ映画などを自分で選び、毎日30分以上視聴するように指導した。通常の治療は、笑い群と対照群の両方に続けた。
12ヵ月後に、コレステロール値と心疾患との関連性が示される炎症マーカーであるC反応性タンパク(CRP)値を比較した。笑い群では善玉のHDLコレステロール値が26%増加しており、対照群の3%増に比べて有意な改善がみられた。CRP値も、笑い群では66%の低下に対して、対照群では26%の低下にとどまっていた。
「笑いは炎症性の刺激を抑え、善玉のコレストロールを増やし、結果として心臓病のリスクを減少するという結果になりました。笑いには健康維持や治療改善に効果がありますが、受けている治療に対する付加的効果もあると考えられます」と、ベルク博士は述べている。
「糖尿病や高血圧症は自己管理がつきまとう病気ですが、多くの患者はそれが原因でストレスに悩まされています。笑いには、ストレスを解消し、緊張をやわらげる作用があります。治療が長期にわたる疾患では、笑いを生活に取り入れて、ストレスをコントロールすることが大切です」(ベルク博士)。
現代人は笑いが少ない もっと笑いましょう
英国バーミンガム大学とオックスフォード大学の研究者が、1946~2013年に発表された785件の研究を解析し、笑いのメリットを検討した。専門家が考える笑いの効果として、次のことがあるという。
・笑いが血糖値を下げる
筑波大学名誉教授の村上和雄氏らが行った実験で、笑うことで血糖値を下げられることが明らかになった。糖尿病患者が吉本新喜劇のお笑いステージを見て大笑いをした後で、血糖値を測定したところ、食後血糖値は下がっていた。
・笑うと免疫力がアップ
笑うと、生命活動を維持するために必要な自律神経に変化をもたらし、体内のさまざまな器官に刺激が与えられる。この刺激が「神経ペプチド」という免疫機能活性ホルモンの分泌を促す。このホルモンの影響で免疫力をアップさせるナチュラルキラー細胞が活性化したり、鎮静作用と快感作用のある「エンドルフィン」などのホルモンが分泌される。
・笑いが血圧を下げる
笑うことで副交感神経が活発になり、自律神経系中枢がある大脳辺縁系から放出されるノルアドレナリンが放出が抑制される。ノルアドレナリンは血圧を上昇させるので、結果として血圧の改善にもつながる。
・よく笑う人は身体活動が高い傾向がある
笑うことで、リラックスしたまま筋肉が動かされる。横隔膜が刺激され、腹筋を引き締められる。よく笑う人は身体活動によるカロリー消費が多い傾向がある。
・笑いは対人関係にも影響
「笑いは伝染する」と言われている通り、笑うことで周囲のムードは協調的になる。対人関係のストレスが減り、社会的な相互作用も改善する傾向がある。
健康な子供は1日に平均で約400回笑うが、成人になると笑う回数は15回に減るという。「現代人は笑いが少ない。もっと笑いましょう」と研究者はアドバイスしている。
欧米の病院には、入院中の子供や高齢者たちの前でパフォーマンスをするホスピタル・ピエロがいる。ピエロは子供たちや老人の緊張を解き、大笑いさせるだけではない。笑いには痛みに対する耐性を強め、痛みを感じにくくする効果もあるという。
テレビやラジオ、映画など、笑いをテーマとしたエンターテイメントはたくさんある。本気になって探せば、笑いを誘うメディアはたくさん見つかるはずだ。知人と会ったり、気のあったグループの集まりに参加することでも、笑いは得られる。
ただし、笑っているときに息を吸い過ぎると、異物を吸入したり喘息発作を誘発したり、大笑いで尿失禁を起こす可能性もある。研究者は「笑いのほとんどは有益なもので、危害のリスクは少ない。毎日をほどほどに笑って過ごしましょう」と指摘している。
Laughter Lowers Heart Disease Risk in Diabetics(デフィート糖尿病財団 2009年4月18日)
Is laughter really the best medicine?(ブリティッシュ メディカル ジャーナル 2013年12月12日)
[ Terahata ]