神奈川糖尿病療養指導士認定機構は「第6回研修会」を9月に横浜で開催した。独自に認定している神奈川糖尿病療養指導士(KLCDE)は順調に増えており、今後の活動範囲の拡大が期待されている。
神奈川糖尿病療養指導士(KLCDE)とは、糖尿病とその療養指導全般に関する正しい知識をもち、医師の指示の下で患者に適切な療養支援を行うことのできる医療・介護・福祉スタッフに対し、神奈川糖尿病療養指導士認定機構が認定する資格。神奈川県内の10個の団体が発起団体となり、2007年に開始され、現在は396名が認定されている(2012年4月時点)。
KLCDEの有資格者の職種は薬剤師、看護師・准看護師、保健師、管理栄養士、健康運動指導士、歯科衛生士など多岐にわたる。今年の春には第1回の認定更新が行われた。認定単位取得のための研修会は、県内の各地で開催されている。
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第6回神奈川糖尿病療養指導士認定機構研修会が、9月9日に横浜の新都市ホールで開催され、560名が参加した。糖尿病ケアの質向上をはかり、KLCDEの資格を取得・継続のための単位を取得できる研修会で、主な内容は次の通り――
特別講演「今一度考えよう 糖尿病の食事療法」
講師:土井邦紘 先生(土井内科 院長 京都糖尿病医会 名誉会長)
日本における糖尿病専門医の草分け的な存在といえる土井邦紘先生は、豊富な指導実績をもとに、糖尿病の食事療法を継続するための療養指導のポイントと、糖尿病の食事療法の歴史と最新の動向をわかりやすく解説した。
2型糖尿病の病態は、めまぐるしく変化している。終戦前後まで、糖尿病はほとんどみられなかったが、現在の日本では国際糖尿病連合(IDF)の発表によると、糖尿病人口は1067万人に上る。糖尿病患者は、戦前、前後の食の貧しい時代に生を受けた人から、飽食の時代に生まれた人まで多彩で、病態も多様だ。
「日本における糖尿病患者数の激増は、もともとインスリン分泌が低下しやすい素因をもつ日本人が、高脂肪食や運動不足などにより引き起こされた肥満を介してインスリン抵抗性の要因にさらされたという背景をもつ。日本人は軽度のインスリン抵抗性によって糖尿病を発症しやすいといえる。日本人の病態を知った上で、膵臓のインスリン分泌、インスリン保有量を推定し、肥満症、動脈硬化性疾患をも考慮しつつ個々の治療に当たることが重要となる」と土井先生は強調する。
土井先生はグリセミック・インデックス(glycemic index)に関する日本の先駆けとなる研究を積み重ねてきた。日本食は世界的に見直されているが、比較的望ましいのは1970年頃の日本食だという。一方で、一時的・興味本位にマスコミによる報じられたダイエットが流行し、かえって体調を悪くする患者も少なくないとし、療養指導士が適正な食事指導を行う必要性を説いた。
「日本は食文化はちゃぶ台の時代からテーブルの時代になり、いまや個食のバラバラの時代となった。戦後急速に肉食が食卓を飾るようになると糖尿病は増え、栄養不足の改善を促した時代から栄養過多を戒める時代へと変化し、現在はいかに摂取エネルギー量を抑えるかという時代に入っている。日本糖尿病学会が勧めている食品交換表にそった食事量は、日本人にとって望ましい食品構成となる」と指摘した。
特別講演「運動療法上級編〜糖尿病患者のランニング〜」
講師:菊池信行 先生(横浜市立みなと赤十字病院 小児科 部長)
講師:大津成之 先生(北里大学 医学部 助教)
糖尿病の運動療法は多様化しており、最近はランニングに挑戦する患者が、1型糖尿病を中心に増えている。菊池信行先生は、糖尿病患者が安全に走るための注意事項、指導方法を解説した。
「糖尿病をもっている人では、自己管理を行っていれば、どんなスポーツにも挑戦できるが、逆に自己管理ができてない状態であると、スポーツには危険がともなう。日頃から十分なトレーニングと血糖管理を行うことが重要となる」と菊池先生は強調する。糖尿病の人は、心臓の検査などメディカルチェックを受けることが重要で、マラソン後に急性冠疾患を発症する人は、冠動脈病変に気づいていないケースが多い。特に2型糖尿病の人は参加前の主治医との綿密な相談が欠かせないという。
糖尿病患者がランニングを行うときの注意事項として、▽進行中の合併症がないこと、▽低血糖の自覚症状がわかり、自分で対処できること、▽心臓疾患のないこと(自覚症状がなくともチェック)、▽日頃から十分なトレーニングを行っていること、▽体調が優れないときは無理をしないことを挙げた。
日本糖尿病協会の「Team Diabetes Japan」は、「糖尿病だからといってできないことはないという"No Limit"を基本概念におきながら、運動を通じて自己管理を行い、糖尿病と向き合い生活の質を高めるため、またその支援を目的とする」チームだ。
大津成之先生はTeam Diabetes Japanの活動を紹介し、「運動することは糖尿病をコントロールする上で大切である。しかし、強制的な運動療法ではなく、自主的に楽しみながら運動をできるように、仲間をつくり、マラソン大会やウォークラリーなどの行事に参加すること、日々の運動療法の目標を達成することに役立つ。マラソン大会に参加することで、患者さんだけではなく、家族、医療関係者、企業、ボランティアなど、あらゆる方々が一緒に参加することで連帯感をもてる」と強調した
Team Diabetes Japanが参加する「タートルマラソン全国大会」は10月21日に東京都足立区で開催されるという。
特別報告「神奈川糖尿病療養指導士のあり方」
演者:平尾紘一 先生(H.E.Cサイエンスクリニック 理事長/神奈川糖尿病療養指導士認定機構 代表)
神奈川糖尿病療養指導士(KLCDE)は、糖尿病とその療養指導全般に関する正しい知識を有し、医師の指示下で対象患者に熟練した療養支援を行うことのできる医療、福祉、介護スタッフを養成・認定する資格だ。
日本糖尿病療養指導士(CDEJ)を取得するための条件は厳しく、「看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師、理学療法士の資格があること」、「日本糖尿病学会専門医が常勤・非常勤の施設に勤務していること」などを満たさなければならないが、KLCDEは保険調剤の薬局の薬剤師を含む医療・介護・福祉従事者に幅広く門戸を開いているのが特徴となる。
KLCDEを取得するためには、「2年以上の糖尿病.療養支援の経験があること」、「神奈川糖尿病療養指導士機構が認定する講座について、規定の単位(20単位)の出席を得ること」、「自己の糖尿病療養支援活動に関する作文の提出」といった条件を満たす必要がある。また、KLCDEの取得後、5年間のうちに機構が認定する講座を受け、規定の単位(50単位)を取得すれば更新ができる。単位取得のための研修会は、県内で頻繁に開催されている。
糖尿病療養指導士の原点は「患者さんと同じ視点でともに考え、糖尿病の正しい知識の普及啓発の実践と治療への自立性を支援すること」と、「医療機関で十分に経験を積み、実力と最新の知識を身に付けて地域の1次予防に向けた糖尿病の啓発に参加すること」だ。神奈川糖尿病療養指導士(KLCDE)の今後の活動の拡大が期待されている。
神奈川糖尿病療養指導士認定機構
認定単位取得のための研修会のご案内
[ Terahata ]