日本臓器移植ネットワークは4日、都内で記者会見を開き、緑のリボンをシンボルにして移植医療の普及啓発をはかる「グリーンリボンキャンペーン」を開始すると発表した。
臓器移植について知ってほしい
7月に改正臓器移植法が成立し臓器移植への注目が高まっているなか、キャンペーンでは臓器移植への正しい理解、臓器提供意思表示カードの普及を促進す
る。
今年度は「話そう。大切な人と。」をテーマに、マラ
ソンランナーの谷川真理さんをPR役であるメッセンジャーに起用した。10月の臓器移植普及推進月間に合わせ、イベントなどの啓発活動に加えスペシャルサイトも開設する予
定。
「グリーンリボン」は1980年代に米国で移植医療の象徴として考案され世界に広まっている。同ネットワークはこれまで「think transplant(臓器移植について考えよう)」を主題に、普及啓発をはかるイベントなどを展開してきた。
移植医療は、腎臓や心臓、膵臓など人工臓器での代替が難しく、本来の機能が低下するといずれ死に至ってしまう臓器を健康な臓器と交換することで根治をはかる治療
法。
日本でも1997年に臓器移植法が施行され、脳死での臓器提供による移植が可能になり、臓器移植は着実に実施されている。しかし、臓器の提供を希望する人に比べ、臓器を提供する人(ドナー)の数が極端に少ないのが現状
だ。日本臓器移植ネットワークによると、移植を希望する登録者数は現在で約1万2000人。脳死による臓器移植が行われた例は2008年までに76件だった。
法改正で家族の同意だけで臓器提供をできるようになる
日本で臓器移植の件数が少ない原因のひとつは、臓器移植法の定めた条件が先進国のなかでもっとも厳しいことだったが、1年後に施行される改正臓器移植法では、「脳死は人の死」を前提に、遺族の同意で脳死者から臓器提供が可能になる。移植の条件が大幅に緩和され、今後はドナーが増えることが
予測される。
臓器提供意思表示カード(ドナーカード)
「自分が脳死になったら臓器を提供したい」という意思をあらわす「臓器提供意思表示カード」は各地方自治体の役所窓口、保健所、郵便局、コンビニエンスストアなどに設置されている。カードの設置場所は増えており、今年6月から全国のセブンイレブン約1万2000店舗に置かれるようになった。
糖尿病腎症により腎不全となり人工透析を行っている患者は毎年1万5000人ずつ増え続けている。透析療法は進歩しており腎不全の患者の延命に多大な効果をもたらしているが、根治療法である腎臓移植を希望する患者は多い。実際に移植を受けられる患者数は少なく、2008年の腎臓の移植件数は210件だった。
膵臓移植は、インスリンを分泌する膵臓のランゲルハンス島β細胞が消失している1型糖尿病患者を主な対象とした、膵臓を移植しインスリン分泌を再開させ血糖コントロールを是正する治療法。膵臓移植を受ける患者のほとんどは糖尿病腎症による慢性腎不全を合併しており、膵臓と腎臓を同時移植する症例が多い。
2000年4月に日本で最初の脳死下膵腎同時移植が行われ、2000年から08年にかけて59件の膵臓移植が行われた。今年6月時点での膵臓移植希望者は165人(うち膵腎同時移植は136人)で、全員が原疾患が1型糖尿病の患者となっている。膵臓移植は2006年4月より保険適用になった。
改正臓器移植法では臓器移植はこう変わる
改正臓器移植法が施行されると、臓器移植の手続きは現在とは変わる。現行法の規定では、臓器提供者(ドナー)は生前にドナーカードなどで、臓器提供の意思をあらわしていることが前提となる。交通事故などで脳の機能が停止し、医師が「脳死状態」と診断した場合、本人の意思に家族が同意すれば医師らが「法的脳死判定」を行
う。
一方、改正法では、本人が拒否していない限りは、家族の同意だけで提供ができるようになる。法的脳死判定は現行法と同様に行われる。移植が可能となる年齢制限も変わる。現行法は15歳未満の子供は臓器提供ができないが、改正法では家族の同意があれば移植ができるようになる。
現行法では本人の生前の意思表示が必須という厳しい条件があるるため、欧米やアジア諸国と比べドナーが少なく、国内で移植を受けられる患者は少ない。移植を求める患者の多くはやむなく海外で治療を受けていた。こうした海外渡航による移植は国際的にも問題視されており、2008年に世界保健機構(WHO)は国際移植学会と協同で「自国内で臓器移植を行えるようにするべぎだ」と勧告を出した。
法改正により脳死移植の実施件数は増えるとみられている。日本移植学会では「年間70例近い脳死臓器提供が見込まれ、現在よりも多くの患者の命を救うことができるようになる」としている。
グリーンリボンキャンペーン
社団法人日本臓器移植ネットワーク
日本移植学会
[ Terahata ]