持効型溶解インスリン「ランタス」(一般名:インスリングラルギン)について、インスリングラルギンで治療をしている患者でがんの頻度が高くなると指摘した研究論文が、欧州糖尿病学会(EASD)の学会誌に掲載された。ただし、がんの頻度が高くならないという論文も同時に発表されており、確かな結論を得られていない。
これを受けて、糖尿病に関連する国内外の各学会は声明を発表し、さらに詳しい研究調査が必要であることを強調し、「インスリン治療が必要な糖尿病患者は治療を中断してはいけない」「インスリン治療については自分で判断しないで主治医に相談するべきだ」と注意を呼びかけてい
る。
「明確な結論は出ていない」
EASDの学会誌「Diabetologia」(オンライン版)に6月26日付で、インスリングラルギンに関するいくつかの論文が掲載された。ドイツ、スウェーデン、スコットランド、英国で実施された研究についての論文で、このうち少なくとも2つの論文がんの発症リスクについて指摘し、一部の患者で他のインスリンを使用した患者と比べがんのリスクが高まったとしている。ただし、がんの頻度が高くならないという論文も同時に発表されてい
る。
これについてEASDは「これら研究報告は決定的なものではまったくない」と強調し、「より詳しい調査が必要だ」と発表した。米国糖尿病学会(ADA)は26日に声明を発表し、「これらの研究報告から得られる情報は矛盾しており決定的ではない。より多くの情報が得られるまでの間、過剰な反応をするべきではない」「1つのタイプのインスリンが他のタイプのインスリン以上にがんのリスクを高めるかについて、明確なことは分かっていない」と注意を呼びかけている。
世界160ヵ国の糖尿病協会など200以上が加盟する国際糖尿病連合(IDF)は29日に声明を発表し、「重要なのはインスリンを必要とする患者が治療をやめないことだ」と述べ、「糖尿病の治療について、まずは主治医からアドバイスを得るべき」と注意を呼びかけてい
る。
日本糖尿病協会(清野 裕 理事長)は6月30日、ランタスの使用者に対し「今回の情報が出たからといってインスリン注射量を自己判断で変更したり、注射そのものをやめたりすることは決してしないでください」とホームページ上で注意を呼びかけた。
日本糖尿病学会(門脇 孝 理事長)は7月1日に声明を公表し、「引き続き情報収集を行っていくこととし、厚生労働省や日本糖尿病協会とも連携しながら、必要な情報を提供していく」と述べ
た。
- 今回の件について、医薬品医療機器総合機構は、日本糖尿病学会が患者への提供を開始した「ランタス」の適正使用情報をホームページ上に掲載した。
「現在、インスリンを使用している患者さんは、ご自身の判断でインスリンの注射量を変更したり使用をやめたりしないでください。また、現在のご自身のインスリン治療に不安を感じていらっしやる方は、ぜひ主治医にご相談ください」と注意を呼びかけている。
医薬品医療機器情報提供ホームページ(医薬品医療機器総合機構)
[ Terahata ]