日本赤十字社は3月15日から、献血時の生化学検査の項目にグリコアルブミン値を追加する。献血時に行う検査としては、血液の安全性を確保するために行う検査(細菌やウイルスのチェックなど)に加えて、献血協力者に対するサービスとして、肝機能検査やコレステロール値の検査を行い結果を協力者に提供している。グリコアルブミン検査は後者の検査の一環として無料で協力者全員に実施する。
近年、糖尿病を巡っては、その患者数の増加と発症の低年齢化だけでなく、糖尿病であるにもかかわらずそれに気付かず放置している患者さんが少なくないことから、将来的に合併症が急増することが危惧され、社会的な問題となっている。現在の公的な健診制度は対象が40歳以上に限定されることが多く、若い人の糖尿病や糖尿病予備群が見逃されているが、献血には比較的若い人も協力するため、そういった人たちの中から糖尿病や糖尿病
予備群が早期発見されことが期待される。
グリコアルブミン検査導入の背景
献血協力者へのサービスとしての生化学検査では、これまで ALT(GPT)、AST(GOT)、γ-GTP、総蛋白、アルブミン、アルブミン/グロブリン比、コレステロールの各検査値が協力者に提供されてきた。肝機能を評価する検査が3つ含まれている一方で、糖尿病関連の検査は含まれていなかった。これは、従来、国内では肝炎の発病が多くその早期発見が重要であり、糖尿病は現在ほど多くはなかったため
。
しかし今回、このうちの AST が廃止されて、新たに糖尿病の検査としてグリコアルブミンが追加される。この変更の背景には、国内で肝炎の新規発症が減ってきた一方で、糖尿病が急増していることがあげられる。
なぜ、血糖値や HbA1Cではなく、グリコアルブミンなのか
糖尿病関連の血液検査としては、血糖値のほかに HbA
1C、グリコアルブミンなどの検査がある。
血糖値は糖尿病の診断に必須の検査だが、食事の影響を受けて大きく変化するため、献血に協力するタイミングによっては、糖尿病の心配が少ない人に対してまで注意を促す結果になったり、反対に糖尿病が見逃されたりする可能性を伴う。仮に空腹時に限定し採血するとした場合、協力者が限定されるだけでなく、わずかながら採血後の副作用の頻度が上昇する危険もある
。
HbA
1Cは採血時点の血糖値に左右されずに過去2カ月間の血糖値の平均値と相関する検査値なので、このような心配はない。しかし、検査のために検体を1本追加せねばならず、測定に専用機器が必要となりコストが高くなる。
グリコアルブミン検査は、採血時から過去1カ月(とくに直近の2週間)の血糖値の平均と相関する検査値であり、血糖値のような偽陽性・偽陰性の問題が生じにくいというメリットは HbA
1C検査と同様。また、他の生化学検査と同じ一つの検体で済み、測定コストも安価なため、献血のような膨大な対象に行うスクリーニングとして優れている。さらに近年では、糖尿病予備群やメタボリックシンドロームに特徴的な検査値異常である、食後のみの短時間の高血糖もグリコアルブミン検査では比較的よくとらえられることがわかってきており、そういった方に対して糖尿病発症
予防のための注意を喚起するのにも有用性が高いと考えられる。
グリコアルブミン値による糖尿病の有無の評価
グリコアルブミン検査は現状では糖尿病の診断には用いられていないが、多くの研究により、血糖値や HbA
1C値など他の糖尿病関連検査とよく相関することが明らかになっている。日本赤十字社では下
表のように、グリコアルブミン値が15.6%以上16.5%未満を「正常高値」として協力者へ注意を促し、16.5%以上18.3%未満は「境界域」、18.3%以上は「糖尿病域」と判定し、受診を勧める。
グリコアルブミン値による糖代謝の判定
妊娠の可能性がある若い女性のメリットが特に高い
献血時にグリコアルブミン検査が実施されることにより、これまで見逃されていた糖尿病やその予備群が早期発見されると
予測されるが、そのメリットが最も生かされるのが、これから妊娠・出産する可能性のある若い女性といえる
。
糖尿病が見逃されたまま妊娠すると、胎児の奇形や母体のトラブルが生じやすく、出産できなくなることもある。そのため妊娠前からの厳格な血糖コントロールが必要。近年の晩婚化により高齢出産となるケースが増えており、妊娠前に糖尿病を見出しておくことがより重要になってきている。
職場健診などを受ける機会のない女性も少なくない。そのような女性が献血へ協力する場合、その行為が他者の命を救うばかりでなく、本人の健康を守り元気な子どもを授かることにつながることもあるだろう。
関連情報
日本赤十字社(プレスリリース)
グリコアルブミン情報ファイル(糖尿病NET)
より良い血糖コントロールの維持・確認のために(糖尿病NET)
[ DM-NET ]