日本人の2型糖尿病患者対象の試験
2型糖尿病患者の心血管イベント一次予防のためのアスピリン投与は、欧米に比べてイベント発生頻度が低いわが国において未だ積極的には行われていないが、日本人でも低用量アスピリンが致死的冠動脈・脳血管の初発イベントを有意に減らすことを示した研究結果が、2008年11月のAHA(米国心臓協会)学術集会で発表された。
2型糖尿病患者の心血管イベント予防のためのアスピリン投与は、わが国においても二次
予防効果についてはその有用性が確立されている。一方で一次予防については、欧米に比べてイベント発生頻度が低いため、これまでのところ積極的に行われておらず、ベネフィット(梗塞イベントの抑制)とリスク(消化管潰瘍・出血など)の比較検証が
十分でなかった。
今回の発表は、熊本大循環器内科と奈良県立医大第1内科、京大医学研究科医学教育推進センターの共同グループがまとめた「2型糖尿病患者におけるアスピリンの動脈硬化性疾患一次予防に関する研究」(Japanese Primary Prevention of Atherosclerosis with Asprin for Diabetes.略称:JPAD)で、日本人2型糖尿病患者に対するアスピリンによる一次予防の有用性を検討するため行われた。
JPADでは、国内の医療機関163施設で2002年12月から2005年5月までに登録された2型糖尿病患者2,539例を、低用量アスピリン投与群と非投与群に分け、2008年4月まで追跡した。
その結果、1次エンドポイントの「すべての動脈硬化性イベント」はアスピリン群で少なかったものの、有意差はなかった。しかし、「致死的冠動脈および脳血管イベント」に限ってみるとアスピリン群が有意に少なかった。また対象を65歳以上に絞った場合は、1次エンドポイントの「すべての動脈硬化性イベント」でも、アスピリン群において有意に少なかった。
予測されるイベント件数が少ない一次
予防におけるアスピリン長期投与では、副作用の懸念がより少ないことが重要となるが、JPADにおいて、致死的脳出血および重篤な消化管出血は両群間に有意な差がなかった。
なお、1次エンドポイントに有意差が出なかった理由として、研究発表者の一人である熊本大循環器病態学の小川久雄教授は「イベント件数自体が開始前の
予測より少なかったことに加え、狭心症や慢性閉塞性動脈硬化症、大動脈解離など、アスピリンの治療ターゲットである血栓と関連性が低いイベントもカウントしたためではないか」としている。
JPADの結果はAHA学術集会での発表と同時に、JAMA(米国医師会雑誌)にも掲載された。
[ DM-NET ]