脳梗塞のなりやすさを遺伝子が左右
脳梗塞のなりやすさを、DNAの塩基配列の個人差が左右していることが、九州大医学研究院や東大医科学研究所などの研究グループによって突き止められ、米科学誌「ネイチャー・ジェネティクス」(電子版)で発表された
。
この研究成果は、福岡県久山町で14年続けられている
コホート研究などにより得られたもの。1988年に健康だった40歳以上の住民1642人について、2002年までの14年間の脳梗塞の発症率と、この遺伝子の関係を調べた。
脳梗塞の患者と健康な人を比べ、DNA上の約5万2,608ヵ所の塩基配列の個人差(一塩基多型=SNP)を調べたところ、最大2.8倍の発症率の違いがあることが明らかになった。
こうした研究により脳梗塞の発症メカニズムが解明されれば、脳梗塞を遺伝子レベルで予測し個人に合わせた医療や
予防が可能になると期待されてい
る。
糖尿病の人では脳梗塞が起こりやすい
脳梗塞は突然起こり、命を奪うこともある恐ろしい病気で、命は助かっても麻痺などのために不自由な生活を強いられることが多い。
日本では脳血管疾患(脳出血や脳梗塞など)の発症率が高く、患者数は136万5,000人。発症するとしばしば長期の入院が必要となり、入院期間の平均は101.7日となっている。
糖尿病患者は、糖尿病でない人の2〜3倍なりやすく、脳梗塞になった人の約半数に糖尿病がみられることは意外に知られていない。
なぜ糖尿病の人がこれらの病気になりやすいかと言うと、脳梗塞は動脈硬化のために血液が流れなくなって起こる病気であり、糖尿病はその動脈硬化の進行を早めてしまうからだ。
脳卒中を予防するために
脳卒中予防10カ条
脳卒中は危険因子を除去することで、予防に努めることもできることから、日本脳卒中協会は下記の「脳卒中予防10カ条」を作成し普及に努めている。
- 手始めに 高血圧から 治しましょう
- 糖尿病 放っておいたら 悔い残る
- 不整脈 見つかり次第 すぐ受診
- 予防には タバコを止める 意志を持て
- アルコール 控えめは薬 過ぎれば毒
- 高すぎる コレステロールも 見逃すな
- お食事の 塩分・脂肪 控えめに
- 体力に 合った運動 続けよう
- 万病の 引き金になる 太りすぎ
- 脳梗塞 起きたらすぐに 病院へ
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脳梗塞を予防するために、糖尿病の治療をしっかり続けることが欠かせない。できるだけ良好に血糖コントロールを行い、特に食後の血糖値を改善することが大切
だ。
糖尿病以外にも次の危険要因があると、動脈硬化の進行が早まる。動脈硬化は年齢が上がるとともに進むことが知られているが、進行を加速する要因が分かっているときには、1つずつ解消してくことが予防につながる
。
高血圧
最も注意が必要な危険要因は高血圧で、久山町の調査では血圧値の高い人ほど脳梗塞の発症率が高くなることが確かめられた。収縮期血圧(最高血圧)が140mmHg、拡張期血圧(最低血圧)が90mmHgを超えると、発症率は高くなる。脳梗塞を予防するために、血圧をこのレベル以下に下げることが必要
。
高脂血症
血糖コントロールと同様に、コレステロールや中性脂肪のコントロールも重要。血管壁の細胞にコレステロールなどが溜まると動脈硬化が進行する。これを防ぐために血清脂質(コレステロールや中性脂肪)をなるべく低めにするのが効果的。血清脂質を低めにしておくと血栓による梗塞が起きにくくなる。
久山町の調査では、悪玉のLDL-コレステロールが150mg/dLを超えると発症率が高くなった。脳梗塞のを防ぐための目標は120mg/dL未満。
喫煙
脳内の細い動脈が硬化しておこるラクナ梗塞の発症率が、1日10本未満の少量の喫煙者で最も高くなった。禁煙が勧められる。
アルコール(飲酒)
日本酒に換算して1日1.5合未満の少量のアルコール摂取によって、高血圧者の脳梗塞発症率が半減することが示された。しかし、飲酒量が増えるとその予防効果はなくなった
。
久山町のコーホート研究
福岡県久山町で、1960年代から40年間にわたり、生活習慣病の実態と予防対策について調べるコーホート研究が行われている。コーホート研究とは、同じ地域に住んでいるなど共通の特性のある集団を長い時間をかけて観察し、病気を発症する以前の健康状態と、発症した病気との関連を調べていく調査研究のことをいう。久山町の約7,000人の住民の8割以上の人が研究に協力している。
●詳しくは「ネイチャー・ジェネティックス」のサイトへ(英文・要約)
●詳しくは久山町のサイトへ
健診40年の歩み
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糖尿病と脳梗塞・心筋梗塞(糖尿病セミナー)
約6割の人が糖尿病が脳梗塞の危険因子であることを知らない
[ Terahata ]