運動処方:どんな運動を、どれくらい(2)
②運動強度(どれくらいの強さでするのか)
運動療法を安全に効果的に行うためには、運動強度の管理が重要になります。強度が弱過ぎると効果が得られず、糖尿病の改善につながりません。一方、強度が強過ぎる運動では、心臓に負荷がかかるため、運動中に息が上がって足が止まってしまい、運動を続けることができなくなったり、突然死を招くといったリスクも高くなります。糖尿病の運動療法では、運動の効果と安全性に配慮した適正な運動強度として「中強度」の運動が推奨されています。この中強度の運動強度というのは、最大酸素摂取量(VO2max:各個人の最も強い運動時における酸素摂取量。)では、50%前後の運動に該当します。しかし、最大酸素摂取量の測定は、すべての医療機関や施設で行えるわけではありません。また、患者さんでは十分な運動負荷がかけられず、最大酸素摂取量の測定そのものが困難な場合もあります。
そこで、最大酸素摂取量に代わる運動強度の指標として「心拍数」が用いられます。この目標心拍数(中強度の運動)を算出する場合に採用されるのが、「カルボーネン法」で、目標心拍数は、次の計算式で算出されます。
カルボーネン法の計算式
目標心拍数=(最大心拍数※−安静時心拍数)×運動強度(%)+安静時心拍数※最大心拍数=220−年齢
実際の心拍数は、脈拍数を計測することで簡便に確認できます。脈拍は心臓の鼓動が反映されたもので、心拍とほぼ同じと捉えられています。脈拍数は、自分の手首に指を当てて計測する方法※が一般的ですが、脈拍計などの機器を使用すると、より簡単に正確に計測することができます。
※片側の人差し指、中指、薬指の3本の指で反対側の手首の内側にある動脈を計測する。10秒間測って、その数値を6倍にした数値が1分間の脈拍数。
では、カルボーネン法を用いて、実際に患者さんを指導する際の運動時の目標心拍数(脈拍数)を、計算してみましょう。運動強度は、中強度の運動強度に相当する50%に設定します。安静時心拍数は、朝、目覚めた時点で布団やベッドから起き上がる前に、1分間の脈拍数を計測します。
(例)50歳で、安静時心拍数が72拍/分の患者さんのカルボーネン法を用いた
目標心拍数(脈拍数)の計算方法
① 最大心拍数の推定 220−50 = 170拍/分
② 運動時の目標心拍数(脈拍数) = (170−72)×50%+72 = 121拍/分
目標心拍数(脈拍数)の計算方法
① 最大心拍数の推定 220−50 = 170拍/分
② 運動時の目標心拍数(脈拍数) = (170−72)×50%+72 = 121拍/分
注)心拍数を管理することを目的としていますが、実際の指導では脈拍数で代用し、心拍数=脈拍数とします。
カルボーネン法を用いると、効果的で安全な運動強度を設定できますが、実際の指導の際には、そこまでの時間がとれないという場合や、細かい数値のため患者さんが忘れてしまう場合もあります。そこで指導の目安としては、59歳以下は120拍/分、60歳以上は100拍/分と考えれば、簡単に覚えやすく、実践的な指導につながります。
糖尿病の運動療法における適度な脈拍数の目安
59歳以下 …… 120拍/分
60歳以上 …… 100拍/分
60歳以上 …… 100拍/分
運動強度は、運動開始時から一気に上げると負荷が強いため、運動開始後から徐々に上げ、120拍/分または100拍/分を保ちます。この脈拍数は、感覚的には「他人とおしゃべりしながら続けられる程度の運動」です。特に高齢者では、脈拍数の多い運動は心臓に大きく負担がかかるため、適度な脈拍数を超えないよう注意します。
また、効果の面でも、スポーツ選手を除いた一般の人は、最大酸素摂取量の約50%の運動強度のときに、脂肪がよく燃焼するとされており、この運動強度は今まで述べてきた値と一致しています。
運動中の脈拍数は、ウォーキングであれば、足を止めて、手首に指を当てて計測する方法で確認しますが、脈拍計などの機器を使うと、運動を中断せずに脈拍数を計測することが可能です。
手首に指を当てて計測する方法
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脈拍計などの機器を活用する方法
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【参考】
身体活動の強度の指標として、最大酸素摂取量や心拍数を紹介しましたが、これらの他に、「自覚的運動強度(ボルグ指数:RPE)」や「メッツ(MET)」も用いられています。
●自覚的運動強度(ボルグ指数:RPE)は、運動強度を「非常にきつい」(RPE 20)から、安静時の最下限「非常に楽である」(RPE6)に分類したものです。糖尿病の運動療法としては、「やや楽である」(RPE11)〜「ややきつい」(RPE13)が推奨されています。
●メッツ(MET)は、身体活動の強さを安静時の何倍に相当するかで表す単位で、座って安静にしている状態が1メッツ、普通歩行が3メッツに相当します。「活動時総代謝量÷安静時代謝量(座位)」で、算出されます。
健康の維持・増進には、3メッツ以上の活発な身体活動・運動が良いとされ、運動の強度が強いほどHbA1cの低下が期待されるので、やや強い強度の運動(RPE12〜13、5〜6メッツ程度)もリスクなどを考慮したうえで勧めましょう。
身体活動の強度の指標として、最大酸素摂取量や心拍数を紹介しましたが、これらの他に、「自覚的運動強度(ボルグ指数:RPE)」や「メッツ(MET)」も用いられています。
●自覚的運動強度(ボルグ指数:RPE)は、運動強度を「非常にきつい」(RPE 20)から、安静時の最下限「非常に楽である」(RPE6)に分類したものです。糖尿病の運動療法としては、「やや楽である」(RPE11)〜「ややきつい」(RPE13)が推奨されています。
●メッツ(MET)は、身体活動の強さを安静時の何倍に相当するかで表す単位で、座って安静にしている状態が1メッツ、普通歩行が3メッツに相当します。「活動時総代謝量÷安静時代謝量(座位)」で、算出されます。
健康の維持・増進には、3メッツ以上の活発な身体活動・運動が良いとされ、運動の強度が強いほどHbA1cの低下が期待されるので、やや強い強度の運動(RPE12〜13、5〜6メッツ程度)もリスクなどを考慮したうえで勧めましょう。
③継続時間(何分間続けるのか)と実施頻度(週何回するのが良いか)
有酸素運動の継続時間は、「30分×1回」の運動を行った場合でも、「3分×10回」でも、ほぼ同じ効果が得られることがわかっています。時間がとれるときは、1回10〜30分間程度(体力のある方でも60分を限度として)の有酸素運動を週3〜5日以上行います。例えば通勤の際、1駅手前で降りて歩いたり、買い物や犬の散歩など日常生活の中に運動を取り入れることも有効です。
まとまった時間がとれないときは、階段昇降やコピー取り、洗濯干しや掃除といった家事などで、細切れにでもいいので、意識して体を動かすことが大切です。歩数としては、1日あたり8,000〜10,000歩を目指します。
レジスタンス運動は、主要な筋肉群を含んだ8〜10種類のレジスタンス運動を10〜15回を1セットで繰り返すことから始め、徐々に強度やセット数を増やしていき、週に2日以上行うことが推奨されています。
ダンベルやチューブ、機械を使って負荷をかけると、より効果的に行えますが、自分の体重の負荷を利用すれば、スポーツクラブなどの運動施設へ行かなくても、また、特別な道具がなくても手軽にレジスタンス運動を行うことができます。
手軽にできるものとして、ハーフスクワット、片足立ち(片手をイスにつかまり30秒程度立つ)、もも上げ、腹筋、腕立て伏せなどがあります。
これらのレジスタンス運動は、テレビを見ている間や、仕事の合間に行うこともできます。まずは、できることから開始し、慣れてきたら種類や1回当たりのセット数を増やしていきましょう。
④実施時間帯(いつ行うのが良いか)
糖尿病では、特に食後の急激な血糖の上昇が問題となります。そのため、食後30分〜2時間の間に運動を実施することが、この食後高血糖を抑える意味で効果的です。ただし、患者さんによっては、仕事などで、食後の運動が難しいという場合もあります。運動を継続するためには、患者さんのライフスタイルに合わせ、最も実施しやすい時間を考慮し、指導します。また、下記のような運動を避けたほうが良い時間帯を指導するとともに、体調が悪い日などは、無理せず運動を見合わせます。運動を開始しても運動中に気分が悪くなった場合などは、直ちに運動を中止するよう指導しましょう。
●運動を避けたほうが良い時間帯
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2012年08月
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治療や療養についてかかりつけの医師や医療スタッフにご相談ください。
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