浜野 久美子先生

関東労災病院糖尿病内分泌内科部長
浜野 久美子

 ヒトにとって"食べる"ということは、成長や身体活動の維持に必要な栄養素を摂取するという生物学側面以上の意味をもった行為といえます。美食への飽くなき追求は、日本料理やフランス料理などの食文化を生みました。お菓子もしかり、四季おりおりの和菓子は芸術品といってもよいほど美しいものです。一方、現代人の食欲や食行動は、情報(グルメブーム、安全性、カロリー)や身体のみならず精神状態や食べる環境(一緒に食べる人など)により左右されることも明らかです。まさにヒトは"脳で食べる"動物であるといえますが、それゆえに、食べることが原因で糖尿病の増加やひいてはその治療が難しくなっていることは否めないでしょう。

 今回の特集テーマ"おやつ"は"脳が欲し、脳に快感を与える"もの(甘味と脳内快感物質エンドルフィンなどとの関連もいわれています)である一方、血糖コントロールの観点からは、概ね血糖値を上げてしまう忌むべきものともいえます。ある調査(成人約12,000人)によると間食をする人は8割弱、毎日食べる人もなんと4割。間食をする場面は「小腹がすいたとき」「くつろぎながら」が多いそうです。『疲れたとき』『イライラしたとき』に食べるお菓子は、「チョコレート」がトップ、『ほっとしたい時』に食べるお菓子は、「洋菓子」「チョコレート」がほぼ同率トップ、3位「和菓子」だったそうです。

 以前に糖尿病ネットワークでおこなったアンケート調査によっても、糖尿病患者さんは、このような"人間の自然の営み"を後ろめたい思いをいだきながら行っていた、あるいはがまんされていたという報告がみられています。

 "おやつ"の排除をもって良き糖尿病治療の実践とする立場をとらないつもりで、過去この連載シリーズに筆者は協力してきました。なにより自分自身が"おやつ"なしの生活は考えにくいからです。みなさんはどうですか?

 この情報ファイルでは、糖尿病患者さんが"おやつ"を食べるのに、心も体も満足できる方法はないか、どんな注意をはらえば"おやつ"を食べてもよいのか、など"おやつ"に関するさまざまな情報・ヒントを特集していきます。ぜひ、"おやつ"を上手にとりいれ、疲れた"脳"をリラックスさせたり、イライラを解消してよりよい糖尿病治療をなさってください。

 "おやつ名人"なら、糖尿病治療も名人になれるはずです。もちろん、おやつがなくても全然平気というかたには、ここでの情報は不要、無理に"おやつ"を食べる必要はありません。なにせ食事ではなくて"おやつ"なんですから。

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