目と健康シリーズ Eye & Health
2015年06月02日
No.27. まぶたの病気とQOL
東京女子医科大学東医療センター眼科非常勤講師
川本 潔 先生
も く じ |
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キューオーエルって、アイも知ってるよ。
英語で'生活の質'っていう意味でしょ。
でもネ、どうしてそれが「まぶたの病気」に関係あるのかナ...
まぶたは眼を守り、顔の表情を作り出す
まぶたには、大きく分けて二つの役割があることをご存じですか? 一つは眼球を保護する'目〈ま〉の蓋〈ふた〉'としての役割。そしてもう一つは、顔の表情を演出する役割です。「目は口ほどに物を言う」というように、まぶたが演じる'目つき'は、ときに、言葉で伝えるのと同じくらい強い印象を周囲の人に与えます。最近は病気の治療において、単に悪い部分を治すだけではなくて、生活の質(QOL:Quality of life〈クオリティー オブ ライフ〉)が重視されます。まぶたの病気の治療でも、眼球を保護する働きの維持・回復はもちろんのこと、「表情を作る」役割にも配慮が求められ、ときにはそれが患者さんのQOLを大きく左右します。また、まぶたの病気に患者さん自身が気づいていないこともあり、そのようなケースでは、病気を診断し治療することで、以前の快適な生活を取り戻すことができます。
それでは早速、まぶたの病気のなかでもとくにQOLとの関連が深い、眼瞼下垂の話から始めましょう。なお、先に末尾の「まぶたの仕組み」を読むと、理解が深まると思います。
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まぶた(眼瞼〈がんけん〉)が開きにくく、垂れ下がる(下垂〈かすい〉する)病気です。先天性と後天性の原因があります。かつては先天性の眼瞼下垂が多かったのですが、今は高齢化で中高年者に起きる後天性の眼瞼下垂が増加しています(先天性眼瞼下垂は「子どもの眼瞼下垂」の項目参照)。
原因は?
後天性眼瞼下垂では、加齢によって、まぶたを開く筋肉(眼瞼挙筋〈きょきん〉)とまぶた本体をつないでいる腱膜〈けんまく〉が、徐々にはずれてきてしまうために起こる「加齢性腱膜性眼瞼下垂」が最も多く、そのほか眼瞼挙筋や動眼神経の麻痺〈まひ〉、外傷、眼の手術の合併症、ハードコンタクトレンズの長期使用なども原因となります。動眼神経麻痺や外傷などでは左右どちらか一方に起こりますが、加齢によるものでは、程度の差はあっても、たいてい両目に現れます。
視力や視野は?
眼瞼下垂で視力が落ちることはありません。しかし、下がったまぶたが瞳孔〈どうこう〉にかかると、その部分に該当する視野(上方の視野)が欠けて、例えば柱に頭をぶつけやすくなったりします。また、瞳孔が完全に覆われてしまえば、視力はあってもそれを活用できなくなります。
QOLとの関係は?
加齢とともに少しずつ病気が進行すると、患者さん自身も病気を自覚しにくいものです。眼瞼下垂だと気づかず長年経過するうちに、まぶたを開くのに眉毛〈びもう〉(まゆ毛)を上げる筋肉(前頭筋〈ぜんとうきん〉)を使ったり、あごを突き出して視野の下方で物を見るといった工夫をしていることがあります。そのため肩凝りや頭痛、慢性的な疲労を感じたり(眼精疲労)、年齢よりも早くおでこのシワが増えてきます。また、まぶたが下がっていると顔付きが暗い印象になりがちですが、治療によって表情の明るさと同時に、精神的にもはつらつとされる方が少なくありません。
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はずれかかっている腱膜を眼瞼挙筋につなぎ直す手術を行います(腱膜修復術)。まぶたの形を整えるために、目の周りの脂肪やまぶたのたるみを同時に除去することもあります(眼瞼形成術)。大半はこの方法で治せますが、眼瞼挙筋や動眼神経が麻痺しているときは、まぶたと前頭筋をつなぐ、つり上げ術を行います。
◆ 子どもの眼瞼下垂
子どもの眼瞼下垂の多くは、先天的な眼瞼挙筋の発育不全が原因です。保護者の方はとても心配されますが、病気として珍しいものではありませんし、遺伝や妊娠中のトラブルともあまり関係なく、多くは偶発的なものです。眼瞼挙筋を短くするといった手術で治療します。
瞳孔が完全に隠れている場合は、視力が育たず弱視になることがあるので早めの治療が必要ですが、そうでなければ、全身麻酔をすることの安全性や生活上の不便さなどを考慮して、2〜5歳くらいの間で、集団生活を営む就学前に治療を受けるとよいでしょう。
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まぶたが反り返って、眼球側に入り込んでくる(内反〈ないはん〉する)病気です。まつ毛が眼球表面(角膜〈かくまく〉や結膜〈けつまく〉)に触れるので、痛みやかゆみを感じ、涙があふれたりし、角膜炎や結膜炎を引き起こします。
原因は?
まぶたの前葉〈ぜんよう〉(皮膚に近い側)と後葉〈こうよう〉(眼球に近い側)のバランスが崩れることが直接的な原因です。その理由としては、やはり加齢が関係していて、年とともに腱膜や目の周囲の筋肉(眼輪筋〈がんりんきん〉)がゆるむこと、眼球を取り囲んでいる脂肪(眼窩脂肪〈がんかしぼう〉)が萎縮して眼球が奥に移動し、その分まぶたが少し余り気味になることがあげられます。そのほか、結膜の病気の後遺症や甲状腺の病気なども原因になります。
視力や視野は?
視力や視野がすぐに問題になることはありません。ただ、まつ毛によって傷ついた角膜や結膜から、角膜炎や結膜炎になると、視力が低下することがあります。
治療法は?
皮膚や眼輪筋を少し縮める手術などで、前葉と後葉のバランスを整え、治療します。
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まつ毛(睫毛〈しょうもう〉)が内反する病気で、いわゆる逆さまつ毛のことです。まぶた自体は内反していない点で眼瞼内反と区別されますが、角膜や結膜が傷つくために、同じような症状が現れます。
原因は?
睫毛内反は乳幼児に多くみられます。子どもは大人に比べて顔付きが平坦で(とくに東洋系人種の場合)、まぶたの皮膚がまつ毛のほうに覆いかぶさるようになっているためです。
視力や視野は?
眼瞼内反と同じです。
治療法は?
多くは成長とともに自然に治ります。しかし、成長しても軽快しない場合や角膜や結膜に障害が起きそうなときは、まつ毛が眼球に触れないようにする手術が必要です。
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眼瞼内反とは反対に、まぶたが眼球表面から離れるように外側を向いてしまう(外反〈がいはん〉する)病気です。角膜や結膜が乾燥して傷ついたり、涙があふれやすくなったりします。
原因は?
やけどや怪我〈けが〉の瘢痕〈はんこん〉などで前葉が短くなることや、加齢や顔面神経麻痺のために眼瞼支持組織(筋肉や靱帯〈じんたい〉)の緊張が低下して、眼瞼のバランスが崩れることによります。
視力や視野は?
直ちに視力や視野が障害を受ける心配はありません。しかし重度の外反では、角膜の病気が起きて視力低下、失明に至ることもあります。
治療法は?
前葉と後葉のバランスを整えるために皮膚移植をしたり、緊張が低下した筋肉や靱帯を修復する手術を行います。こまめに点眼して、角膜や結膜の乾燥を防ぐことも大切です。
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まぶたを完全には閉じられずに、眼球表面が露出したままになった状態のことです。昔、兎〈うさぎ〉は目を開いたまま眠ると信じられていたことから、こう呼ばれるようになりました。
原因は?
重症の眼瞼外反や甲状腺の病気による眼球突出、外傷、顔面神経麻痺がおもな原因です。
視力や視野は?
角膜と結膜が乾いて強いドライアイになります。とくに重症の場合は角膜の炎症や潰瘍が進行して、視力を失う可能性もあります。
治療法は?
眼球がまぶたに覆われ、乾かないように修復する手術をします。
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まぶたの仕組み |
まぶたは表面から順に、皮膚、眼輪筋〈がんりんきん〉、眼窩隔膜〈がんかかくまく〉、眼瞼挙筋〈がんけんきょきん〉、ミュラー筋、瞼結膜〈けんけつまく〉という層状の構造になっています。人体のほかの部分は皮膚の下に脂肪があってその下に筋肉がありますが、まぶたはすぐ下にも筋肉があり、この特殊な構造が微細な動きを可能にしているのです(まぶたでも眉毛や頬に近いほうには脂肪があります)。
まぶたの筋肉と神経
まぶたを開く動作には三つの筋肉が関係していて、それぞれ別の神経の指示を受けて動きます。最も重要なのは上まぶたにある眼瞼挙筋で、これは動眼神経の指示を受けます。眼瞼挙筋の下にはミュラー筋があり、これは交感神経(自律神経)の指示を受けて、驚いたときや興奮したときに意思とは関係なく、少し目を見開くように働きます。まぶたからやや離れた眉毛のあたりにある前頭筋〈ぜんとうきん〉は表情筋〈ひょうじょうきん〉(顔だけにあり、皮膚を動かすことができる筋肉)の一部で、顔面神経の指示を受けます。反対にまぶたを閉じるのは、上下両方のまぶたにある眼輪筋で、顔面神経の指示を受けています。"口ほどに物を言う"目の表情は、これらの筋肉が互いに微妙に変化して作り出しています。
瞼板〈けんばん〉
瞼板はまぶたの中にあるやや硬い組織で、薄く繊細なまぶたを支える屋台骨のような役割を果たしています。内部には眼球表面に油分を供給するための分泌腺〈ぶんぴつせん〉(脂腺〈しせん〉)があり、まつ毛の根元の近く(瞼縁〈けんえん〉)にその開口部が並んでいます。
眼窩隔膜〈がんかかくまく〉と前葉〈ぜんよう〉・後葉〈こうよう〉
頭蓋骨が凹んで眼球が収まっている部分全体を眼窩〈がんか〉といい、眼窩隔膜という薄い膜で周囲の組織と隔てられています。まぶたの眼窩隔膜は、眼窩骨〈こつ〉の縁〈ふち〉から瞼板に向かって広がっています。眼窩隔膜の前(皮膚や眼輪筋)を前葉、後ろ(眼瞼挙筋や瞼結膜)を後葉といいます。病気の原因が後葉にあると、眼球へより大きな影響を及ぼします。
睫毛〈しょうもう〉
睫毛(まつ毛)は目にゴミや汗が入らないようにするとともに、異物を感知するセンサーの働きをします。まつ毛になにかが触れると反射的に目をつぶり、眼球を保護しているまぶたの働きを助けます。
瞬目〈しゅんもく〉の役割
瞬目(まばたき)は、目にゴミが入りそうなときにそれを防ぐためだけでなく、涙の分泌を促したり、角膜〈かくまく〉・結膜上の涙を涙道へ導く役割もあります。
まぶたは大切な目の一部だし、大切な顔の一部でもあるってことね。
それに隠れた役割もいろいろしてくれているみたい。
これからアイも、まぶたを大切にしてあげョ
企画・制作:(株)創新社 後援:(株)三和化学研究所
2012年2月改訂