目と健康シリーズ Eye & Health
2015年06月02日
No.25. 目の病気の薬物治療
編集
日本大学医学部眼科講師
嘉村 由美 先生
目の病気をしっかり治し視機能(視力や視野)を維持するために、医師は、数ある薬の中から最も適したものを選んで患者さんに処方します。ですから患者さんも、その薬がどのように効くのか、なぜその薬でないといけないのか、その理由を理解して、きちんと使うようにしてください。
※目の構造や用語の意味などについては、このシリーズのNo.1をご参照ください。
●点眼薬
いわゆる'目薬'のことです。角膜や結膜などの眼球表面、虹彩〈こうさい〉や毛様体〈もうようたい〉などの眼球前方の組織、および、まぶたの裏側や強膜〈きょうまく〉の病気の治療に使われます。
●眼軟膏〈なんこう〉
まぶたの病気や角膜・結膜の病気に使われます。使用後にものが見にくくなるのでいやがる患者さんもいますが、点眼薬よりも薬の成分を目の表面に長くとどめ、効果を高めるために必要な剤形です。
●内服薬
いわゆる'飲み薬'のことです。点眼や軟膏では薬の成分が届かない眼球の後方、網膜〈もうまく〉や脈絡膜〈みゃくらくまく〉、視神経の病気の治療、および点眼薬・眼軟膏の効果を補う際に使われます。胃や腸で吸収されたあと、血液の流れにのって病変部位に到達し作用します。
●注射薬や点滴薬
病気の急性期には、注射薬や点滴薬を使うこともあります。病院で医師や看護師が行います。
●病気の原因に効く薬
感染症の薬などはこちらに該当します。自覚症状が改善することで薬の効果を患者さん自身で確認できますし、病気が治れば基本的には薬は必要なくなります。ただし病気によっては症状が改善したあともしばらく薬を使わなければいけないことがあります。
●病状を改善・コントロールする薬
病気の完治をめざすのではなく、病状の改善・悪化防止のために用いられる薬もあります。緑内障や網膜の病気などの薬は大体こちらに該当します。この目的で処方される薬は長期間使用することが多く、また薬の効果を症状や検査値から確認しづらい面があります。そのため患者さんはしばしば点眼・服用を忘れたり、勝手に中止してしまうことがあるようですが、病気の進行を抑えるために、しっかり使い続けてください。
作用
細菌感染の場合は「抗菌薬」、ウイルス(細菌よりも小さく、ほかの生物に寄生して生き続けるもの。ヘルペスなど)感染の場合は「抗ウイルス薬」、真菌(カビなどの微生物)感染には「抗真菌薬」が使われます。殺菌したり、菌やウイルスの増殖を阻止する作用があります。
効果
細菌やウイルスの強さと量にもよりますが、多くのケースで完治可能です。ただし真菌感染は治療に時間がかります。
いつまで使うか
症状が消えたあとも医師が指示を出すまではきちんと薬を使用し続けてください。細菌などが完全に退治されるまでは再発の危険があり、ほかの人にうつしてしまう可能性もあるからです。
副作用
内服薬では、薬がからだに合わないと、下痢をしたり、じんま疹〈しん〉が出ることがあります。
注意点
指示どおりに薬を使わないと、耐性菌〈たいせいきん〉(その薬が効かない菌)が生まれる原因になります。
作用
「ステロイド薬」は副腎皮質〈ふくじんひしつ〉で作られているホルモンを人工的に合成した薬で、炎症を抑える働きがあります。ステロイド以外の抗炎症作用のある薬を「非ステロイド薬」といい、ステロイド薬より効果がマイルドです。「免疫抑制薬」は文字どおり免疫反応を抑制する薬で、自己免疫疾患や移植手術後に用いられます。
効果
炎症を抑えることに限れば、高い効果が期待できます。しかし炎症の原因そのものを治すわけではないので、しばしばほかの薬との併用が必要です。
いつまで使うか
病気・病状によってまちまちです。ぶどう膜炎のような慢性の病気の治療では、長期間使い続けます。
副作用
ステロイド薬は効果が強い反面、副作用も多く、感染症に対する抵抗力を弱めたり、緑内障や白内障などの目の病気、糖尿病や骨粗鬆〈しょう〉症などの全身の病気を招くこともあります。免疫抑制薬ではその作用から、感染症にかかりやすくなります。
注意点
副作用を心配して勝手に使用量を減らすと、病気が急に悪化する恐れがあるので、必ず指示どおりに使ってください。
作用
「抗ヒスタミン薬」はアレルギー反応を起こす化学伝達物質〈ケミカルメディエーター〉の作用を抑え、「抗アレルギー薬」はその化学伝達物質が発生しないように働きかけます。
効果
病状にもよりますが、症状は比較的よく抑えられます。
いつまで使うか
症状がなくなれば薬を中止します。ただし花粉症などの季節性が明らかな病気は、そのシーズン中は使い続けます。
副作用
内服の抗ヒスタミン薬の多くは眠気を催します。自動車の運転などは危険ですので、注意して服用してください。
注意点
アレルギーは症状が現われる前に薬を使い始めたほうが、高い効果が期待できます。花粉症の場合はシーズンの少し前に受診しましょう。
作用
血液の流れを改善して網膜や視神経を保護したり働きを助ける「循環改善薬」、血管壁を強化して血液が網膜などに漏れ出すのを防ぐ「血管強化薬」、血管内に血栓(血液の塊)ができるのを防ぐ「抗凝固薬」などがあり、病状によって使い分けられます。
効果
血流が途絶えて起きる網膜静脈閉塞症や網膜動脈閉塞症などの発症時には、直ちにこれらの薬を使うことで視力や視野障害の程度を軽くできることがあります。また、それらの病気の慢性期(病状が落ち着いたあと)に再発を防いだり、糖尿病や高血圧などによる網膜症でみられる眼底出血を防いだり、網膜のむくみをとる効果もあります。ただ、血管閉塞や眼底出血などでいったん低下した視機能がどのくらい改善するかは、病状により大きな差があります。
いつまで使うか
眼底の病気は経過が長引きやすいことや、一度発症してしまうと視機能への影響が少なくないのでそれを防ぐ目的から、長期間使用することになるケースが少なくありません。
副作用
抗凝固薬ではその作用から、出血が止まりにくくなります。
注意点
抗凝固薬のワルファリンは、納豆や青汁などのビタミンKが豊富な食品によって効果が失われてしまいますから、これらの食品をとらないようにしてください。
角膜の病気には、抗感染症薬などによる原因療法(病気の原因を取り除く治療)と、対症療法(症状を軽快させるための治療)があります。対症療法には、角膜を保護したり代謝(栄養素などの必要なものを取り入れ不要物を排出する働き)を改善して組織修復を促す人工涙液やヒアルロン酸などが使われます。
効果
角膜の修復が進むと、痛みや乾燥感などの自覚症状が改善します。
いつまで使うか
自覚症状が改善すれば使用は中止しますが、ドライアイなどの慢性の病気では長期間連用します。
注意点
コンタクトレンズが原因で角膜の病気になった場合、自覚症状がとれても治っていないことがあるので、医師の許可が出るまで装用してはいけません。
作用
水晶体内の代謝を改善します。
効果
病気の進行は抑えられるものの、水晶体の濁りをとる作用はないので、症状を改善させる効果はありません。
いつまで使うか
白内障の根本的な治療は濁った水晶体を手術で取り除き眼内レンズに置き換えることです。薬物治療は手術を受けるまでの間、進行を遅らせるために続けます。
作用
眼圧は眼球内の水分「房水〈ぼうすい〉」の量によって左右されていて、房水が多いと高眼圧になります。緑内障の薬は、房水の産生を抑えたり、房水の排出を促したりして眼圧を下げます。また、縮瞳〈しゅくどう〉薬(瞳孔〈どうこう〉を縮める薬)も使われます。これは、瞳孔が大きくなると虹彩によって房水の排出経路が狭くなってしまうので、それを防ぐためです。このほか最近では、視神経が弱いために、高眼圧でなくても緑内障になるケース(正常眼圧緑内障)が多いことがわかってきたので、視神経を保護する働きのある薬が使われることもあります。
効果
基本的に一度障害を受けた視神経は再生しません。いずれの薬も病気の進行を抑えることが目的で、視野を回復させる効果は明確でありません。
いつまで使うか
緑内障は、完治をめざすというよりコントロールする病気です。ですから薬物治療もずっと続けることになります。薬の効果が不十分なときは眼圧を下げる手術を行いますが、手術のあとにも薬を使わなければならないこともあります。
副作用
交感神経を抑制し房水産生を抑える薬は、点眼薬も含め、ぜん息や徐脈(脈が極端に遅くなること)を招くことがあり、注意が必要です。また、内服薬の一部で尿路結石ができやすくなったり、唇や指がしびれることがあります。縮瞳薬では視野が暗くなるのを避けられません。
注意点
緑内障は末期になるまで自覚症状がないので、薬の使用がおろそかになりがちです。しかし、視野異常の進行を防ぐためには点眼や服用時間を確実に守ることが大切です。
角膜や結膜、視神経の修復、眼精疲労の緩和を目的に使われます。
調節麻痺薬
水晶体の厚さを調節している毛様体の緊張を和らげる薬で、仮性近視や眼精疲労の治療に使われます。
シリーズ監修:堀 貞夫 先生 (東京女子医科大学眼科教授)
企画・制作:(株)創新社 後援:(株)三和化学研究所
2012年2月発行
日本大学医学部眼科講師
嘉村 由美 先生
も く じ |
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目の病気の薬って目薬だけだと思ったら、 注射とか軟膏〈なんこう〉とか飲み薬もあるんだって。 飲み薬がどうして目に効くのかなぁ? |
目の病気をしっかり治し視機能(視力や視野)を維持するために、医師は、数ある薬の中から最も適したものを選んで患者さんに処方します。ですから患者さんも、その薬がどのように効くのか、なぜその薬でないといけないのか、その理由を理解して、きちんと使うようにしてください。
※目の構造や用語の意味などについては、このシリーズのNo.1をご参照ください。
眼科で使われている薬の種類
薬効による分類
感染症を治す、炎症を抑えるなど、薬はその効果「薬効」によってタイプ分けされます。このページでも後半で、この分け方にそって解説します。剤形による分類
いわゆる'目薬'のことです。角膜や結膜などの眼球表面、虹彩〈こうさい〉や毛様体〈もうようたい〉などの眼球前方の組織、および、まぶたの裏側や強膜〈きょうまく〉の病気の治療に使われます。
●眼軟膏〈なんこう〉
まぶたの病気や角膜・結膜の病気に使われます。使用後にものが見にくくなるのでいやがる患者さんもいますが、点眼薬よりも薬の成分を目の表面に長くとどめ、効果を高めるために必要な剤形です。
●内服薬
いわゆる'飲み薬'のことです。点眼や軟膏では薬の成分が届かない眼球の後方、網膜〈もうまく〉や脈絡膜〈みゃくらくまく〉、視神経の病気の治療、および点眼薬・眼軟膏の効果を補う際に使われます。胃や腸で吸収されたあと、血液の流れにのって病変部位に到達し作用します。
●注射薬や点滴薬
病気の急性期には、注射薬や点滴薬を使うこともあります。病院で医師や看護師が行います。
麦粒腫(ものもらい) | コンタクトレンズによる角膜潰瘍 | 白内障 |
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使用目的による分類
●病気の原因に効く薬
感染症の薬などはこちらに該当します。自覚症状が改善することで薬の効果を患者さん自身で確認できますし、病気が治れば基本的には薬は必要なくなります。ただし病気によっては症状が改善したあともしばらく薬を使わなければいけないことがあります。
●病状を改善・コントロールする薬
病気の完治をめざすのではなく、病状の改善・悪化防止のために用いられる薬もあります。緑内障や網膜の病気などの薬は大体こちらに該当します。この目的で処方される薬は長期間使用することが多く、また薬の効果を症状や検査値から確認しづらい面があります。そのため患者さんはしばしば点眼・服用を忘れたり、勝手に中止してしまうことがあるようですが、病気の進行を抑えるために、しっかり使い続けてください。
おもな目の薬
感染症の薬
細菌やウイルスなどが体内に侵入して増殖し、組織が壊されたり組織の正常な働きが損われる病気が感染症です。感染した細菌などを退治するためや、からだの病気や手術後などで感染しやすくなっているときの感染予防に、抗感染症薬が使われます。細菌感染の場合は「抗菌薬」、ウイルス(細菌よりも小さく、ほかの生物に寄生して生き続けるもの。ヘルペスなど)感染の場合は「抗ウイルス薬」、真菌(カビなどの微生物)感染には「抗真菌薬」が使われます。殺菌したり、菌やウイルスの増殖を阻止する作用があります。
効果
細菌やウイルスの強さと量にもよりますが、多くのケースで完治可能です。ただし真菌感染は治療に時間がかります。
いつまで使うか
症状が消えたあとも医師が指示を出すまではきちんと薬を使用し続けてください。細菌などが完全に退治されるまでは再発の危険があり、ほかの人にうつしてしまう可能性もあるからです。
副作用
内服薬では、薬がからだに合わないと、下痢をしたり、じんま疹〈しん〉が出ることがあります。
注意点
指示どおりに薬を使わないと、耐性菌〈たいせいきん〉(その薬が効かない菌)が生まれる原因になります。
炎症を抑える薬
なんらかの刺激に対する反応のことを炎症といい、その原因は感染症、アレルギー、自己免疫(からだに侵入した有害な異物を無害化するための免疫反応が、自分自身の組織に対して働き傷つけてしまうこと)など、実にさまざまです。「ステロイド薬」は副腎皮質〈ふくじんひしつ〉で作られているホルモンを人工的に合成した薬で、炎症を抑える働きがあります。ステロイド以外の抗炎症作用のある薬を「非ステロイド薬」といい、ステロイド薬より効果がマイルドです。「免疫抑制薬」は文字どおり免疫反応を抑制する薬で、自己免疫疾患や移植手術後に用いられます。
効果
炎症を抑えることに限れば、高い効果が期待できます。しかし炎症の原因そのものを治すわけではないので、しばしばほかの薬との併用が必要です。
いつまで使うか
病気・病状によってまちまちです。ぶどう膜炎のような慢性の病気の治療では、長期間使い続けます。
副作用
ステロイド薬は効果が強い反面、副作用も多く、感染症に対する抵抗力を弱めたり、緑内障や白内障などの目の病気、糖尿病や骨粗鬆〈しょう〉症などの全身の病気を招くこともあります。免疫抑制薬ではその作用から、感染症にかかりやすくなります。
注意点
副作用を心配して勝手に使用量を減らすと、病気が急に悪化する恐れがあるので、必ず指示どおりに使ってください。
アレルギーの薬
アレルギーとは、それほどからだに害のない異物に対して免疫反応が過剰に起こり、かえって細胞や組織に障害を与えてしまうことです。花粉症はその典型です。作用
「抗ヒスタミン薬」はアレルギー反応を起こす化学伝達物質〈ケミカルメディエーター〉の作用を抑え、「抗アレルギー薬」はその化学伝達物質が発生しないように働きかけます。
効果
病状にもよりますが、症状は比較的よく抑えられます。
いつまで使うか
症状がなくなれば薬を中止します。ただし花粉症などの季節性が明らかな病気は、そのシーズン中は使い続けます。
副作用
内服の抗ヒスタミン薬の多くは眠気を催します。自動車の運転などは危険ですので、注意して服用してください。
注意点
アレルギーは症状が現われる前に薬を使い始めたほうが、高い効果が期待できます。花粉症の場合はシーズンの少し前に受診しましょう。
血液の循環〈じゅんかん〉や血管の薬
眼球の後方、網膜や脈絡膜、視神経などの「眼底」の病気は、血液の循環〈じゅんかん〉障害(血流が悪くなること)などが関係していることがよくあります。血液の流れを改善して網膜や視神経を保護したり働きを助ける「循環改善薬」、血管壁を強化して血液が網膜などに漏れ出すのを防ぐ「血管強化薬」、血管内に血栓(血液の塊)ができるのを防ぐ「抗凝固薬」などがあり、病状によって使い分けられます。
効果
血流が途絶えて起きる網膜静脈閉塞症や網膜動脈閉塞症などの発症時には、直ちにこれらの薬を使うことで視力や視野障害の程度を軽くできることがあります。また、それらの病気の慢性期(病状が落ち着いたあと)に再発を防いだり、糖尿病や高血圧などによる網膜症でみられる眼底出血を防いだり、網膜のむくみをとる効果もあります。ただ、血管閉塞や眼底出血などでいったん低下した視機能がどのくらい改善するかは、病状により大きな差があります。
いつまで使うか
眼底の病気は経過が長引きやすいことや、一度発症してしまうと視機能への影響が少なくないのでそれを防ぐ目的から、長期間使用することになるケースが少なくありません。
副作用
抗凝固薬ではその作用から、出血が止まりにくくなります。
注意点
抗凝固薬のワルファリンは、納豆や青汁などのビタミンKが豊富な食品によって効果が失われてしまいますから、これらの食品をとらないようにしてください。
角膜の薬
作用角膜の病気には、抗感染症薬などによる原因療法(病気の原因を取り除く治療)と、対症療法(症状を軽快させるための治療)があります。対症療法には、角膜を保護したり代謝(栄養素などの必要なものを取り入れ不要物を排出する働き)を改善して組織修復を促す人工涙液やヒアルロン酸などが使われます。
効果
角膜の修復が進むと、痛みや乾燥感などの自覚症状が改善します。
いつまで使うか
自覚症状が改善すれば使用は中止しますが、ドライアイなどの慢性の病気では長期間連用します。
注意点
コンタクトレンズが原因で角膜の病気になった場合、自覚症状がとれても治っていないことがあるので、医師の許可が出るまで装用してはいけません。
白内障の薬
白内障は、目のレンズである水晶体が歳とともに濁ってきて、視力が低下したり視野がぼやけたりする病気です。作用
水晶体内の代謝を改善します。
効果
病気の進行は抑えられるものの、水晶体の濁りをとる作用はないので、症状を改善させる効果はありません。
いつまで使うか
白内障の根本的な治療は濁った水晶体を手術で取り除き眼内レンズに置き換えることです。薬物治療は手術を受けるまでの間、進行を遅らせるために続けます。
緑内障の薬
緑内障は、眼球の内圧「眼圧〈がんあつ〉」が高いために眼球後方にある視神経が圧迫されて、視野が狭くなる病気です。作用
眼圧は眼球内の水分「房水〈ぼうすい〉」の量によって左右されていて、房水が多いと高眼圧になります。緑内障の薬は、房水の産生を抑えたり、房水の排出を促したりして眼圧を下げます。また、縮瞳〈しゅくどう〉薬(瞳孔〈どうこう〉を縮める薬)も使われます。これは、瞳孔が大きくなると虹彩によって房水の排出経路が狭くなってしまうので、それを防ぐためです。このほか最近では、視神経が弱いために、高眼圧でなくても緑内障になるケース(正常眼圧緑内障)が多いことがわかってきたので、視神経を保護する働きのある薬が使われることもあります。
効果
基本的に一度障害を受けた視神経は再生しません。いずれの薬も病気の進行を抑えることが目的で、視野を回復させる効果は明確でありません。
いつまで使うか
緑内障は、完治をめざすというよりコントロールする病気です。ですから薬物治療もずっと続けることになります。薬の効果が不十分なときは眼圧を下げる手術を行いますが、手術のあとにも薬を使わなければならないこともあります。
副作用
交感神経を抑制し房水産生を抑える薬は、点眼薬も含め、ぜん息や徐脈(脈が極端に遅くなること)を招くことがあり、注意が必要です。また、内服薬の一部で尿路結石ができやすくなったり、唇や指がしびれることがあります。縮瞳薬では視野が暗くなるのを避けられません。
注意点
緑内障は末期になるまで自覚症状がないので、薬の使用がおろそかになりがちです。しかし、視野異常の進行を防ぐためには点眼や服用時間を確実に守ることが大切です。
よく処方されるそのほかの薬
ビタミン薬角膜や結膜、視神経の修復、眼精疲労の緩和を目的に使われます。
調節麻痺薬
水晶体の厚さを調節している毛様体の緊張を和らげる薬で、仮性近視や眼精疲労の治療に使われます。
薬の正しい使い方
薬の効果と副作用は隣り合わせの関係にあります。薬を最も効果的に使い、かつ副作用を防ぐためには、指示どおりに正しく使うことが大切です。
【点眼薬】
(1) 手を石鹸でよく洗います。
(2) 下まぶたを軽く下に引いて、そこに薬を1〜2滴落とします。このとき容器の先端がまつげやまぶたに触れないように(触れると目の表面の細菌などが容器に逆流してしまいます)。
(3) 目をつぶり目頭を指で押さえて1〜2分待ちます(薬が涙道〈るいどう〉に流れないようにするため。治療効果を高めるのと、からだへの副作用を防ぐ意味があります。とくに緑内障の薬ではしっかり行ってください)。
〈注意点〉
容器の先端に指やものを触れない/使用後はしっかりふたをする/直射日光の当たらない涼しいところに保管/凍結させない/必要なくなったら捨てる(この次に病気にかかったときのためにといって保存しておかない)/たとえ家族でも本人以外は使わない/複数の点眼薬を使用する場合は5分以上間をおく。点眼の順序を指示されている場合はそれを守る
【眼軟膏】
まぶたの中に入れるとき:
(1) 手を石鹸でよく洗います。
(2) 鏡を見ながら下まぶたを軽く下に引いて、そこに軟膏を塗ります。このとき容器の先端がまつげやまぶたに触れないように。
(3) 目をつぶり、まぶたの上から軽くマッサージします(ただし手術後に処方される眼軟膏の場合はマッサージを省く)。
まぶたに塗るとき:
手を石鹸でよく洗ってから指先に薬をのせ、まぶたに塗ります。〈注意点〉
点眼薬と併用する場合は、眼軟膏を最後にさす/使用後はチューブの先をティッシュで拭き、ふたをする/そのほかの注意点は点眼薬と同じ
【内服薬】
コップ半分〜1杯の水とともに服用します。錠剤は指示された場合を除き、割ったり砕いたりせずに飲みます。細かくすると短時間で吸収されてしまい、安定した効果が得られなかったり、副作用が現われやすくなるからです。薬が大きくて飲みにくいときは医師・薬剤師に相談してください。〈注意点〉
ジュースやアルコール飲料などで服用しない。服用時間を守る(いずれも薬の効果を弱めたり、副作用・相互作用が現われる危険がある)
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企画・制作:(株)創新社 後援:(株)三和化学研究所
2012年2月発行
もくじ
特集
- No.1. 目で見る眼の仕組みと病気
- No.2. 糖尿病網膜症
- No.3. 糖尿病黄斑症
- No.4. 高血圧網膜症
- No.5. 網膜静脈閉塞症
- No.6. 網膜動脈閉塞症
- No,7. 加齢黄斑変性
- No.8. 中心性漿液性脈絡網膜症
- No.9. 網膜色素変性症
- No.10. 緑内障
- No.11. 白内障
- No.12. 網膜裂孔・網膜剥離
- No.13. 色覚の異常
- No.14. ドライアイ
- No,15. 屈折異常・調節異常─近視・遠視・乱視・老眼─
- No.16. 子どもの目の病気
- No.17. 結膜炎
- No.18. 角膜の病気
- No.19. ぶどう膜炎
- No.20. 黄斑円孔・黄斑前膜
- No.21. 眼の神経の病気
- No.22. 涙道や涙腺やまぶたの病気
- No.23. 目の外傷
- No.24. 目の病気の手術治療
- No.25. 目の病気の薬物治療
- No.26. バセドウ病と目の病気
- No.27. まぶたの病気とQOL
- No.28. 眼精疲労
- No.29. アレルギーによる目の病気
- No.30. コンタクトレンズ
- No.31. 飛蚊症
- No.32. ロービジョンケア
- 別冊:視神経乳頭の"異常"と"正常"
リラックス アイ
※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。
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