目と健康シリーズ Eye & Health
2015年06月01日
No.20. 黄斑円孔・黄斑前膜
編集
前橋中央眼科院長、群馬大学名誉教授
岸 章治 先生
瞳孔〈どうこう〉を通過して眼球内に入った光は、網膜というスクリーン上にピントを結び、映像になります。網膜は眼球の奥全体に広がっていますから、一点を見つめていても、上下左右の広い範囲を同時に視野に収めることができます。ただし、網膜の中心とそれ以外の部分では、視力に大きな隔たりがあります。
例えば今この文章を読んでいるあなたは、視点を少しずつ動かして、つねに視野の中心で文字をとらえているはずです。もちろん離れたところにある文字も、見えてはいるでしょう。しかしその文字を、視点を動かさずに読むのは、非常に困難だと思います。
このことから、網膜の中心には視力がとても鋭敏な一点が存在することがわかります。その一点は医学用語で「中心窩〈ちゅうしんか〉」と呼ばれています。中心窩は直径約0.35ミリメートルで、周囲の網膜より少し凹んでいます('窩'は窪みを意味する漢字です)。中心窩の網膜は、錐体〈すいたい〉細胞※という視力の鋭敏な細胞以外は血管さえ存在せず、高い視力を得るための特殊な構造になっています。このため中心窩の機能が失われると、ほかの部分の網膜は健康でも、視力は極端に低下してしまいます。
硝子体の表面は硝子体皮質〈ひしつ〉という膜で覆われていて、網膜の内側はこの硝子体皮質と接しています。そして硝子体は、歳とともに少しずつ液体(水分)に変化し、体積が縮小していきます。このとき硝子体皮質は網膜から剥がれ、その間にできる隙間は水分に置きかわります。この現象を「後部硝子体剥離〈はくり〉」といいます。これは50〜60歳以降の人ならだれにでも起こる自然な現象で、問題となるほどの症状は現れません。
ところが硝子体皮質と網膜の癒着〈ゆちゃく〉が強すぎ、うまく剥がれてくれないことがあります。そのようなケースでは、硝子体収縮の影響が網膜に及んで、さまざまな病気が起きてきます。黄斑円孔や黄斑前膜も、それによって引き起こされるものです。
中心窩の網膜に穴(孔)があいてしまう病気です。穴自体は直径0.5ミリメートルに満たないとても小さなものですが、最も視力が鋭敏な部分にできるため、大きな影響が現れます。完全な穴が形成されてしまうと、視力は0.1前後(近視などは矯正した状態で。以下同様)になってしまいます。
ステージ1
加齢によって硝子体が収縮するときに、硝子体の皮質と網膜の癒着が強すぎると後部硝子体剥離が起こらず、網膜が硝子体皮質に牽引されます。これにより、本来は少し凹んでいるはずの中心窩の網膜が、平坦になったり前方に浮き上がったりします。
浮き上がった網膜の内部には、袋のような空洞(嚢胞〈のうほう〉といいます)が形成されます。この状態がステージ1で、視力はまだ0.5程度はあり、ふだんは両眼で見ているので気付かないこともあります。
ステージ2
網膜がさらに牽引され、嚢胞の縁の一部が破れて弁のようになって、剥がれかかった状態です。視力が低下し、物が歪〈ゆが〉んで見えたりもします。
ステージ3
弁のようになっていた嚢胞上部の網膜が蓋〈ふた〉となって完全に分離し、円孔が完成したばかりの状態がステージ3です。円孔周囲の網膜は、硝子体皮質に牽引されていたときの名残をとどめて、少し浮き上がったままになっています。
この状態では中心暗点といって、視野の真ん中だけが見えなくなります。物がつぶれて見える、テレビを見ると人の顔だけが見えない、などがよく聞かれる訴えです。
ステージ4
ステージ3から数カ月〜数年たつと、硝子体はさらに収縮します。分離した蓋は硝子体皮質に付着したまま眼球内の前方に移動してしまっています。
黄斑円孔は、少し前までは治療法がありませんでした。しかし今では手術によって、視力を取り戻せるようになっています。
手術の方法
まず後部の硝子体を切除します。前に書きましたが、硝子体はそれほど重要な役目がある組織ではないので、切除しても視覚に直接的な影響はありません。
次に、網膜の最も内側(硝子体に近い側)にあたる内境界膜という薄い膜を剥がします。少し難しい操作ですが、こうすることで術後の再発を減らせます。最後に眼球内部にガスを注入し、手術は終わりです。
術後は円孔周囲の網膜がガスで抑えつけられている間、円孔が小さくなっています。すると、円孔中心に残っているわずかな隙間にグリア細胞という、周囲の細胞をつなぎ合わせる働きをする細胞が現れ、円孔を完全に塞いでくれます。
ただし、ガスは気体ですから、つねに眼球の上に移動してしまいます。ですから術後しばらくは、ガスが円孔部分からずれないように、うつ伏せの姿勢を保つ必要があります。これを守らないと、再手術が必要になる確率が高くなります。
手術の適応
ステージ2〜4の患者さんに、手術が行われます。ステージ1の段階では、硝子体皮質と網膜が自然に剥がれて治ってしまう可能性もあるので、しばらく様子をみます。また、ステージ4の状態で何年も経過しているようなケースも、手術の効果が不確かなことや、患者さん自身それほど不自由を訴えないことが多いので、積極的には手術しません。
術後の視力
術前に0.1だった視力が10日ほどで0.3程度になります。そのあとは中心窩の組織が修復されるとともに、ゆっくりと回復していきます。1回の手術で9割の人は、不自由なく暮せるレベルの視力に戻ります。
手術の合併症
注意が必要なのは、網膜裂孔〈れっこう〉と網膜剥離です。眼球の前方に残してあった硝子体(前方の硝子体は網膜と強く癒着しているため切除できません)が収縮し、網膜を引きちぎるような力が加わるために、網膜裂孔・剥離が生じます。術後数カ月以内に約3パーセントの人に起こります。裂孔や剥離は、視野が欠けたり視力が著しく低下する原因となる、治療の緊急性が高い病気です。ですから術後は定期的に検査を受けるとともに、見え方の変化に気をつけて、異常を感じたらすぐに受診してください。
手術の合併症で一番多いのは白内障です。60歳以上の患者さんなら1年以内に100パーセント近く起こります。このため多くの場合、黄斑円孔の手術と同時に白内障の手術もしてしまいます。
再発の確率
手術中に内境界膜を剥がすのが標準的治療法になって以降、ほとんど再発はなくなりました。
なお、患者さんの約1割は、他眼(健康なほうの眼)にも発病します。ただし、その眼がすでに後部硝子体剥離が起きていれば、網膜が牽引される原因がないので、発病する確率はずっと低くなります。
眼球後部の網膜の手前に膜が張って、黄斑がそれに遮られてしまう病気です。黄斑円孔と同じく硝子体収縮が関係しているので、やはり高齢者に多く、女性に起きやすい病気です。黄斑円孔のように視野の中心が全く見えなくなることはないですが、頻度的には黄斑円孔よりも多くみられます。
加齢による後部硝子体剥離が起きる過程で、硝子体ポケット(前項参照)の後壁の一部に穴があき、ちょうど水風船が破れたときのようになって、後壁(硝子体の皮質)だけが網膜側に張り付いてしまいます。そのあと、残っている硝子体皮質を骨格にして、そこに新たな細胞が増殖してきたり眼球内のゴミのようなものが付着して、少しずつ黄斑前膜が形成されます。
黄斑前膜の約9割はこのように後部硝子体剥離のあとに起きるタイプです。残りの約1割は、後部硝子体剥離がまだ起きていない段階で、硝子体ポケットの後壁が骨格になって膜が形成されるケースです。
いずれのタイプでも、前膜の形成が進むにつれて、ゆっくりと視力が低下していきます。また、物が歪んで見えたり、大きく見えたりもします。
いつ手術をするか
視力がかなり低下してしまってからだと、前膜を除去しても1.0には回復しません。視力が0.8前後に低下したら手術すべきでしょう。縦や横の線が波打って見えるといった、歪みの症状があるときは、視力がもっとよくても手術を勧めています。
術後の視力
術前の視力が0.6前後なら手術から2〜3カ月で視力は正常レベルになります。術前から歪みがある場合は、視力は向上しますが、歪みはなかなかすっきりとは治りません。これが歪みがあるときには早期に手術を勧める理由です。
手術の合併症
一番多い合併症はやはり白内障です。このため多くの場合、同時に手術してしまいます。網膜裂孔や網膜剥離については、黄斑前膜の患者さんはすでに後部硝子体剥離が起きたあとの人が多いので、頻度としてはそれほど多くありません。
再発の確率
黄斑円孔の場合と同様に、手術中に内境界膜を剥がすのが標準的治療法になってからは、ほとんど再発はなくなりました。
シリーズ監修:堀 貞夫 先生 (東京女子医科大学名誉教授、済安堂井上眼科病院顧問、西新井病院眼科外来部長)
企画・制作:(株)創新社 後援:(株)三和化学研究所
2012年2月発行
前橋中央眼科院長、群馬大学名誉教授
岸 章治 先生
も く じ |
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黄斑の病気のお話は以前もあったよネ。 確か黄斑は「視力にとって一番大切なところ」だったっけ。 今日のテーマの病気は、その大切なところがどうなっちゃうんだろう? |
網膜の中心「中心窩〈ちゅうしんか〉」は最も大切な一点
黄斑円孔〈おうはんえんこう〉と黄斑前膜〈ぜんまく〉がどんな病気か知っていただくために、まずは眼で物が見える仕組みについて簡単に説明します。瞳孔〈どうこう〉を通過して眼球内に入った光は、網膜というスクリーン上にピントを結び、映像になります。網膜は眼球の奥全体に広がっていますから、一点を見つめていても、上下左右の広い範囲を同時に視野に収めることができます。ただし、網膜の中心とそれ以外の部分では、視力に大きな隔たりがあります。
例えば今この文章を読んでいるあなたは、視点を少しずつ動かして、つねに視野の中心で文字をとらえているはずです。もちろん離れたところにある文字も、見えてはいるでしょう。しかしその文字を、視点を動かさずに読むのは、非常に困難だと思います。
このことから、網膜の中心には視力がとても鋭敏な一点が存在することがわかります。その一点は医学用語で「中心窩〈ちゅうしんか〉」と呼ばれています。中心窩は直径約0.35ミリメートルで、周囲の網膜より少し凹んでいます('窩'は窪みを意味する漢字です)。中心窩の網膜は、錐体〈すいたい〉細胞※という視力の鋭敏な細胞以外は血管さえ存在せず、高い視力を得るための特殊な構造になっています。このため中心窩の機能が失われると、ほかの部分の網膜は健康でも、視力は極端に低下してしまいます。
※ 錐体〈すいたい〉細胞: 網膜の視細胞には杆体〈かんたい〉細胞と錐体細胞の二種類があります。杆体細胞はおもに光の明暗を感知する細胞で、中心窩を除く網膜全面に広がっています。錐体細胞は細かいものを見分けたり色を識別する細胞で、網膜の中央に近い部分に密集し、周辺部にいくほど密度が下がります。
中心窩を含む網膜の中央部分が「黄斑〈おうはん〉」
眼底写真を見ると、その中心の中心窩を取り囲むように、濃い黄色の部分があることがわかります。直径1.5〜2ミリメートルのこの範囲は「黄斑〈おうはん〉」と呼ばれます。黄斑の網膜は中心窩ほどには特殊な構造ではありませんが、それでも錐体細胞の密度が高く、中心窩に次いで視力の鋭敏な範囲です。網膜は硝子体収縮の影響を受けやすい
ところで網膜の手前、眼球の一番内側はどうなっているのでしょうか。実はそこには硝子体〈しょうしたい〉という、無色透明でゼリー状の構造物があります。この硝子体は眼球内部の大部分を占めていますが、瞳孔から入った光を網膜へ透過させる空間を埋めているだけで、視覚にとってそれほど重要な役割を担っているわけではありません。硝子体の表面は硝子体皮質〈ひしつ〉という膜で覆われていて、網膜の内側はこの硝子体皮質と接しています。そして硝子体は、歳とともに少しずつ液体(水分)に変化し、体積が縮小していきます。このとき硝子体皮質は網膜から剥がれ、その間にできる隙間は水分に置きかわります。この現象を「後部硝子体剥離〈はくり〉」といいます。これは50〜60歳以降の人ならだれにでも起こる自然な現象で、問題となるほどの症状は現れません。
ところが硝子体皮質と網膜の癒着〈ゆちゃく〉が強すぎ、うまく剥がれてくれないことがあります。そのようなケースでは、硝子体収縮の影響が網膜に及んで、さまざまな病気が起きてきます。黄斑円孔や黄斑前膜も、それによって引き起こされるものです。
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中心窩の網膜に穴(孔)があいてしまう病気です。穴自体は直径0.5ミリメートルに満たないとても小さなものですが、最も視力が鋭敏な部分にできるため、大きな影響が現れます。完全な穴が形成されてしまうと、視力は0.1前後(近視などは矯正した状態で。以下同様)になってしまいます。
高齢者、とくに近視の人に多い
この病気は硝子体の収縮が関係して起きるので、後部硝子体剥離が起こる60代をピークに、その前後の年齢層の人に多発します。とくに、硝子体の液化が進みやすい近視の人や女性に多い傾向があります。円孔のでき方と症状
なぜ、よりによって一番大事な中心窩に穴があくのでしょう。以前はその理由がよくわかりませんでしたが、検査機器が発達したことで、円孔ができるメカニズムが詳しくわかってきました。ステージ1
加齢によって硝子体が収縮するときに、硝子体の皮質と網膜の癒着が強すぎると後部硝子体剥離が起こらず、網膜が硝子体皮質に牽引されます。これにより、本来は少し凹んでいるはずの中心窩の網膜が、平坦になったり前方に浮き上がったりします。
浮き上がった網膜の内部には、袋のような空洞(嚢胞〈のうほう〉といいます)が形成されます。この状態がステージ1で、視力はまだ0.5程度はあり、ふだんは両眼で見ているので気付かないこともあります。
ステージ2
網膜がさらに牽引され、嚢胞の縁の一部が破れて弁のようになって、剥がれかかった状態です。視力が低下し、物が歪〈ゆが〉んで見えたりもします。
ステージ3
弁のようになっていた嚢胞上部の網膜が蓋〈ふた〉となって完全に分離し、円孔が完成したばかりの状態がステージ3です。円孔周囲の網膜は、硝子体皮質に牽引されていたときの名残をとどめて、少し浮き上がったままになっています。
この状態では中心暗点といって、視野の真ん中だけが見えなくなります。物がつぶれて見える、テレビを見ると人の顔だけが見えない、などがよく聞かれる訴えです。
ステージ4
ステージ3から数カ月〜数年たつと、硝子体はさらに収縮します。分離した蓋は硝子体皮質に付着したまま眼球内の前方に移動してしまっています。
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円孔をふさぐ手術で治療
手術の方法
まず後部の硝子体を切除します。前に書きましたが、硝子体はそれほど重要な役目がある組織ではないので、切除しても視覚に直接的な影響はありません。
次に、網膜の最も内側(硝子体に近い側)にあたる内境界膜という薄い膜を剥がします。少し難しい操作ですが、こうすることで術後の再発を減らせます。最後に眼球内部にガスを注入し、手術は終わりです。
術後は円孔周囲の網膜がガスで抑えつけられている間、円孔が小さくなっています。すると、円孔中心に残っているわずかな隙間にグリア細胞という、周囲の細胞をつなぎ合わせる働きをする細胞が現れ、円孔を完全に塞いでくれます。
ただし、ガスは気体ですから、つねに眼球の上に移動してしまいます。ですから術後しばらくは、ガスが円孔部分からずれないように、うつ伏せの姿勢を保つ必要があります。これを守らないと、再手術が必要になる確率が高くなります。
手術の適応
ステージ2〜4の患者さんに、手術が行われます。ステージ1の段階では、硝子体皮質と網膜が自然に剥がれて治ってしまう可能性もあるので、しばらく様子をみます。また、ステージ4の状態で何年も経過しているようなケースも、手術の効果が不確かなことや、患者さん自身それほど不自由を訴えないことが多いので、積極的には手術しません。
術後の視力
術前に0.1だった視力が10日ほどで0.3程度になります。そのあとは中心窩の組織が修復されるとともに、ゆっくりと回復していきます。1回の手術で9割の人は、不自由なく暮せるレベルの視力に戻ります。
手術の合併症
注意が必要なのは、網膜裂孔〈れっこう〉と網膜剥離です。眼球の前方に残してあった硝子体(前方の硝子体は網膜と強く癒着しているため切除できません)が収縮し、網膜を引きちぎるような力が加わるために、網膜裂孔・剥離が生じます。術後数カ月以内に約3パーセントの人に起こります。裂孔や剥離は、視野が欠けたり視力が著しく低下する原因となる、治療の緊急性が高い病気です。ですから術後は定期的に検査を受けるとともに、見え方の変化に気をつけて、異常を感じたらすぐに受診してください。
手術の合併症で一番多いのは白内障です。60歳以上の患者さんなら1年以内に100パーセント近く起こります。このため多くの場合、黄斑円孔の手術と同時に白内障の手術もしてしまいます。
再発の確率
手術中に内境界膜を剥がすのが標準的治療法になって以降、ほとんど再発はなくなりました。
なお、患者さんの約1割は、他眼(健康なほうの眼)にも発病します。ただし、その眼がすでに後部硝子体剥離が起きていれば、網膜が牽引される原因がないので、発病する確率はずっと低くなります。
硝子体の中の液化腔〈くう〉「硝子体ポケット」硝子体は眼球内部を埋めているゼリー状の構造物ですが、眼球の後方、黄斑のすぐ手前の一部分だけは空洞になっています。この空洞は「硝子体ポケット」と呼ばれていて、その中には水分が溜まっています。硝子体ポケットの後ろ側は、薄い硝子体皮質だけで黄斑部網膜に接しています。
加齢とともにこの硝子体皮質が収縮すると、眼球は球体ですので、球面の底に張り付いていた硝子体皮質がトランポリン様に剥がれようとします。しかし中心窩では硝子体皮質との間に強い癒着があるので、硝子体皮質はなかなか剥がれず、中心窩は慢性的に牽引され、黄斑円孔が起きると考えられています。
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眼球後部の網膜の手前に膜が張って、黄斑がそれに遮られてしまう病気です。黄斑円孔と同じく硝子体収縮が関係しているので、やはり高齢者に多く、女性に起きやすい病気です。黄斑円孔のように視野の中心が全く見えなくなることはないですが、頻度的には黄斑円孔よりも多くみられます。
前膜のでき方と症状
黄斑前膜の約9割はこのように後部硝子体剥離のあとに起きるタイプです。残りの約1割は、後部硝子体剥離がまだ起きていない段階で、硝子体ポケットの後壁が骨格になって膜が形成されるケースです。
いずれのタイプでも、前膜の形成が進むにつれて、ゆっくりと視力が低下していきます。また、物が歪んで見えたり、大きく見えたりもします。
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手術で膜を引き剥がす
黄斑前膜の手術では、まず最初に、黄斑円孔の手術と同じように後部硝子体を切除し、前膜と内境界膜を剥がします。いつ手術をするか
視力がかなり低下してしまってからだと、前膜を除去しても1.0には回復しません。視力が0.8前後に低下したら手術すべきでしょう。縦や横の線が波打って見えるといった、歪みの症状があるときは、視力がもっとよくても手術を勧めています。
術後の視力
術前の視力が0.6前後なら手術から2〜3カ月で視力は正常レベルになります。術前から歪みがある場合は、視力は向上しますが、歪みはなかなかすっきりとは治りません。これが歪みがあるときには早期に手術を勧める理由です。
手術の合併症
一番多い合併症はやはり白内障です。このため多くの場合、同時に手術してしまいます。網膜裂孔や網膜剥離については、黄斑前膜の患者さんはすでに後部硝子体剥離が起きたあとの人が多いので、頻度としてはそれほど多くありません。
再発の確率
黄斑円孔の場合と同様に、手術中に内境界膜を剥がすのが標準的治療法になってからは、ほとんど再発はなくなりました。
黄斑前膜が黄斑円孔に見える「偽〈ぎ〉円孔」黄斑前膜のタイプの一つに、偽〈いつわ〉りの円孔「偽〈ぎ〉円孔」というタイプがあります。中心窩を除く周辺部分にだけ前膜ができ、その前膜が収縮して盛り上がり、相対的に中心窩だけが凹んだようになって、あたかも円孔のように見える状態です。
中心窩は正常なため自覚症状はないことが多く、検診などで見つかることがほとんどです。物が歪むなどの症状がある場合は、黄斑前膜と同様に治療します。
黄斑円孔が治せるようになったのは、このごろの話なんだって。医学の進歩ってすごいよね。今もある治せない病気が、早く治せるようになるといいナ。
企画・制作:(株)創新社 後援:(株)三和化学研究所
2012年2月発行