糖尿病の食事療法の原則は「適正なエネルギー量の食事、栄養素のバランスがよい食事、糖尿病性合併症の発症、進展防止を図れる食事、規則的な食事」とされていますので、患者さん個々の病態・病期・状態に応じた指示エネルギー量や生活環境に見合ったアドバイスが必要とされます。間食指導は、この原則を遵守しながら、どのように共存していくかが難しいところです。
間食の影響について
糖尿病患者さんは、健康な方と比べて血糖値が上がりやすく下がりにくい傾向にあります。摂取した時間や摂取量・内容によって、血糖値の日内変動が変化し、血糖コントロールに影響します。そのような状態が長期間継続されることにより、合併症の進行や肥満、脂質異常、高血圧症の進行などにもつながっていきます。何も制限しなければ、血糖コントロールを改善するという目的意識が薄れ、食事療法の意義も崩れてしまう可能性が高まります。
ですから、食事療法として、患者さんの適正なエネルギー量の範囲内で、生活環境や食生活の嗜好を考慮しつつ、どのような妥協点が見いだせるかを探り、現実的に患者さんができることを見つけ出すということが1つのポイントになってきます。
適切な摂取量・内容・タイミングの検討を
このように、患者さんには間食が体に与える影響を理解していただいた上で、医療スタッフは患者さんの状態や嗜好、生活環境などを考慮に入れ、指導をしていくことになります。患者さんによっては、間食をやめるべき方もいらっしゃいますので、「禁止」の際は、その判断をきちんと行うべきでしょう。
ただ、現実的には、間食を摂らずに一生を過ごすというわけにはいきません。患者さんのQOLを尊重し、潤いのある“食生活”を得るために、間食がその役割を果たすのであれば、どうしたらよいかを患者さんと一緒に考える必要があります。食べる際は、“これを守って”“ここを注意して”という知識があれば、患者さんも“食べる”ということにもっと意識を持ってもらえるかもしれません。怖いのは、行動変容への知識や意識がないことです。食べ方の工夫としては、以下のようなポイントがあげられます。
1) 何を、どれだけ?
お菓子などの嗜好食品は、単純糖質や脂質が高いことが多く、少量でも高エネルギーの摂取となり、摂取エネルギー量が指示量をオーバーしてしまいがちです。ですから、摂取する食品の“内容”と“量”には注意が必要です。
どのような食品を選ぶとよいか、という部分では、昔から乳製品や果物が推奨されており、家庭でデザートを作ればその量も調節しやすいのでお勧めです。しかし、実生活では働き盛りの会社員、独身、1人暮らしの方など、患者さんの生活環境はさまざまで、市販品や専門店のお菓子、お店などを利用する機会は多いもの。ですから、購入する際の注意点をアドバイスしておくことが有用です。よく言われる注意点としては、
- 和菓子は、洋菓子よりも高カロリーになることがある
- スナック菓子など食感の軽いものは、量の管理が必要
- 大袋やお徳用は注意(小分けタイプに)
- 清涼飲料水はやめる 等々
食品のエネルギー量を知るには、市販のお菓子ならば、外箱や袋の裏にエネルギー量や脂質、塩分量などの栄養表示が明記されているものが増えていますので、表示があるものをチェックして購入すると安心です。注意すべきは、専門店の洋・和菓子やお店のデザートなど、表示のない食品。エネルギー量は食品によって違いますので、その食品がどれくらいのエネルギー量であるかを、目安として患者さんに憶えてもらうことが大切です。
1日の指示エネルギー量の中から、食事量を控えたり、摂取品目を置き換えたり等の工夫や、どれくらいなら指示量オーバーの許容範囲となるか、また、摂取してよい日をどのように設けるかなど、医療スタッフが患者さん個々に検討し、アドバイスすることが望まれます。
2) タイミング
3度の食後に上がった血糖値が、下がろうとし始めた(もしくは上がったまま)時に間食を行うと、再び(もしくは、さらに)上昇してしまうので、高血糖状態が続くことになります。間食を摂る時間として多いのは、10時、15時、夕食後・夜中。最もよくないのは、夜中と言われています。血糖が高いまま就寝することになり、下がりきらないまま起床を迎えることになります。
どのタイミングにしても、摂取すれば血糖値は上がりますが、アドバイスとしてよく使われているのが、“3食の食事の一部として食べてしまう”、もしくは、“外出するなどの活動前やウオーキングなどの運動療法前に食べる”というアイディアです。前者は、1日の血糖上昇の回数を一定にすることと、食事と一緒に計算できるので摂取エネルギー量の把握と管理のしやすさという利点があります。後者は、食べた分をなるべく運動や活動で消費しようという意識と同時に、摂取カロリーを消費するのは困難であることを実感してもらう、という意味合いを持たせているようです。
このようなポイントを注意しながら、患者さんと一緒に間食について考えてみましょう。