間食は、何が何でも血糖を下げたいという目的を持っている患者さんに対しては厳格にします。血糖コントロールの先に目指すものがあれば、おやつをやめるという選択肢が出てきます。どうするかは、患者さんの血糖コントロールや病期によって変わってきますね。今は食べない方がいい、という病期の場合、「期間を決めてやめてみませんか?」と提案します。また、HbA1cが悪くなってる方、肥満が目立つ方についても、どうしても食べたいという場合は相談して、できることを一緒に考えます。間食の場合、単にお腹がすいたというだけでなく、ストレスで食べてることも多いと思います。そんな時は、どういう時にストレスを感じてるか、核になるところを聞き取りの中から見つけて、間食に走らない対策を考えます。
糖尿病だからと言って食べてはいけないものはないのですが、“お腹すいたからとか時間だからと無意識的に食べる”のではなく、“何を食べているかを意識して”もらいたいですね。間食を食べるのだったら日中で、お付き合いのおやつにしても患者さんが賢く食べるものを選んでいってもらえばと思っています。
「間食指導の情報ファイル」に入っているアイスクリームのタワーも、今年の夏は患者さんと一緒によく見ています。家族はカロリーの低いガリガリ君なのに、患者さんはチョコモナカを食べているという人が多かったりして(笑)。タワーは高さを見られるのでわかりやすいですね。当院のスタッフも食べたものをタワーに書き込んだりしています。 商品の裏の原材料表示を見ていない人も非常に多くて、男性はとくに見ない人ばかり。そういう人に対しては、病院の売店へ一緒に行って見せながら説明します。「これに含まれている砂糖の量はこれと一緒なんですよ!」とスティックシュガーを見せながら、「これと同じ量を飲んだら相当甘いでしょ?」などと、実践的に表示の見方を教えてあげたりします。
ドクターと栄養士さんの間に入ってどんな生活をしているかをよく聞くのですが、「菓子パンを食べている」と仰った時、「どんな菓子パン?」と聞くと“やきそばパン”と言う方もいます。食事パンも菓子パンと思っている人もいるのです。そして、「いつ、どんな時にそれを食べているか」、具体的な部分を聞き出さないと実態がつかめません。あと、最近こだわりの食べ物、マイブームなど、患者さんの嗜好を会話の中で聞き出すことも大切で、そこから会話が盛り上がり、食生活の実態を掴めるだけでなく、関係性も良くなります。
また、間食の話を聞いた際には「美味しかったですか?」と聞いたりします。まずは共感。でも必ず患者さんが「血糖値が上がるってわかってるんですけどね」などと続けます。「実はこんなの食べちゃったのよ〜」って気軽に正直に言える関係作りをするのは大切です。“正直に言える患者さん”は、「これを食べたらこうなって、これだとこうだった」とか、反省半分、自己分析をしていたりします。SMBGをしている人は特に。この反省や自己分析の繰り返しは重要だと思っています。
本当は、先ずはドクターが「間食禁止は無理よね」と認めてくださると、医療スタッフはやりやすいかもしれません。診察時に、「ナースが食べていいとを言ったから食べた」などと、ドクターに言い訳されても困りますからね(笑)。
次回の受診日にまた面談を行いました。すると、今までに話題がなかったお姑さんの話が出てきたんです。話をしている中でそれが問題の核になっているのではと思いました。3回目の会話でやっと、「実は、姑が・・」という話をするようになって、表情が変わりました。話によると、それまで、ご主人の仕事が終わるまで、夕食を23時過ぎまで待っていたそうです。でも待っているとお腹がすいてしまうので、間食していたんですね。そして夜中にもご主人に付き合って一緒に夕食を食べていた。
そこまで掘り出さないとわからない。SMBGの記録でも夕食前と書いてあっても、その人によって何時になるかは異なります。この方のように23時過ぎという人もいらっしゃるわけです。子供がいなくて、お姑さんが年をとったので田舎へ帰ってこないかと言われるも、ご主人は頑張ってるからそんなことは言い出せない。もともと保育士さんだったそうで、子供ができなかった負い目もあったのかもしれません。そんな環境だったので病気の治療など、あまり堂々とやりにくかったんですね。
でも、話をしたらすっきりしたようで、私、やっぱり治療をがんばります、と。そんなきっかけでやる気が出るようになって。どんな状態か食事の状況を栄養士さんにみてもらいましょうか、と誘い栄養相談を受けて頂きました。その後、大きな改善点としては、ご主人に「血糖コントロールの状態が悪い。食事の時間が遅いのはよくないから、先に食べるね」と言えたこと。今まで、頑張ってるご主人に言えなかったんです。今までは、夕食を待って一緒に食べることがご主人へのサポートと思っていた。でも、こういう状態を続けていくことで、いずれ合併症など大きな問題が出てきて、もっとご主人に迷惑がかかるかもしれない、と考えることができるようになった。自分の体をよくして、旦那さんをサポートしていこうという気になったようです。結果的に夕食の時間を変えたことで、1日の栄養摂取量も変わり、半年くらいかけて現在は7%代に安定していきました。間食内容は、お菓子だけでなくコンビニの賞味期限切れのものを毎日食べていたようです。
1カ月だけ朝晩体重はかって、食べたものを書いてメールで送ってくれますか?と依頼しました。パソコンは得意なので、3食の記録をきちんとつけてきてくれました。それを見てみると、その方は1日中食べ続けているような習慣を送っていることがわかりました。食生活を変えなくちゃいけないね、という話に当然なるのですが、独身男性は生活管理は難しいですよね。電子レンジも家にない世界です。ご自身曰く、部屋はゴミ屋敷で、レンジを置く場所がないと仰られて。その時は間取りを書いて、どこに何を置いてるかを聞き、ならこれをこう片付けたら?と、まずはレンジの場所を確保することから始めました。
そんな経緯の中で、レコーディングダイエットで80kg前半まで落ちたんです。でも、最終的には病院へ来なくなってしまいました。考えてみると、彼は私に言われたからやっただけで、自分からやりたくてやっていたわけではない、ということだったのではないかと思うんです。そして、彼にとっては、やせたことのメリットも感じられなかった。ズボンが緩くなったといっても嬉しそうでもなかったですし。。そんな失敗例だったのですが、今となっては、どんなふうにあのとき考えていたのかなと気持ちを聞いてみたいですね。
こういう例を経験すると、やはり患者さん自身、その先のことを考えているかどうかが、療養上のコンプライアンスとして重要だと思うんです。改善することのメリットや目標とか。例えば、セカンドライフのために、元気でいたい。とか、その先に目標をもつ。SEの方のように目先のことしか考えられない環境の方もおられるんですよね。あと、年令とかもあるかもしれません。
ある時、針が見ることができないから自己注射は無理!という患者さんがいらっしゃって、この患者さんと面談を行いました。すると、私に思っていることを語ってくれたんです。自分がどういう信念や流儀を持って生きてきたか、大事にしていることはこういうことなんだ、と。ゆっくりとこんなに話を聞いてくれたのがとても嬉しかったそうで、「じゃあ、やってみるよ!」とやる気になったんです。
そうしたら、次回1カ月半後、HbA1c8.5%だったのが6.7%になったんですよ。で、話を聞いてみると、この患者さんに隠されていた問題点は別にあることが判明しました。インスリンは打てないから内服薬だけでの治療にしていたのですが、その方は心臓が悪くて心臓の薬も飲んでいました。朝食は食べない方だったんですが、心臓の薬を飲まなくてはならないので、今までは、朝食を食べずに血糖降下薬をがばっと飲んでいたそうなんです。よく低血糖が起きなかったなと驚きました。
患者さんが改善した点としては、この薬の飲み方を変えたのだとか。薬はご飯を食べてから飲むようにした。そして、食前のものは食前、食後のものは食後に飲むことにした。心臓の薬は別に飲むようにした。普通のことのようで、それがずっとできてなかったんですね。また、この方は60歳過ぎの独身男性なのですが、食事もカロリーをメニューから見てきちんと選ぶようにして、デザートがついてるものは人にあげるようにするといった努力も始めたのだそうです。
後で聞いたら、ドクターを驚かせるために、何ができるかを考えたらしいんです。先生に、「よくやったね!」と言わせたくて。薬の説明をよくよく見たら、「この薬、食事の前と書いてあるじゃないか!」と初めて知ったとか。よく生きてましたよね(笑)だから、薬についてもこれからは聞いていかなきゃなと思っています。
先生の所では、年に一回、患者さんが参加する宿泊研修を行っており、患者さんの実体験を発表する会を聴講する機会がありました。その時に発表された、大学に入学してから1型糖尿病を発症したという21歳の女性の話には心打たれました。彼女が通院していた病院での診察は、糖尿病発症したての彼女に、インスリン注射打ちなさい、食事はこれはだめ、間食はだめ、等々、“○○しなくてはダメ”という指導のオンパレードだったそうです。何かこちらから相談・要求しても、あれやれこれやればっかりで、まったく話を聞いてもらえない状況。言っても何も聞いてもらえないから、だんだん彼女は何も言わなくなった、と。もうだめだと思うと、患者さんは喋らなくなるんですよね。
そんな環境で、病院も行きたくなくなり、治療も前向きに取り組めなくなってきたのだけど、「このままじゃ自分がだめになる!」と一念発起。その病院を転院し、自分で医療機関を探す中、たどり着いたのが平尾先生の所だったそうです。平尾先生は初診での開口一番、「何が一番大変なの?困っているの?何がイヤ?」とまず彼女の話を聞いてくれた。自分はインスリン注射が怖いということを正直に言えた。そしたら、先生は注射を持って「あ、これ?」と自分のお腹にぷすっと目の前で刺したそうです。「怖がらなくても、痛くないよ?大丈夫、大丈夫」と。その瞬間、「あ、この人は自分のことをわかってくれる・・」と思ったそうです。ちゃんと治療しようという気持ちになった、と。私も、その話を聞いて、「そう、ほんのその瞬間なんだよな」、患者さんの心を動かせるような指導ができたら素晴らしいなと思いました。そして、患者さんを常に理解しようという姿勢で接することの大切さ、投げかける言葉の力って本当に影響が大きいんだなと感じました。
患者さんが言うことには、ウソはないと思っています。できるできないは別として。その瞬間だけでも、そう思っていること、やろうと思っていることは事実ですから。だったら、そこを私たちが支えて応援してあげるのが、私たちの役割なんじゃないかと考えています。彼女の発表を聞いていたら、私たち医療スタッフの言動は、患者さんの人生を変えてしまう程の力を持っているんだなと、実感したんです。
やれって言われても人はやりませんよね。やるのは、自分で決めた時。糖尿病患者さんに限らず人間は皆そうだと思う。それは、自分としても信念ですね。だから、自分でやると決められるように仕向けてあげる、そのお手伝いを私たちがやって支えてあげたい。いいんですよ、「三日坊主」でも。三日続いたじゃない、今までやらなかったんだよね、と言ってあげたい。失敗しても再挑戦すればよいだけ。その繰り返しですから。とりあえず“やってみることに意義がある”と思います。
コーチングの研修で教わったのが、ペットボトルの水を見て、これだけしか水がないと思うか、まだこれだけ水があると思うか。捉え方で大きく違います。データの悪い方、うまくいってない患者さんは、できていない自分を探してしまう傾向がありますので、できた部分を探してほめてあげることも大切です。
こういうことは全部いろいろ教わってきたことで、やっと自分も還元して、少しずつ教えてあげられるようになってきました。平尾先生もそうですけど、私だってお菓子が好きだし、世の中にはいろんな人がいて、それがたまたま糖尿病をもったんだから、めがねをかけるのと一緒で上手にやって楽しくいこうよという姿勢でポジティブに患者さんと取り組むことを信条にしています。平尾先生みたいにどっしり構えて、「こうやってやってけばいいんじゃない?」と、肩をポンと叩いてくれるような医療者が私の理想です。ずっと、そんな感じでいたいなと思います。そんな、患者さんにやさしい環境がもっともっと広がっていくことを心から願っています。