二次性脂質異常症の治療

 ある疾患の罹患によって生じる脂質異常を「二次性(続発性)脂質異常症」と呼びます。治療においては、原発性脂質異常症と異なり原疾患を治療することが先決で、それにより脂質異常症が治癒または改善します。二次性脂質異常症につながる原疾患としては、甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、クッシング症候群などがあります。

 糖尿病に伴う高トリグリセライド血症も二次性脂質異常症という側面があります。ただし、肥満・メタボリッシンドロームを基盤に発症する場合は、糖代謝と脂質代謝の異常がインスリン抵抗性を中心とするほぼ同じ理由で生じてくることがあります。そのような場合、「糖尿病による二次性脂質異常症が生じている状態」と明確には言い切れません。治療においても、血糖または脂質の検査値上での管理のみにとらわれず、両者共通の原因であるインスリン抵抗性の改善に目を向ける必要があります。

脂質異常症の治療における生活改善の効果

 脂質異常症のうち高 LDLコレステロール血症は、体内のコレステロールの多くが肝臓で合成されることから、コレステロール摂取を減らしても実際のところ、十分な効果を得られることはあまり多くありません。食生活の欧米化が一段と進み、コレステロール摂取を減らすこと自体が難しいことも背景にあるのでしょう。

 一方、高トリグリセライド血症は、摂取エネルギーを適正に保ち、飲酒を控え、適度な運動を継続し、体重を管理するという生活改善によって効果が現れやすく、顕著に改善することが少なくありません。

糖尿病と高LDLコレステロール血症

 糖尿病に伴いやすいのは高トリグリセライド血症ですが、高 LDLコレステロール血症を伴うこともあります。これは、血糖コントロールが良くない状態ではインスリン作用の低下により LDL レセプターの活性が低下すること、また、腸管でのコレステロール吸収が亢進することなどによります。

炭水化物の摂取量を減らす方法

 糖尿病の食事療法の指導方法としては『糖尿病食事療法のための食品交換表』を用いる方法があります。『食品交換表』は便利な反面、やや難解なため、すべての患者さんが利用できるわけではありません。患者さんの理解力にあわせた個別指導が必要です。

 栄養指導の‘初めの一歩’の段階では、「炭水化物を摂り過ぎをないようにするには、ごはんやパン、そば、うどんなどの『主食』の量に気をつけましょう」といった簡単なメッセージを伝えることが最も役立つこともあります。

肥満と糖尿病、高トリグリセライド血症

 食生活の欧米化や自家用車の普及、産業構造の変化といった社会環境の移り変わりにより、日本人、とくに男性の肥満化傾向が続いていて、それとともに種々の生活習慣病が増えています。その代表が糖尿病と言えます。

 肥満による糖代謝への影響は、初期にはインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)が目立ちます。インスリン感受性の低下を高インスリン血症で代償できなくなった段階で、血糖値が上昇し始め、やがて糖毒性の影響も加わり、インスリン分泌が低下して顕著な高血糖となります。もっとも、日本人は肥満の診断基準(BMI25以上)に該当しない小太り程度でも、このような経過をたどりやすいことがわかっています。

 高トリグリセライド血症もやはり肥満と関係が深く、とくに内臓脂肪として蓄積される中性脂肪の影響が大きいと考えられています。

飲酒が糖尿病、脂質異常症に及ぼす影響

 脂質異常症のみの患者さん、あるいは糖尿病に併発していても薬剤による血糖降下療法を行っていなければ、飲酒は病状コントロールを悪化させる要因という観点で注意すべき問題です。しかし、薬剤による血糖降下療法を行っている場合、アルコール性低血糖の危険性を患者さんに伝える必要があります。

 飲酒時に血糖値が低下した場合、アルコールによって肝臓での糖新生が抑制されているので、血糖上昇に時間がかかります。また、低血糖になった際にも交感神経症状がマスクされるので、普段は低血糖にすぐ気付く患者さんでも気付きにくくなります。さらに、低血糖で意識障害に陥っても、周囲の人からは酩酊と勘違いされ、そのまま放置されてしまう危険性があります。一般に「アルコールは高カロリー」と考えられているため、飲酒の前に食事を控える人もいて、それが低血糖を招くこともあります。

 なお、アルコールの良い作用として、ごく少量の飲酒が HDLコレステロールを増やしたり血圧を下げるなど、血管障害を抑制するように働くこともわかっています。ただしその効果はごくわずかなものと考えられ、患者指導の際にその効果を期待して飲酒を勧めることはありません。

食物繊維の多い食品

 食物繊維の多い食べ物としては、野菜のほか、主食のご飯を玄米入りにしたり、雑穀米に変えたり、パンであればライ麦パンにするなども良い方法です。

食事療法に関するその他のアドバイス

 脂質異常症のうち高 LDLコレステロール血症の場合は、コレステロール含有量の多い食材を控えることも必要とされますが、高トリグリセライド血症の場合、基本的に糖尿病の食事療法と一緒です。ここでは食事に関する基本的アドバイスをいくつか追加しておきます。

 1つは「1日3食に分けて食べる(朝食を欠かさない)」ことです。仮に1日の摂取エネルギー量が同じだとしても、3食分を2食で食べると当然1食あたりのエネルギー量が高くなり、食後の血糖値やトリグリセライド値をより上昇させてしまうからです。

 また、「よく噛んで食べる」というアドバイスも大切です。よく噛んで適度に時間をかけて食べると、食べ過ぎをしにくいことがわかっています。また、食後の血糖やトリグリセライドの上昇が抑えられるという報告もみられます。

 このほか、サラダをよく食べるのは良いものの、ドレッシングのエネルギー量に注意が必要で、「ノンオイルタイプでもカロリーはある」といった情報も伝えておきたいところです。

運動療法の注意事項

 糖尿病や脂質異常症の運動療法を指導する際、血管合併症の有無と程度を事前に把握しておくことが重要です。虚血性心疾患の所見があれば当然、十分なモニタリングを行い、強度の低い運動を勧めることになります。

 糖尿病性細小血管障害の網膜症がある場合も、運動時の血圧上昇が眼底出血を引き起こす可能性に配慮が必要です。また腎症がある場合は運動が逆効果になる(腎症を進行させる)こともあります。神経障害は虚血性心疾患の症状をマスクしたり、無自覚性低血糖、不整脈のリスクがあることに配慮が必要ですし、足病変予防のため患者さん自身で足をよく観察していただくようにします。

 糖尿病の治療にあまり熱心でなかった患者さんが、合併症が起き始めた途端に熱心に運動療法に取り組み始めることもありますので、こういった情報を事前に伝えておくことが求められます。

血清脂質値のコントロール目標

 日本動脈硬化学会『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版』に示されているトリグリセライドの管理目標は「150mg/dL未満」ですが、LDLコレステロールについては国内外の豊富なエビデンスを基に、危険因子の数に応じて細分化された管理目標が示されています。

 
リスク別脂質管理目標値
〔日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版.8,2007〕

 
non-HDLコレステロール

 脂質異常症の管理において、LDLコレステロール値が今のところ最も重視されています。しかし、高トリグリセライド血症が問題となる糖尿病やメタボリックシンドロームの場合、総コレステロールから HDLコレステロールを引いた値、「non-HDLコレステロール」のほうが臨床に即していて評価しやすいとも最近言われます。米国のNCEP(National Cholesterol Education Program)では、〔LDLコレステロール値+30〕をnon-HDLコレステロールの管理目標の目安としています。

フェノフィブラートの主な作用

 フィブラートは最近になり、多彩な薬理作用がわかってきています。主要作用は、肝臓のPPARαという脂質代謝に関係する受容体を活性化することですが、インスリン抵抗性改善作用、抗炎症作用、血管内皮機能改善作用などもあることが示されています。

脂質低下薬の使い分け

 現在、脂質異常症の治療に用いられている薬剤の代表としてスタチンとフィブラートがあり、それぞれの治療ターゲットは LDLコレステロールとトリグリセライドです。ただ、実際の臨床では、LDLコレステロールとトリグリセライドのどちらも高いというケースが少なくありません。その場合は、より重要と判断される危険因子を優先し治療ターゲットとするのが基本と言えます。

 スタチンにはトリグリセライドを下げる効果がありますし、フィブラートにも LDL を下げる効果がありますので、選択した薬剤が脂質管理自体に悪影響を及ぼすことはありません。しかし、一方のコントロールが不十分な場合には、2種類の脂質低下薬の併用を検討します。その際、LDL のみを注視していると、低 HDLコレステロール血症などのリスクを見逃すことになるので、前に述べた「non-HDLコレステロール」(総コレステロール- HDLコレステロール)を参考にしたり、脂質の質を調べる検査(例えばリポ蛋白分画精密測定など)を参考にする場合があります。

「FIELD」でのフィブラートとスタチン併用例

 FIELD では、治療に必要とされる薬剤の使用が制限されていませんでした。その結果、実薬群(フェノフィブラート群)にもスタチンが用いられたケースが約800例あり、平均5年間併用が続けられました。この間、併用例に横紋筋融解症は発生しませんでした(FIELD の試験登録時の基準では、血中クレアチニン値1.47mg/dL以上の症例は試験から除外されています)。

 糖尿病患者さんのような厳格な脂質管理が必要な状況において、FIELD で示された血管障害抑制効果を生かすためには、腎機能をしっかり評価したうえで両剤の併用をより積極的に考慮することも、今後は必要となってくると言えるでしょう。なお、フェノフィブラートとシンバスタチンの併用で血清脂質を厳格に管理することの有用性・安全性を調べる大規模臨床試験(ACCORD)が現在、米国で進行中です。

フィブラートとスタチン併用の工夫

 フィブラートとスタチン併用の安全性を高める工夫としては、どちらかの薬剤をしばらく投与したうえで必要性のあるときに考慮する、高齢者には併用しない、腎機能・肝機能の定期的なフォローといったことに加え、例えば、一定期間ずつ交互に服用してもらう、一方の投与量を半量にするなどの方法があります。また患者さんには、からだに異常を感じたときには速やかに医師または薬剤師へ連絡するよう説明しておくことも必要です。