糖尿病の合併症と併発症

‘合併症’という語句の意味は、狭義には「ある疾患やその治療に起因して発病する疾病」と解釈されますが、国語辞典などでは「ある病気の進行中に発病する別の病気」のように、‘併発症’という意味も含む広義な解説がなされていることもあります。

 ただし糖尿病の医療では一般に、高血糖が関与し発症・進行するものを‘合併症’と呼び、高血糖が関与しない疾患や、高血糖と同時進行的に発症するものを‘併発症’と呼ぶことが多いようです。

 具体的には、網膜症、腎症、神経障害、動脈硬化、易感染状態などは‘合併症’で、脂肪肝・非ウイルス性肝炎、膵がんなどは‘併発症’、高血圧や高中性脂肪血症・低 HDL コレステロール血症などは‘合併症’としての側面と‘併発症’としての側面の両方があてはまる病態といえます。

合併症としての網膜症

 網膜症とは、非炎症性の網膜疾患のことです。ある疾患に伴う合併症として網膜症が起きる例に、糖尿病のほかにも高血圧によるもの、貧血によるものなどが挙げられます。高血圧網膜症は、内科的な降圧治療の発展により、それ自体が眼科的治療の対象となるケースは減っていますが、糖尿病網膜症は今でも眼科での管理が欠かせません。

網膜症の病期分類

 糖尿病網膜症の病期分類には、福田分類などいつくかの方法が使われていますが、比較的理解しやすく患者さんへの説明にも容易な、以下の三つの病期に分類する方法が汎用されています。

(1) 単純網膜症:毛細血管瘤、わずかな眼底出血などがみられる状態で、網膜血管の血流障害が現れているものの虚血はみられない段階です。
(2) 増殖前網膜症:虚血を示す軟性白斑が多数みられ、蛍光眼底造影では無灌流域が認められる段階です。レーザー光凝固術はこの時期が最も効果的です。
(3) 増殖網膜症:虚血部位や硝子体に新生血管が発生しつつある段階で、その活動に伴い、眼底出血、硝子体出血、牽引性網膜剥離など、視覚障害につながるイベントが起こり得ます。


黄斑の働き

 眼底の中央に位置し、眼底写真で周囲よりもやや黄色が強く見える部分が黄斑です。

 黄斑には視力や色覚を司る視細胞(錐体細胞)が密集しており、視力検査で測定する「視力」とは、この黄斑の働きによります。とくに黄斑の中心の中心窩と呼ばれるわずかな窪みは、錐体細胞以外の組織が極端に少なく、視力が最も鋭敏な一点です。

 糖尿病網膜症など進行性の眼底疾患の治療では、視力への影響が大きい黄斑(とくに中心窩)の機能を保持することが、より重要です。

視覚障害の原因疾患
 
 
〔中江公裕・他:わが国における視覚障害の現状.網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究 平成17年度報告書(厚生労働省難治性疾患克服研究事業 網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究班):263~267,2005〕

 
主な視覚障害の原因

 長い間、糖尿病網膜症が成人の視覚障害の原因の第1位とされてきましたが、2005年の調査では緑内障に続き2位となりました。ただしこれは、糖尿病網膜症の患者数の減少を意味するものではなく、糖尿病網膜症の治療が普及してきたためとも考えられます。

 なお、視覚障害の原因の3位以下は、網膜色素変性、黄斑変性、高度近視、白内障と続いています。

網膜症以外の眼合併症

 網膜症のほかにも、糖尿病に伴い白内障の頻度が高くなることが知られています。白内障は、水晶体が濁る加齢性の変化ですが、糖尿病では水晶体内のポリオール代謝異常などにより、より若年で発症し進行も速いといわれています。また、水晶体の中央部から濁りが始まることが多く、視覚に影響が及びやすいとされています。

 治療は、血糖管理が著しく悪い場合を除き、大半は糖尿病でない患者さんと同様に眼内レンズを用いた手術を行います。白内障のために眼底の状態を把握できないということにならないよう、網膜症の管理・治療の流れを考慮しつつ、白内障の手術適用を判断する必要があります。

 白内障以外には、増殖網膜症に伴う血管新生緑内障、神経障害による眼瞼下垂、インスリン等による血糖管理開始直後に一時的にみられる屈折異常、循環障害による虚血性視神経症などがあります。

合併症としての腎症、CKD としての糖尿病腎症

 ある疾患に伴う合併症として腎症が起きる例に、糖尿病のほかに、高血圧の関与が強い腎硬化症、全身性エリテマトーデスによるループス腎炎などが挙げられます。透析開始の原疾患としては、腎硬化症も人口の高齢化により漸増していますが、糖尿病腎症は増加率で他の疾患を圧倒しています。

 近年、世界的な規模で増加する慢性腎臓病(CKD)の対策が急務となっていますが、国内においては CKD の多くを糖尿病腎症が占めているのが現状です。CKD は動脈硬化性疾患の危険因子ととらえられており、他の危険因子を合併・併発していることの多い糖尿病患者さんでは、この観点からの管理がより重要といえます。

腎臓の働き

 腎臓が「血液をきれにいにして尿を作る内臓」だということは一般的な情報として広く知られています。患者さんへ腎症について話すときも、その知識に基づき「腎臓の働きが悪くなると血液中に老廃物が溜まったり、必要な蛋白質が出ていってしまう」という話し方で、おおかた説明できます。

 ただ、腎症が進行し腎不全に近くなると、エリスロポエチン分泌低下による腎性貧血や、ビタミンD活性化が進まないことによる骨代謝への影響などへ配慮した治療も必要になってきますので、その都度やや詳しい説明が求められます。

腎症の病期

 糖尿病腎症の病期分類としては、1999年に日本糖尿病学会と日本腎臓病学会の合同委員会の報告がスタンダードになっています。第1期から第5期までに分類する方法です。

 第1期「腎症前期」は現在の検査では異常を認められない状態です。ただし、糸球体内過剰ろ過のために、クレアチニンクリアランス(Ccr)はむしろ上昇していることもあります。

 第2期「早期腎症」は微量アルブミン尿がみられ、糸球体の構造的障害が起きつつあることがわかります。尿試験紙による蛋白尿の測定では、まだ陰性のことが多いです。

 第3期「顕性腎症期」は尿試験紙による検査でも蛋白尿が陽性となります。Ccrが60mL/分以上あり腎機能が比較的正常に保たれている段階を「顕性腎症前期」、Ccr60mL/分未満(または蛋白尿1g/日以上)で腎機能の低下が認められる状態が「顕性腎症後期」です。

 第4期「腎不全期」では腎機能はより低下し、血清クレアチニンの上昇がみられ、疲れやすさやむくみなどの自覚症状も現れてきます。

 第5期は尿毒症症状もみられ始め、透析または腎移植による治療が必要となる「透析療法期」です。

透析療法が必要になる原因
 
原因疾患別にみた新規透析導入者数の推移
 
 

 
〔日本透析医学会 統計調査委員会:わが国における慢性透析療法の現況.透析会誌 41(1):1~28,2008〕

 


 透析人口については、日本透析医学会から毎年、「わが国の慢性透析療法の現況」という統計が発表されています。それによると、かつては透析人口の大半を慢性糸球体腎炎などの腎臓そのものに発病する疾患で占めていましたが、1998年に糖尿病腎症が新規透析導入の原疾患としてトップにたち、以降も年々増加しています。

 ちなみに2006年の新規透析導入者数は、糖尿病腎症による患者さんが1万4,968人(全体の42.9%)、慢性糸球体腎炎が8,912人(25.6%)、不明3,454人(9.9%)、腎硬化症3,262人(9.4%)などとなっています。

合併症としての神経障害

 神経障害の症状は多彩で、その原因も広範です。糖尿病の患者さんに生じた神経障害が、すべて慢性高血糖に基づくものとは限りません。よって糖尿病神経障害は、除外診断により診断されます。

 例えば、足より先に手に症状が現れた、症状が片側性、血糖コントロールが良好に推移している患者さんなど、糖尿病神経障害としては非典型的なケースでは、他の要因による神経障害、整形外科的疾患によるものなどが考えられ、鑑別が必要です。

神経障害の種類

 多発性神経障害が糖尿病によく見られる発現パターンで、自覚的には左右両足の同部位のしびれや痛み、感覚の麻痺、他覚的にはアキレス腱反射の減弱・消失が典型的です。これらは感覚神経・運動神経の障害を受けた部位に対応して現れる症状です。一方、自律神経の障害ではその影響が全身に及びます。

 血管障害による虚血のために起こるとされている単一神経障害では、動眼神経や顔面神経の麻痺が比較的よくみられます。症状は一般に一時的で、予後がよいとされています。

治療開始後に症状が悪化するケース

 神経障害の治療は、血糖管理をベースにし、アルドース還元酵素阻害薬やビタミン製剤による神経機能の改善と、対症的治療によります。下肢痛などを発症後に治療を始めたしばらくあと、自覚症状が悪化することがあり、その可能性を患者さんへ事前に伝えておくことが求められます。

 この現象は、それまで神経障害のために痛みがカバーされていたものが、治療が進み感覚神経の働きが正常に近付くにつれ、自覚症状が一時的に強くなるものと考えられます。患者さんに対しては、治療を続けることで必ず軽快することの保証が大切です。

無症候性心筋虚血

 狭心症や心筋梗塞の発作時には、通常は強い胸痛を伴うものですが、それをさほど強く感じないことが無症候性心筋虚血です。糖尿病の患者さんにしばしばみられ、治療開始の遅れにより予後が悪化しがちです。

 糖尿病患者さんの場合、感覚神経の障害が関係していると考えられますので、神経障害のある患者さんでは、心機能をよりこまめに検査する必要があります。

無自覚性低血糖

 低血糖時には、まず自律神経症状(異常な発汗、手足のふるえ、動悸など)が出現します。この段階ですぐにブドウ糖などを摂取し対処すれば速やかに回復しますが、対処が遅れて血糖値がより低下した場合には、集中困難、見当識障害などの中枢神経症状が現れ、患者さん本人での対処が困難になります。

 無自覚性低血糖とは、自律神経症状が発現する血糖値の閾値が中枢神経症状のそれを下回る結果、本人が対処する間もなく、突然、意識障害等に至ってしまう低血糖発作のことです。その原因として、糖尿病合併症の自律神経障害があげられます。これに対しては、血糖測定を頻繁に行い、血糖値の低下に対しては早め早めに対処することが求められます。また、車の運転免許の取得・更新に際して、主治医の診断書が必要となることもあります。

 なお、無自覚性低血糖の原因として神経障害によるものとは別に、直近の重度な低血糖発作が挙げられます。この場合も自律神経症状発現閾値の低下によって生じます。ただしこの場合は、しばらくの間、低血糖を起こさなけば自律神経症状発現閾値が元に戻り、無自覚性低血糖もなくなります。

転倒の防止

 起立性低血圧によるふらつきが、転倒による事故につながることがあります。臥位から立位に移るときは間に座位を数分間はさみ、時間をかけてゆっくりとつかまり立ちすることで、これを予防できます。とくに、糖尿病によって骨量が減少していたり、網膜症や白内障による視覚障害がある患者さんには、転倒骨折防止により注意が必要となります。

自律神経障害がある場合の運動療法

 糖尿病の運動療法の運動強度は「中程度」がよいとされます。強度が中程度の運動の目安として、「脈拍が110前後になるように。高齢者ではやや少なめ」といった指導を行いますが、自律神経障害がある場合は、運動負荷と脈拍が相関しなくなるので、運動強度の指標に用いることは危険です。

糖尿病合併症の多くは「血管病」

 糖尿病の合併症の多くは「血管病」です。

 糖尿病に特異的なのは細小血管障害で、網膜症や腎症、神経障害の主要な原因です(神経障害についてはポリオール代謝異常の影響もあります)。細小血管障害の発症・進行は、血糖コントロールの良否との相関が明確です。また、血圧や血清脂質もこれら細小血管障害の進行に影響を及します。

 一方、大血管障害(動脈硬化)に高血糖がどの程度の影響を及ぼすのかは、まだ正確には把握できていません。糖尿病で動脈硬化の進行が促されることは明白ですが、それが高血糖そのものの結果なのか、糖尿病に伴うことの多い高血圧や高トリグリセライド血症、低 HDL コレステロール血症の影響がどの程度あるのか、あるいはこうした代謝性疾患の基礎にあることが多いメタボリックシンドロームの結果として発症しているのかといったことは、「糖尿病」という病態の多様性もあり、正確に把握することが容易ではありません。

心筋梗塞・脳梗塞発症に及す糖尿病の影響

 糖尿病患者さんの冠動脈疾患の発症頻度は糖尿病でない人の約3倍といわれます。従来、日本人の冠疾患の発症率は欧米諸国の4分の1程度といわれてきましたが、生活習慣の欧米化とともに漸増し、糖尿病患者さんではそれが顕著です。とくに女性において、糖尿病の有無による冠イベント発症の影響がより大きいことが報告されています。

 糖尿病に伴う冠動脈病変は非糖尿病よりも、より末梢の冠動脈に病変が及んでいるケースが多いことや、無症候性虚血の頻度が高いことなどから、相対的に予後があまりよくない傾向があります。

 一方の脳梗塞ですが、糖尿病患者さんの発症頻度は糖尿病でない人の約2倍といわれています。

 従来、わが国では欧米諸国に比べ、高血圧の関与が大きいと考えられるラクナ梗塞が多いとされてきましたが、生活習慣の欧米化とともに、アテローム性の梗塞が増えています。糖尿病では、細小血管障害と大血管障害の影響で、その両者とも頻度が高くなります。

 
久山町研究からわかる脳梗塞のタイプ分類の変化
 

 
〔Kubo, et al:Decreasing incidence of lacunar vs other types of cerebral infarction in a Japanese population.Neurology 66:1539~1544,2006〕

 

壊疽の頻度

 国内の糖尿病患者数の根拠として頻繁に引用される『糖尿病実態調査』では、一般の方へ直接質問する形式で、三大合併症および壊疽の発症頻度を調べています。それによると、糖尿病の治療を受けている人のうちの1.6%に足壊疽があるという結果になっています。ちなみに、網膜症は13.1%、腎症は15.2%、神経障害は15.6%です。

シャルコー関節症

 神経障害による感覚の鈍麻があると、歩行時に不自然な負荷が足にかかり、骨や軟骨の変形が進みます。高血糖による骨代謝異常も関係している考えられています。このような糖尿病の患者さんにみられる足関節の変形は、最初の報告者の名前をとり、シャルコー関節症と呼ばれています。

足病変のハイリスク患者さん

 足病変は糖尿病の患者さんに一様に発症するのでなく、リスクの高い患者さんをある程度絞り込むことができます。具体的には、糖尿病の罹病期間が長く神経障害がある患者さん、とくに足病変既往歴がある患者さんです。

 糖尿病足病変は慢性合併症に分類されることが多いですが、発症後の進行が速く“亜急性合併症”としての面もある点に注意が必要です。前記のような患者さんには来病時だけでなく、患者さん自身で(またはご家族の協力を得て)毎日、足に異常がないかチェックしていただく指導が欠かせません。

間歇性跛行の鑑別

 間歇性跛行は下肢動脈閉塞によるもののほかに腰部脊柱管狭窄によるものもあります。両者ともに高齢者に多く、当然、糖尿病患者さんが腰部脊柱管狭窄によって間歇性跛行を呈する場合もあります。両者は右表のように、姿勢や下肢症状等によって見分けることが可能です。

糖尿病の診断基準・管理目標と血管障害

 糖尿病の診断基準は下表のようになっています。この診断基準における「糖尿病域」は、高血糖に特異的な細小血管障害(主に網膜症)が起こり得る閾値を統計的に算出して設定されたものです。「境界域」は、糖尿病の発病リスクが高くなる領域を示しています。


 また、血糖値の一般的な管理目標は下表のようになっています。これも主に細小血管障害の発症予防との関連から設けられた数値です。


 糖尿病が細小血管障害だけでなく大血管障害(動脈硬化)も進行しやすい病態であることは明白ですが、血糖値との関連性はパラレルに表れにくい傾向があります。これは、動脈硬化は血糖値以外の介在する要因が大きいこと、インスリン抵抗性が亢進している状態で高血糖を抑制するように働く高インスリン血症も催動脈硬化作用があること、などによります。

空腹時血糖値のみによる判定

 健康診断などのスクリーニングでは、複数の病気を効率良く拾い上げる必要性から、通常、血液検査は空腹時採血の1回のみです。空腹時血糖のみの検査でも糖代謝異常を見逃さないためには、カットオフ値をより厳格に設定する必要が生じます。2008年4月にスタートした「特定健診・保健指導」でも、空腹時血糖の基準値は100mg/dLとされて、糖尿病診断基準よりも低い値です。

 なお、日本糖尿病学会では、ブドウ糖負荷試験(OGTT)を行わずに空腹時血糖のみで糖代謝を評価する場合、110mg/dL未満なら「正常域」ではあるものの、100mg/dL以上110mg/dL未満の間を「正常高値」と区分し、将来的な糖尿病の発病リスクがやや高い群と位置付けています。OGTTにより診断が確定されるまでは、継続的なフォローが必要とされます。

高血圧の診断基準と管理目標

 血圧と脳卒中や心疾患の発症率についてはエビデンスが豊富にあり、現在、血圧については‘the lower, the better’が確実とされ、下表のような段階的な診断(評価)基準と管理目標が設けられています。とくに糖尿病を併発している場合は、細小血管障害・大血管障害ともに、血圧管理の重要性を示した報告が多数あるため、そのコントロール目標がより厳格なものになっています。


肥満の判定基準と肥満症の診断基準

 BMI の基準値は18.5以上25未満で、25以上は「肥満」と判定されます。肥満と判定される状態で、すでに肥満による健康被害が生じていたり、血管障害の高リスク状態である内臓脂肪型肥満の場合は、単に太っているだけではない病的な状態ととらえ、「肥満症」と診断し管理・指導が必要とされます。

メタボリックシンドロームの診断基準

 国内でのメタボリックシンドロームの診断基準は右記のとおりです。なお、2008年4月にスタートした「特定健診・保健指導」では、メタボリックシンドローム予備群まで拾い上げるため、空腹時血糖値の基準値は100mg/dL以上(HbA1Cで判定する場合は5.2%以上)と、糖尿病の診断基準よりも厳格な数値になっています(「
空腹時血糖値のみによる判定」の項も参照)。

脂質異常症の診断基準と管理目標

 脂質異常症と心疾患の発症率との関係は古くから研究されてきていて、エビデンスが豊富に蓄積されています。とくに LDL コレステロールについては血圧同様に、多くのケースで‘the lower, the better’との考え方があてはまるとされ、現在の診断基準は下表のようになっています。

 日本人の心疾患発症率が欧米人よりいまだに低い状況において、欧米と同程度の診断基準としていることについては異論もあります。ただし、糖尿病に伴う脂質異常症は早期より積極的かつ十分な治療が必要であるという点は、ほぼ一致した考え方です。そのため、糖尿病がある場合の脂質管理目標は、下表のように厳格な数値が示されています。


大規模臨床研究の結果から

 脂質低下薬のうちフィブラート系薬剤はトリグリセライド低下作用が高いことが知られています。そのフィブラート系薬剤の一つ「フェノフィブラート(リピディル® )」を用いて、糖尿病性血管障害の抑制効果を調べた大規模研究の結果が“THE LANCET”に掲載されました。

 それによると、フェノフィブラート群はプラセボ群に比べて、大血管障害である心血管イベントの発生を抑制しただけでなく、網膜症によるレーザー治療の必要性を3割低下させるなど、細小血管障害の抑止にも有効に働いていることが示されました。

 このコーナーの第2回目で、より詳細に紹介する予定です。