糖尿病ネットワーク 糖尿病患者さんと医療スタッフのための情報サイト
糖尿病ネットワーク
 
糖尿病セミナー
小児2型糖尿病
監修
東北大学名誉教授 後藤由夫先生

編集
財団法人東京都予防医学協会 大和田操先生


はじめに

 このページを見ているあなたは今、どんな状況にあるのでしょうか。糖尿病と診断されたり、糖尿病かもしれないといわれたお子さんの保護者の方でしょうか? それとも、その本人(小中学生)でしょうか?
 いずれにしても、「病気らしい症状はなにもないのに、どうして糖尿病を心配しなければいけないのだろう」と不思議に感じている人が多いのではないかと思います。そんな人に、まずなにより知っていただきたいことは、「症状がないからといって、絶対に糖尿病を無視しないでほしい」という一点です。
 このページは、なぜ糖尿病を無視してはいけないのか、その理由〈わけ〉を理解していただくためのものです。

糖尿病は、大人だけの病気ではありません

 糖尿病には大きく分けて、1型、2型という二つのタイプがあります(囲み記事参照)。このページで取り上げているのは、2型糖尿病です。
 2型糖尿病は大人に多い病気です。でも、「子どもだから2型糖尿病にはならない」とはいえません。社会環境の変化とともに、大人の糖尿病は年々増えていますが、子どもの2型糖尿病も増加傾向がみられ、日本の小児では1型よりも高い発症頻度が示されています。患者数は、小学生10万人あたり1人弱、中学生では同4〜7人です。
    糖尿病の二つのタイプ

     1型糖尿病は、大部分が免疫機序の異常によって発病し、インスリンの分泌がなくなってしまうタイプの糖尿病です。治療にはインスリン療法が欠かせません。小児・若年期に多く発病します。1型糖尿病の発病には人種差があり、日本人では1年間に10万人あたり1〜2人の発病で、欧米人に比べて著しく少ないです。
     2型糖尿病は、遺伝的な体質に生活習慣によるからだへの負担が重なって発病するタイプです。インスリン分泌が全く途絶えるのではなく、分泌量の減少やインスリン抵抗性によって血糖値が上がります。治療は食事・運動療法が基本です。
     日本の小学生では2型糖尿病に比べて1型糖尿病のほうが多いですが、中学生になると2型糖尿病の比率がずっと高くなります。なお、インスリン分泌が発病後しばらくは保たれていても、分泌量が少しずつ減少し、やがてインスリン療法が欠かせない状態になる「緩徐進行型1型糖尿病」というタイプもあります。


小・中学生10万人あたりの2型糖尿病の発症頻度の年次推移

なぜ糖尿病といわれたのでしょうか?

 現在、小中学校では生徒全員を対象に尿検査が行われています。尿検査で糖が出た場合は、詳しい検査が必要になります。糖尿病かそうでないかの判定は、血液検査によって行います。血液検査で、血糖値が高い状態が続いているとわかったときに、糖尿病と診断されます。
 ところが、糖尿病(2型糖尿病)といわれるほとんどの子どもには、病気を思わせるような症状はありません。それでも糖尿病と診断され治療するのは、血糖値が高い状態が続くと、さまざまな病気が起きやすくなってしまうからです。
 病院の先生や看護師さんが糖尿病の治療をすすめるのは、症状がないからといって糖尿病を無視していると、そのうち大変なことになることを、よく知っているからなのです。

子どもの2型糖尿病の特徴と注意点

 学童糖尿病検診で発見される子どもの2型糖尿病の特徴と注意点を述べます。

特 徴

(1) 1型糖尿病と異なり自覚症状が現れず薬物療法も必要ないことが多い。そのために本人・保護者ともに病気であることを理解できずに治療をおろそかにしやすい。このため統計的にみると、血糖値がより高くなりやすい1型糖尿病よりも、かえって合併症※1が起きる頻度が高いと報告されている。

(2) 病気に対する保護者の理解が重要で、それが子どもの治療を左右する。

(3) 近親者に糖尿病の人がいるケースが多い(遺伝的要素が強い)。
 
(4) 肥満を伴っていることが多い。

(5)日本人の大人にみられる2型糖尿病とは異なり、子どもの2型糖尿病の発見時にはインスリン※2の分泌能力は十分残っていて、糖尿病でない子どもよりも、むしろたくさんインスリンが分泌されている(インスリン抵抗性※3が強い)。

注意点

(1) 成長期にあるので、摂取エネルギーの変更など、治療方法のこまめな調整が必要。

(2) 成長とともに治療の主役を保護者から子ども自身に移し、自己管理の方法を徐々に身につける。

(3) 糖尿病の治療とともに、子どもの心の成長にも目をむけ、学校生活を快適に送れるような配慮も必要。

(4) 発病の年齢が低いだけに、合併症が起きた場合には、若いうちに障害に至ることがある。

    ※1 合併症:糖尿病をよく治療しないと起きる病気。成人の失明原因の上位を占める網膜症や、人工透析が必要になる原因の第一位となっている腎症をはじめ、実にさまざまな合併症が起こります。合併症は一度発病すると治すのが難しいので、糖尿病の治療を続けて合併症を予防することが大切です。

    ※2 インスリン:血液中のブドウ糖(血糖)を細胞に取り込み、エネルギーとして利用する際に必要なホルモン。インスリンの働きが足りないと、血液中にブドウ糖があふれて血糖値が高くなります。その状態が続くのが糖尿病です。

    ※3 インスリン抵抗性:インスリンに対する細胞の感受性が悪くなること。インスリン抵抗性が強いと、インスリンの量はたくさんあっても血糖値が高くなります。インスリン抵抗性は、糖尿病を起こすばかりでなく、動脈硬化を進展させます。


治療はどうするのでしょう

食事療法のポイント

 摂取エネルギー量の決め方=
成長のための栄養と体重管理の両面を考える
 

肥満型と非肥満型の比較

 小児2型糖尿病を肥満型と非肥満型に分けると、やや相違点がみつかります。肥満型では食事・運動療法を進め肥満を改善すると、たいてい血糖値も低下しますが、非肥満型の場合、血糖コントロールのために薬物療法が必要なケースが少なくありません。また、肥満型は男子、非肥満型は女子に多いという特徴もあります。
 非肥満型に多い薬物療法が必要なケースでは、薬を処方してもらう都合があるので通院を中断してしまうことはあまりありません。これに対し、肥満型に多い薬物療法をしていないケースでは、糖尿病をきちんと理解していないと、肥満改善後は通院の目的がわからず治療を放棄してしまい、やがて合併症を起こしてしまうケースが報告されています。

 子どもは成長していますから、糖尿病でも成長に必要なエネルギー量を満たす必要があります。肥満や太り気味の場合も、摂取エネルギーをやや少なくする程度で、極端には減らしません。現在の体重が増えないように管理していれば、身長の伸びとともに肥満度は改善されます。ただし、著しく肥満していたり、成長期を過ぎて身長の伸びが止まっているなら、減量のための食事療法が必要です。
 具体的な摂取エネルギーは「日本人の食事摂取基準(2010年版)」(厚生労働省)の身体活動レベルII(ふつう)に該当するエネルギーを基本に、肥満の程度や糖尿病の状態などを考慮して、治療を担当する小児科医が判断します。

 食習慣の改善は、ゆっくりと少しずつ
無理をせずに、長続きさせることが一番大事
 

こんな食習慣は改めましょう
間食が多い、オヤツを買い置きしてある
オヤツ類はかなりの高エネルギー
清涼飲料水を大量に飲む
糖分が多く、血糖値が上がる
食べ方が早い
食後血糖が急上昇する。食べすぎの一因
夜食をする 睡眠中、長時間高血糖が続く
バターやマヨネーズなどを多く使う
油脂類は少量でも高エネルギー
味付けが濃い食べすぎの一因
食事の時間が不規則
血糖値の上下動が激しくなる
偏食栄養バランスが偏〈かたよ〉
一人で食事をする
嗜好〈しこう〉が偏〈かたよ〉りがちになる。
食事を楽しめない
 摂取すべきエネルギーがわかったなら、その範囲内でバランスよく栄養をとるようにします。成長期は成人に比べて体重あたりのたんぱく質摂取量が高いのですが、2010年の食事摂取基準では下表のような基準が策定されており、各年齢の小児におけるたんぱく質のエネルギー比率は全エネルギー摂取量の8〜10%となっています。しかし、毎年の国民健康・栄養調査に報告されている各年齢の子どものたんぱく質摂取量はそれよりも多く、全エネルギー摂取量の約14〜15%に達していますので、糖尿病であってもそれと同様にして問題なく、炭水化物を50〜60%前後、脂肪20〜30%のエネルギー比率にします。もちろんこれは、間食を含めた食事です。
 なお、食事療法は長続きしてこそ意味があるのですから、できることから始めて徐々にステップアップしていくようにしましょう。楽しくない食事療法に無理に取り組んでも、長くは続きません。
 また、子どもの嗜好しこうは一緒に暮らしているご家族の影響を強く受けていますから、家族ぐるみでの食習慣見直しも大切です。

年齢別にみた身長・体重の平均値と摂取エネルギーなどのめやす
年 齢
(歳)
身長(cm)体重(kg)エネルギー推定必要量
(kcal/日)
たんぱく質推奨量
(g/日)
3〜5103.4103.216.216.21,3001,2502525
6〜7120.0118.622.022.01,5501,4503030
8〜9130.0130.227.527.21,8001,7004040
10〜11142.9141.435.534.52,2502,0004545
12〜14159.6155.048.046.02,5002,2506055
15〜17170.0157.058.450.62,7502,2506055
18〜29171.4158.063.050.62,6501,9506050
〔厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2010年版)」より。
身体活動レベルII(ふつう)の数値〕

運動療法のポイント

 今の子どもの遊びは、屋外でからだを動かすよりも屋内でのテレビゲームなどが中心になりつつあります。しかし、糖尿病の治療には運動が大切ですから、なるべく外で遊び、からだを動かすようにしましょう。
 運動療法は、すい臓から分泌され血糖値を下げる「インスリン」の効きめをよくする(インスリン抵抗性を改善する)ので、小児2型糖尿病にはとくに適した治療と考えられます。毎日30分以上の運動を心掛けたいものです。また、家事の手伝いなどでからだを動かす機会を多く作りましょう。

薬物療法のポイント

 食事療法や運動療法で血糖値が十分に下がらない場合、通常はまず飲み薬を服用して血糖コントロールをめざします。
 糖尿病の飲み薬は大きく分けて、(1) インスリンの効きめをよくする(インスリン抵抗性を改善する)タイプ、(2) 食べ物の消化吸収を遅くして血糖値の上昇をゆるやかにするタイプ、(3) インスリンの分泌を促すタイプの三つがあります。一般的に、肥満を伴う場合には (1) や (2) のタイプ、肥満を伴わない場合は (2) や (3) のタイプの薬が最初に処方されます。
 飲み薬の効果が不十分な場合には、薬の種類や量を追加・変更したり、インスリン療法を行います。

治療の成果は検査で確認します

HbA1c6.5%未満をめざして

 2型糖尿病は自覚症状がほとんどないので、治療が十分かどうかは検査をしないとわかりません。治療効果(血糖コントロールの良否)は、HbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー)という検査で確認します。理想的にはHbA1c6.5%未満が治療の目標です。

「尿糖陰性=糖尿病が治った」は間違い

 糖尿病の理解が不足している人の中には、尿検査で糖が出なくなれば糖尿病が治ったと思い、自己判断で治療をやめてしまう人がいますが、これは正しくありません。尿糖が出る出ないというのは、検査前数時間の血糖状態を反映したものにすぎず、糖尿病でも、食前などの血糖値が低い時間帯には、尿糖が出ないこともあります。
 糖尿病はあくまで血糖値をもとに考える病気です。尿糖が陰性になったからといって、糖尿病が治ったわけではないことを、よく理解してください。

血糖値が下がっても糖尿病を忘れないで

 小児2型糖尿病では、インスリンの分泌能力は正常なことが多いので、肥満や肥満気味の場合には、それを改善することで血糖値が下がってきます。そのときに大切なことは、血糖値が下がったからといって糖尿病を無視してはいけないということです。
 いったん血糖コントロールが改善すると、糖尿病が完治したと思い、それきり通院しなくなることがしばしばあります。しかし、一度糖尿病と診断されるほど血糖値が上がったのは、その人(子ども)が糖尿病体質だからです。糖尿病体質そのものは変えることができません。通院をやめるとしばらく経つうちに、知らず知らず血糖値が高くなっていることが多いものです。
 ですから、薬を飲まずに血糖値をコントロールできていても、糖尿病を忘れることなく、通院を続けるようにしましょう。もし定期的に通院できないのであれば、ふと思い出したときだけでもよいので病院へ行ってください。

保護者の方へ、とくに伝えたいこと

 子どもの糖尿病の治療で最初にポイントとなるのは、保護者の方が子どもの病気を受け入れられるかどうか、という一点です。保護者が子どもの病気を受容できなければ、子どもの治療は非常に難しくなります。
 糖尿病といっても、食事に気をつけたり、必要に応じて薬を使用するだけで、それ以外のことはほかの子どもたちと全く変わりなく過ごすことができるのです。それなのに病気を認めようとせず治療を怠ると、何年か後に合併症を起こして、取り返しのつかない事態を招くことになりかねません。
 逆に、子どものことをかわいそうだと思って、過保護になるのもよくありません。今は保護者の手を借りていても、数年後には自分自身で糖尿病を管理することになるのですから、子ども自身ができることは、少しずつ本人にさせるようにしてください。また、過保護や過干渉に気をつけることは、子どもが人間的に健やかに成長するためにも大切なことです。
 糖尿病を無視せず、糖尿病にとらわれすぎず、自然なかたちで受け入れられれば、きっと治療はうまく進むことでしょう。
Copyright ©1996-2021 Soshinsha. 掲載記事・図表の無断転用を禁じます。