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糖尿病セミナー
低血糖

監修
東北大学名誉教授 後藤由夫先生

編集
久留米大学名誉教授、白石共立病院名誉院長
野中共平先生


なぜ低血糖になるのでしょう

こんなときは低血糖になりやすい

低血糖になると・・・ 血糖値が下がり過ぎると…

対処方法は? 日常生活で注意すること

補食について

低血糖の予防と血糖コントロールの両立を


なぜ低血糖になるのでしょう

 糖尿病は、インスリンの量や作用が不足して、高血糖状態が続く病気です。この高血糖を治すのが糖尿病の治療ですが、それには血糖を下げる飲み薬やインスリンを使うことが少なくありません。これが効き過ぎて血糖が下がり過ぎるのが低血糖です。糖尿病では、低血糖に注意しなければならないことがあります。

薬物療法を行うときに注意が必要

 糖尿病の薬物療法には、飲み薬とインスリン等の注射薬の二通りがあります。飲み薬の中で血糖を下げるスルホニル尿素薬は膵臓のインスリン分泌力を強め、インスリン注射は不足しているインスリンを体外から補うことでコントロールを助けます。
 ところが人間のからだが必要とするインスリンの量は常に一定しているわけではありません。食事の量や食事の間隔、運動量などによって変わります。飲み薬やインスリン注射では、こうした生活リズムの微妙な変化に対応できません。
 そのため、時として飲み薬やインスリンが効き過ぎて血糖値が必要以上に下がってしまうことがあります。これを低血糖といいます。薬物療法、なかでもインスリン注射をしている患者さんは、とくに低血糖に注意が必要です。

糖尿病では血糖値を上げる力も不足している

 糖尿病の患者さん、とくに1型糖尿病の患者さんが低血糖になる原因としては、血糖値を上げる作用のある、拮抗ホルモン(グルカゴン、アドレナリンなど)の分泌能力が低下していることもあげられます。
 健康な人の場合、血糖値が下がってくるとグルカゴンなどの拮抗ホルモンが分泌され、血糖レベルを正常(70mg/dL以上)に保とうとします。しかし糖尿病では、インスリンの分泌能力と同様に、拮抗ホルモンの分泌能力も低下していることが多いので、これができません。

こんなときは
低血糖に
なりやすい
 低血糖は、薬や注射で補ったインスリンの量が、からだのインスリン必要量を上回ったときに起こります。
 具体的には、食事の間隔をあけ過ぎたとき、食事の量が少なかったとき、いつもより身体を動かし過ぎたとき、朝食前に運動したとき、飲み薬やインスリンの量を間違えたとき、飲み薬の働きを強める薬を併用したとき、インスリンを注射した直後に運動をしたときなどがよくあるケースです。また、シックデイで血糖値の変動が大きくなりがちな日も、低血糖を起こすことがあります。

低血糖になると…

 
血糖値が下がり過ぎると…

68mg/dL(平均値)
グルカゴン、アドレナリンなどの拮抗ホルモンの分泌が始まる
拮抗ホルモンは血糖値を上げる働きをしますが、糖尿病だと拮抗ホルモンの分泌能力が低下しています
     
53mg/dL(平均値)
発汗、手足のふるえ、からだが熱く感じる、動悸、不安感、吐きけ、空腹感、霧視
自律神経症状(低血糖に対するサイレン)
     
48mg/dL(平均値)
集中力の低下、取り乱す、脱力、眠気、めまい、疲労感、ろれつが回らない、物が二重に見える、空腹感、霧視
中枢神経症状(脳細胞がギブアップ寸前)
     
意識障害
無自覚性低血糖に注意!!
過去1〜2カ月以内に低血糖を経験していたり、合併症の神経障害があると、何の低血糖症状もなく、いきなり意識障害を起こします
     
低血糖昏睡
 ブドウ糖は酸素と同様、私たちが生きていくのに不可欠な栄養素で、血液によってからだのすみずみに運ばれています。低血糖でブドウ糖が足りなくなると、どうなるのでしょう。
 最近、人工膵臓を使い血糖値を徐々に下げていき、からだの反応を調べるという研究が行われるようになりました。その結果、血糖値と低血糖症状に、次のような関係があることがわかりました。

健常者でみられる血糖値と拮抗ホルモン分泌、低血糖症状の関係

 まず、血糖値が平均値で 68mg/dLまで下がるとグルカゴンなどの拮抗ホルモンが分泌され始めます。さらに 53mg/dLまで下がると、発汗、手足のふるえ、からだが熱く感じる、動悸、不安感、吐きけという具体的な症状が出てきます。これらは血糖値の下がり過ぎでひき起こされる自律神経の症状で、血糖値低下に対してからだが発する警告信号なのです。
 この警告信号が出る範囲を越え、48mg/dL以下にまで血糖値が下がると、集中力の低下、取り乱す(医学用語では錯乱といいます)、脱力、眠気、めまい、疲労感、ろれつが回らない、物が二重に見える、などが起きてきます。これらは中枢神経の症状で、ブドウ糖の欠乏により脳細胞が正常に活動しなくなりつつあることを示すものです。
 この状態になっても糖分をとらないでいると、さらに進行して意識障害が起こり、自分がどこにいて何をしているのかがわからなくなり(指南力の低下)、患者さん本人ではどうすることもできなくなります。さらに進むと低血糖昏睡に陥り、最悪のケースではそのまま死に至ります。
 なお、低血糖の症状としては、空腹感、霧視(霧の中にいるように見える状態)、頭痛などの、自律神経症状とも中枢神経症状ともいえないような症状もあらわれます。

自分の低血糖症状を覚えておきましょう

 このように低血糖にはいろいろな症状がありますが、だれでも同じように順序よくこれらの症状が出るわけではありません。むしろ症状は極めて個性的で、個人差が大きいのです。例えば、ある人は手のふるえが初めにあらわれる症状だったり、別の人は異常な空腹感を感じたりといった具合です。
 ですから低血糖を経験したら、その症状をよく記憶し、自分の低血糖症状の特徴を知っておくようにします。そうすれば次に低血糖になったとき、素早く対応できるようになります。

突然、意識障害が出ることも

 自律神経症状、中枢神経症状、意識障害があらわれる血糖値のレベル(閾値〈いきち〉)は、すべての人に共通しているわけではありません。例えば血糖コントロールが悪い人では、80mg/dL以上でも低血糖症状があらわれることがあります。
 さらに大事なことは、一度高度の低血糖を起こすと、自律神経症状、中枢神経症状があらわれる閾値(症状が出始める血糖値のこと)が低下して、意識障害のほうが先に起こってしまうことです。つまり、低血糖になっても何の症状も出ず、いきなり自分ではどうすることもできない状態になる「無自覚性低血糖」を起こす危険性が出てくるのです。ただし、その後1〜2カ月間、低血糖を起こさなければ、自律神経症状、中枢神経症状の閾値は元の値に戻ります。
 糖尿病の合併症で自律神経が障害されている場合にも、無自覚性低血糖が起き、しかもこの無自覚性低血糖状態は、くり返しますので注意が必要です。

対処方法は?

 それでは、低血糖症状が出たらどうすればよいのでしょうか。

1.自分で対処できるケース

 低血糖の症状があらわれたら、まずブドウ糖(なければ砂糖)を口にすることです。このとき、余裕があれば血糖値を自分で測り、低血糖であることの確認をしましょう。
 ブドウ糖を10〜15g飲み込み、しばらく安静にしています。15分ほど経っても回復しない場合は、さらにブドウ糖を同量追加します。もうすぐ食事だからそれまでがまんしようなどと考え対処を遅らせると、より危険な状態に至る可能性があります。糖分をとり、一時的に多少高血糖になったとしても、低血糖を放置するよりはずっと安全なのです。
 なお、車を運転中に低血糖ではないかと思ったら、周囲の安全を確認して直ちに車を路肩に止めてください。がまんしていると、注意力が鈍くなったり、ブレーキのタイミングが遅くなったり、手足を動かせなくなったりするので、事故の原因となります。また、低血糖になりそうな予感がするような日は、車を使わないほうが無難でしょう。

ブドウ糖を常に身に付けて

糖尿病患者さんに砂糖20g投与したとき(下方曲線)と
ブドウ糖20g投与したとき(上方曲線)の血糖値の変化
 低血糖はいつどこで起きるかわかりません。薬物療法をしている人は、ブドウ糖を常に身に付けておきましょう。
 診察室で患者さんに「ブドウ糖を見せてください」と聞くと、「今は車の中に」とか「机の引き出しに…」と答える人がいますが、それでは意味がありません。いざというときすぐに取り出せるよう、車や机の中はもちろん、男性なら普段着るすべてのスーツの内ポケットに、女性ならバッグに入れておくぐらいの準備が必要です。
 あめや氷砂糖でも血糖値を上げることはできますが、なによりも溶けやすくて吸収の速いブドウ糖がお薦めです。また、糖分が含まれていない人工甘味料ではだめです。もし手元にブドウ糖がない場合は、市販のジュースを飲むことです。ブドウ糖が含まれているもの(参照)が市販されていますので、100〜150mLを飲用します。ただし、ダイエット飲料では役に立ちません。

砂糖では回復が遅れることも

市販清涼飲料水のブドウ糖含量
商品名1ボトル中の含量 (g)1ボトルの容量 (mL)
ファンタグレープ20350
ファンタオレンジ18.9350
コカコーラ13350
(ブドウ糖以外の糖質:ショ糖、果糖は、この表では省略)
 ブドウ糖がないときは砂糖でも構いませんが、αグルコシダーゼ阻害薬(グルコバイ、ベイスン、セイブル)を服用している人の場合は、ブドウ糖の摂取が必要です。αグルコシダーゼ阻害薬は、食べたでんぷんをゆっくり時間をかけて分解させることで、食後の急激な血糖値の上昇を防ぐ薬です。ですから、砂糖を口にしても、分解されブドウ糖となるまで時間がかかり、低血糖が改善されるのに時間がかかります。
 αグルコシダーゼ阻害薬だけの服用では低血糖にはなりませんが、SU薬やインスリン注射などと併用している人は、砂糖でなくブドウ糖を身に付けておきましょう。ブドウ糖は病院でもらえますし、市販もされています。また、の清涼飲料水には多く入っています。

2.家族や身近な人に対処してもらうケース

 低血糖で意識障害が出ると、自分では何もできなくなります。こんなときは、周囲の人に処置してもらいます。薬物療法を始める際には、家族やできれば職場の人にも自分が低血糖になったときの対応を頼んでおきましょう。
 糖尿病の患者さんがいるご家族や職場の人は、その患者さんが普段と様子が違う、一点を見詰めて動かない、話しかけても返事をしないなどの異常を感じた場合、まず低血糖を疑ってみることです。「あなたはどこで何をしているのか」と質問をして、意識レベルを確かめてみるのも良い方法です。
 低血糖を起こしているとわかったら、コップ半分の水にブドウ糖を入れて溶かしたものを飲ませてください。それでも回復しなかったり、ブドウ糖水を飲み込まない、昏睡に陥っているといった場合には、あらかじめ医師に処方してもらったグルカゴン1バイアルを注射します。家庭には必ずグルカゴンと注射器を用意しておき、家族の方は注射の仕方を覚えておきましょう。グルカゴン注射をしても5分以内に回復しないときは、速やかに救急車を呼んでください。
 患者さんの意識が戻ったら、何か糖分または炭水化物(食品交換表の表1)の食品を1〜2単位程度経口摂取させてください。低血糖の原因となった薬物がまだ体内に残っていて、一旦回復しても再び低血糖になる恐れがあるからです。

IDカードの携帯も忘れずに

 外出先で、周囲に自分が糖尿病であることを知っている人がだれもいないときに、低血糖で意識障害を起こすこともあります。そんなケースに備え、自分が糖尿病であることや氏名、自宅・病院の連絡先がわかるようなメモを携帯しましょう。専用のIDカードもありますので、主治医の先生に尋ねてみてください。

日常生活で注意すること

 低血糖にならないようにするにはどうすればよいのでしょう。それは、からだのインスリンの必要量と薬や注射で補うインスリンの量のバランスを崩さないことです。
 そのため、できるだけ規則正しい生活を心掛けましょう。決まった時間に指示カロリーどおりに食べ、指示時刻に薬を正しく飲み(または注射し)、一定の運動をしていれば、インスリン量のバランスが崩れることも少ないはずです。早朝や空腹時の運動は避けるべきです。また、食事の間隔があくときは、通常の食事時間に軽く1単位程度の炭水化物をとっておき、次の食事をその分減らすなどの工夫をしましょう。

補食について

 スポーツなどで普段より運動量が多くなることがわかっているときは、事前に低血糖予防のため、指示カロリー以外の補食をとりましょう。通常1単位程度で、パンなどの分解の遅い炭水化物の食品を食べます。運動が長時間に及ぶ場合は、数時間おきに補食をとる必要も出てきます。

低血糖の予防と血糖コントロールの両立を

 血糖値を厳格にコントロールするほど糖尿病に特有の合併症(網膜症や腎症、神経障害)のリスクは確実に抑制できますが、一方で低血糖を起こしやすくなります。近年の研究では、低血糖が心臓などの血管の病気を増やしたり、認知機能に影響を及ぼすこともわかってきました。ですから今は、低血糖を繰り返す場合や高齢の方などでは血糖コントロールを少し加減するようになってきました。
 しかし幸いにも最近、飲み薬やインスリン製剤の種類が増え、低血糖を起こしにくく、それでいてより良い血糖コントロールを目指せる環境が整ってきています。患者さん自身も低血糖対策の知識を身に付け、規則正しい生活を心掛けて、低血糖予防と血糖コントロールの両立を目指しましょう。
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