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糖尿病セミナー
糖尿病による腎臓の病気
監修
東北大学名誉教授 後藤由夫先生

編集
滋賀医科大学名誉教授 吉川隆一先生


年々増加する糖尿病性腎症

糖尿病が原因で透析を受けている人の割合
(2016年現在)

 
 糖尿病は日常の血糖コントロールがきちんとできていれば、こわい病気ではありません。ところが糖尿病は、発熱したり、からだのどこかが痛くなったりといった自覚症状がないまま病状が進行するため、そのまま放置してしまったり、不適切な治療を行っていると、5年、10年と時間がたつうちに、深刻な合併症を引き起こすことになります。
 糖尿病が原因でよくみられる合併症は、神経障害、網膜症、それに今回紹介する腎症の三つで、これらは糖尿病の三大合併症と呼ばれています。そのうち、網膜症は進行すると失明してしまいますし、腎症では末期腎不全におちいって、生命の維持に透析療法が欠かせなくなります。腎臓は血液が運んできた体内の老化物をろ過し尿として排泄する重要な機能をもっているのですが、腎症が進むにつれ尿を作る機能が低下し、最後には人工腎臓によって腎臓の機能を代行しなければ生きられなくなってしまうのです。
 残念ながらわが国では、こうした糖尿病が原因で透析療法を受ける人が少なくありません。現在透析を受けている人の数は全国で33万人、その38%が糖尿病性腎症によるもので透析導入原因のトップを占めています。さらにこれを最新の年間新規透析患者数でみると43%にも及んでいるのです。しかも、糖尿病で透析を受けている人のその後の経過は、ほかの病気で透析を受けている人に比べると、必ずしもよいとはいえません。
 加えて最近、腎症が進行すると、たとえ腎不全にならなくても、心臓や血管の病気(心臓・血管病)が起きやすくなることが注目されています。むしろそのことが寿命を左右したりします。腎症は、腎臓だけの問題では済まないということです。

原因は高血糖や高血圧


糖尿病性腎症発症のメカニズム


     腎臓の糸球体では、正常な場合、タンパク質や赤血球や白血球などはろ過せず、水や電解質(ミネラル)、老廃物だけを通過させ、尿のもとをつくります。しかし高血糖が続くと、この糸球体の血管が硬化し血管が狭くなると同時にろ過作用が低下し、だんだんとタンパク尿が出るようになります。そしてついには尿が出にくくなって、老廃物が体にたまって尿毒症になります。
 なぜ、糖尿病が腎症を引き起こしてしまうのでしょうか。
 腎臓は、糸球体と呼ばれる細小血管の塊が集まった組織で、この糸球体が、左右の腎臓のなかに100万個ずつもあります。この糸球体の一つひとつで、血液中の老廃物がろ過される仕組みになっているのです。糖尿病性腎症は、糸球体の細小血管が狭くなり十分に老廃物をろ過できないために起こります。その原因となっているのが高血糖です。
 このように小さな血管に何らかの障害が起こる病気を細小血管症といいます。糖尿病の三大合併症は、すべて細小血管症によるものです。例えば網膜にも、腎臓同様に小さい血管がたくさん分布しています。高血糖は、この小さな血管の正常なメカニズムを長い時間かけて徐々に変えてゆき、障害を引き起こしていくのです。
 腎症の場合、高血糖に加えて高血圧、高食塩・高タンパクの食習慣、肥満、脂質異常症などが増悪因子で、それらにより進行に拍車がかかることが知られています。

微量アルブミン尿やeGFRで早期発見!

 糖尿病性腎症は自覚症状のないまま、じわじわと進行していきます。腎臓の病気というと、尿タンパク検査が陽性になったり、からだにむくみが出ることなどがよく知られていますが、それらの変化が起きるのはかなり腎症が進んでからで、病気の進行を遅らせ透析開始を先延ばしすることが治療の中心になってしまいます。ですからできるだけ早期に腎症を発見する必要があります。

尿中のタンパク(アルブミン)を調べる

 早期の腎症を発見するためには、微量アルブミン尿検査が有効です。この検査は、尿の中の非常に微量のアルブミンを、高感度の検査法で見つけだすものです。タンパクはからだに必要なものなので、腎症が起きてなければ、高感度の検査法でも尿タンパクはほとんど見つかりません。糸球体のダメージがひどくなるに従い、微量アルブミン尿から顕性アルブミン尿(タンパク尿)へと進みます。
 一般に、腎症は血糖コントロールが悪いと、糖尿病の発病から10年ぐらいで発症するといわれていますが、2型糖尿病では発病がいつなのか正確にわからないため、糖尿病である人は血糖コントロールを良好に保っている人も含めてみなさん、少なくとも年1回は微量アルブミン尿検査を受けてください。

血液中のクレアチニン値で腎機能を推測

 実際に腎機能低下の程度を把握するには、血液中のクレアチニンの量を測定します。クレアチニンは老廃物の一種で、腎機能の低下に伴い血中濃度が高くなります。血中クレアチニン値を年齢や性別で調整した「eGFR(推算糸球体ろ過量)」という値が腎機能の指標になります。腎機能のより正確な把握のために、尿を1日分蓄えて検査することもあります。

腎症が発見されたら

慢性腎臓病と心臓・血管病の悪循環

 糖尿病性腎症などの慢性腎臓病(英語の頭文字からCKDといいます)では、心臓・血管病になりやすくなります。また、心臓・血管病があると、腎機能が低下しやすくなります。この関係は「心腎連関」と呼ばれ、最近注目されています。両者には、高血圧や慢性の炎症、交感神経の亢進、血液量を調整する仕組みの異常などの共通の原因があることもわかっています。このようなことから、糖尿病性腎症でも腎機能ばかりでなく、心臓・血管病にも注意しながら治療を進めます。
 微量アルブミン尿検査が陽性と出る前後から透析までは、下記の五つに分けられます。ただ、必ずこの順番どおりに進行するとは限らず、尿アルブミン(タンパク)レベルは軽度なのに腎機能(eGFR)の低下が早い場合や、その逆もあります。
腎症の進行と病状・治療 血圧計などで、血圧チェックを習慣づける

 
病  状検 査 値治  療
尿アルブミン
(mg/gCr)
eGFR
(mL/分/1.73m
目 的方  法







臨床的症状なし30未満
(正常アルブミン尿)
30以上腎症を予防する血糖のコントロールに努めよう
健康的な食事に気をつけよう
食塩・タンパク質の過剰摂取をさける
タンパク質は摂取エネルギーの20%以下に
高血圧の治療に努めよう
食塩1日6g未満(高血圧の場合)








自覚症状はないが、この時期から血圧が上がる人が多くなる
30〜299
(微量アルブミン尿)
30以上腎症の進行を抑える


心臓・血管病を予防する
厳格な血糖コントロール
血圧の管理
必要に応じて降圧薬(RAS抑制薬など)を服用
食塩の摂取量を再チェック
血清脂質の管理
必要に応じて脂質低下薬を服用
RAS抑制薬:アンジオテンシン?受容体拮抗薬やACE阻害薬などの降圧薬。腎臓を保護する働きもあるとされています








タンパク尿が陽性

腎機能が急速に悪くなり透析導入も視野に入ってくる

人によっては、この時期からむくみが出てくる
300以上
(顕性アルブミン尿)、

あるいは

持続性タンパク尿
(0.5g/gCr以上
30以上腎症の進行を抑える


心臓・血管病の予防・治療
厳格な血糖コントロール
厳格な血圧の管理
食事療法の切り替え(腎症の治療に重点を置く)
食塩・タンパク質の摂取制限
食塩1日6g未満、3g以上
タンパク質は1日体重1kg当り1g以下(できれば0.8g)が目標
血清脂質の管理の継続
むくみをおさえる
必要に応じて利尿薬を服用







腎臓の糸球体で血液がろ過されず老廃物(尿毒症物質)が血液中にたまり細胞の働きが悪くなる
尿毒症:貧血・体がだるい
尿毒症性神経痛:夜間手足が痛い・皮膚がかゆい
ネフローゼ症候群:慢性的な体のむくみ・尿タンパク3.5g以上(10〜15gにもなることがある)
注意! 一見糖尿病がなくなったようにみえる
インスリンによる薬物療法の場合、腎機能が低下しているため分解が遅くなり、その分体内での作用の持続性が長くなる
eGFRが30未満なら、
尿アルブミン(タンパク)に関係なく腎不全期
30未満自覚症状を抑える


必要に応じて透析開始の準備


心臓・血管病の予防・治療
腎症治療により重点を置いた食事療法
食塩・タンパク質・カリウムの摂取制限
食塩1日6g未満、3g以上
タンパク質は1日体重1kgあたり0.6〜0.8g
血圧管理・血清脂質管理の継続
低血糖に注意
SU薬はインスリン製剤に変更
むくみをおさえる
必要に応じて利尿薬を服用
場合によって水分制限








透析療法

または

腎臓移植
腎症以外の合併症の予防・治療


心臓・血管病の予防・治療
透析の方法にあった食事療法

HbA1cではなくグリコアルブミンを指標に血糖コントロール

低血糖に注意

血液透析と腹膜透析

 透析には血液透析と腹膜透析の二つがあります。血液透析は一般に週3回通院し1回あたり4〜5時間かけ、血液を浄化します。腹膜透析は時間や場所に縛られず、連続的に血液を浄化できます。ただ、患者さん自身の管理がよくないと腹膜炎を起こしやすいなど、注意事項があります。日本では現在、多くの患者さんが血液透析で治療しています。なお、透析を始める時期や方法は病状に応じて主治医が判断します。
 透析療法が始まると、食事療法は透析の方法に応じて切り替えます。それまで続けていたタンパク摂取制限などが緩和されることもあります。ただし血液透析では非透析日に体内に水分がたまりやすいので、水分の摂取量には注意しなくてはなりません。
 末期腎不全のもう一つの治療法は、腎臓移植です。腎臓移植の成功率は高く、移植によって治療の負担も軽減される有効な治療法ですが、日本は常に臓器不足の状態で、糖尿病性腎症に対する移植はあまり多く行われていません。

糖尿病性腎症予防のキーポイント

 糖尿病性腎症は高血糖が最大の原因です。血糖コントロールを良好に保つことは、腎症の予防のうえでも大切なことです。
 一方、腎臓は病気がなくても、肺や心臓など他の臓器と同様、年齢とともに機能が弱まってきますが、これに加えて、過食や高タンパク・高塩分の食事が腎機能低下を速める要因として知られています。いずれも食事さえきちんと対応していれば防げることです。太り過ぎや塩からいもの、肉などのタンパク質の摂り過ぎに、日頃から注意しましょう。
 また、加齢による腎機能の低下は、50歳を過ぎると、性別差が現れることがわかっています。女性のゆるやかな低下に比べて、男性では機能の低下が強くみられます。言いかえれば、それだけ、男性の方が腎症が進行しやすい傾向にあるともいえます。同様に、家族に腎症の人がいれば、遺伝的なことや生活環境、食習慣が似ているなどの理由から、腎症になりやすい傾向があるので、気をつけてください。

腎臓にやさしい生活をしましょう

 糖尿病の合併症のほとんどは自覚症状のないまま進行します。腎症も同じで、症状の一つであるむくみに気づくころには、すでに透析開始が視野に入るほど進んでしまっています。
 また腎症を併発すると、糖尿病に対する食事管理に加えて塩分やタンパク質の摂取制限が、腎症の進行段階に応じて厳しくなり、食事療法がいっそう難しくなっていきます。さらに、腎機能が低下した状態は全身の血管に負担をかけるので、心臓や脳の発作を防ぐための治療も必要になってきます(囲み記事参照)。
 自覚症状がなくても血糖コントロールをよくし、定期的に検査を受け、食事に注意するなど、腎臓にやさしい生活を実行することが、糖尿病による腎臓障害の予防のために大変重要です。
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