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糖尿病セミナー
結婚から、妊娠・出産

監修
東北大学名誉教授 後藤由夫先生

編集
東京女子医科大学名誉教授 大森安惠先生


糖尿病と妊娠の今と昔

 今では信じられないかもしれませんが、1960年代ごろまで、「糖尿病の人は結婚や妊娠・出産が難しい」と言われていました。糖尿病の治療がまだ十分でなかったために、妊娠・出産に伴いさまざまなトラブルが起きていたからです。医学が進歩した現在はもちろんそのようなことはありません。その一方、近年では2型糖尿病の女性が血糖コントロール不十分なまま妊娠するケースや妊娠糖尿病の増加など、昔とは別の問題が起きています。
 このページでは、初めに糖尿病女性の妊娠(糖尿病合併妊娠)を取り上げ、続いて妊娠糖尿病を、最後に出産と産後のケアについてお話しします。

I. 糖尿病合併妊娠

 糖尿病合併妊娠とは、糖尿病患者さんの妊娠のことです。糖尿病には大きく分けて1型と2型がありますが、そのタイプは問いません。ただ、理解しておく点が少し異なるので、最初にそのことに触れておきます。
    ※1型と2型の違いについては、このコーナーのNo.82833を参照してください。

1型糖尿病女性の結婚と妊娠

 冒頭で述べたように、かつて(1960年代ごろまで)、糖尿病女性の結婚や妊娠には高いハードルがありました。今では血糖コントロールが守られている限り、医学的な問題はほとんどなくなってます。ところが、ご本人が糖尿病であることにハンディを感じてしまうためか、今なお結婚をためらう若い1型の患者さんが少なくないようです。
 良好な血糖コントロールを続けていれば糖尿病でない人と違いはなく、人生を気兼ねがちに送ることはありません。たとえ糖尿病でなくても、結婚生活には苦難が伴うものです。
 結婚は、二人の愛情と理解の通過点。糖尿病であることを相手にきちんと伝え、理解を得られたなら、パートナーとして妊娠や出産を支えてもらい、新しい幸せを互いに育んでいってください。お二人で主治医をたずね、面談してもらうのもよいでしょう。ご家族の方も、二人の未来に向けて、温かいエールを送ってあげてください。

ポイントは血糖コントロールと計画妊娠

 糖尿病女性の安全な妊娠・出産のために最も重要なことは、ふだんからより良い血糖コントロールを維持しておくこと、そして「計画妊娠」です。計画妊娠とは、妊娠を希望した時点で検査を受け、医師が大丈夫と判断してから妊娠することです。
 これらの注意点は1型に限らず2型でも同じなのです。

血糖コントロールが悪いために起こるトラブル
赤ちゃんのトラブル
奇形 巨大児
子宮内胎児死亡
未熟児 低血糖
呼吸障害 黄疸
低カルシウム血症 など
母体のトラブル 
 糖尿病網膜症と
  腎症の悪化
 妊娠高血圧症候群
 羊水過多症
 膀胱炎 など

2型糖尿病女性の妊娠と出産

 2型糖尿病は発病から長年、全く無症状に経過するため、時には妊娠して初めて糖尿病を発見されることがあります。そのうえ、もう既に糖尿病合併症をもっていることすらあり、これが大きな問題です。
 2型糖尿病は1型と異なり生存のために治療が欠かせないわけではないので、きちんと治療していない人や糖尿病に気付いていない人が少なくないのです。その結果、血糖コントロールが良くない状態が長年続いていたり、計画妊娠(前項参照)によらずに妊娠してしまい、合併症の悪化や胎児の奇形などのトラブルが起きてしまうことが多いのです。

妊娠前から出産まで血糖値を正常化する

 1型か、2型かという糖尿病のタイプにかかわらず、母子ともに健やかな出産を迎えるためには、妊娠前から出産まで血糖値を正常化する(糖尿病でない人と同じ血糖レベルを保つ)ことが第一です。そして、合併症がないか、あっても治療を受けて状態が安定していることが第二です。
 もしこの条件を満たさずに妊娠してしまうと、赤ちゃん(胎児)には奇形や子宮内胎児死亡など、母親には網膜症の急速な進行による視覚障害、腎症の悪化、妊娠高血圧症候群(旧:妊娠中毒症)など、いろいろなトラブルが起きやすくなってしまいます。
 ここで注意していただきたいことは、厳格な血糖コントロールを「妊娠してから」始めるのではなく「妊娠前から」、つまり妊娠を希望した時から始めるという点です。その理由は、妊娠が成立してから本人が気付くまでに、ふつう数週間のタイムラグがあるからです。
 胎児のからだの基本的な部分は妊娠成立後の数週間でかたちづくられます。仮にこの間の血糖コントロールがよくないと、胎児の奇形が生じやすくなってしまいます。また、合併症の治療のために薬を服用している場合も、その確率を高めてしまう可能性があります。

妊娠前からインスリン療法に切り替え

「妊娠OK」と医師が判断し計画妊娠がスタートすると、ふだん飲み薬やGLP-1受容体作動薬で治療している患者さんも、インスリン療法に切り替えます。その理由は二つあり、一つはインスリン療法のほうが血糖値を狙いどおりに管理しやすく厳格なコントロールに適していること、二つ目は飲み薬の成分が胎盤を通過して胎児の低血糖を起こしかねないからです。

血糖自己測定が欠かせません

 妊娠の経過とともにインスリン抵抗性が生じて血糖値が上昇してきます。それに合わせ必要なインスリン注射量が、いつもの1.5〜2倍ぐらいに増えます。
 逆に、つわりのために食事量が減ったり、胎児の血糖利用が優先される影響で低血糖も起きやすくなります。また、「高血糖にならないように」と食事の量を減らし過ぎることで低血糖気味になり、ケトン体が陽性になることがあります。ケトン体は胎盤を通って胎児に悪影響を及ぼします。それを防ぐには、必要なだけしっかり食べ、それに合わせて必要なインスリンをしっかり注射しなければいけません。
 このような複雑な変化に上手に対応するため、血糖自己測定をこまめに行う必要があります。測定結果をみながらインスリンの注射量を調整する方法を覚えてください。「血糖の正常化」とは、高血糖はもちろん低血糖も可能な限り減らすという意味です。なお、最近はインスリンを自動で連続注入できる器械があり、妊娠中に使うケースが増えてきています。

目標はグリコアルブミン15.8%未満

 妊娠中、通院時にはグリコアルブミン(GA)検査でコントロール状態が確認されます。GAは採血時から過去1〜2週間の血糖値と相関するので、コントロールが悪化した場合にもHbA1cより素早く把握できるからです。また妊娠中、HbA1cは実際の血糖状態との乖離が大きくなることがありますが、GAはあまり乖離しません。日本糖尿病・妊娠学会では、妊婦の血糖推移と妊娠に伴う合併症に関する学術研究を行い、その結果から「GA15.8%未満」をコントロール目標として推奨しています。

コントロールにはげみましょう
血糖値の目安

妊娠前
食前血糖:100mg/dL未満、
食後2時間血糖:120mg/dL未満、
HbA1c:7%未満
妊娠中
食前血糖:100mg/dL未満、
食後2時間血糖:120mg/dL未満、
グリコアルブミン:15.8%未満、
HbA1c:正常範囲(4.6〜6.2%)
食事療法

太りすぎに要注意
難産の引き金になります
妊婦だからといって食べすぎは禁物。妊娠にともなう体重増加は6〜8kgまでに
妊娠後期の体重増加の目安は1週間で300g以内に

食品交換表を活用して、自分でエネルギー量が計算できるようになり、カロリーを抑えた献立を
妊娠前半は1日150kcal、後半は350kcalを妊娠のためのエネルギーとして追加摂取。基本カロリーは標準体重1kgあたり30kcal
妊娠高血圧症候群予防のために、塩分は1日10g以下に
赤ちゃんの発育のために、鉄分とカルシウムをしっかりと
良質の蛋白質とミネラル、ビタミン類をたっぷりと
運動療法

適度な運動でインスリンの働きを活性化
妊娠前から決まった時間に15〜30分程度の運動を(妊娠中は医師の指導に従って)
出産のための筋肉を鍛えるために1日30分の散歩を

妊娠中のトラブルの予防と治療

 血糖コントロールを良好に保つことはもちろんですが、それ以外にもいくつか知っておくべきことがあります。

合併症の悪化

 網膜症と腎症は、妊娠によって悪化しやすい合併症です。妊娠前に網膜症があるか、ある場合でも妊娠に耐えられるかをチェックすることが大切です。
 妊娠前から血糖コントロールを良好に保つのが一番の予防法ですが、網膜症のあるまま妊娠した人は、少なくとも1カ月に1回以上の眼底検査を受けます。今ではレーザー光凝固術という出血を防止する治療が行われるようになり、適切な時期に治療を受ければ、網膜症の進行を食い止めることができるようにもなっています。
 腎症の場合も、腎機能がかなり低下するまで自覚症状が出てきません。そのため、定期的に腎機能検査を受けることが大切です。

妊娠高血圧症候群(旧:妊娠中毒症)

 妊娠によって高血圧や尿蛋白などが現れた状態です。子宮内胎児死亡の原因ともなる胎盤の早期剥離が起きやすくなったりします。以前は「妊娠中毒症」と呼ばれていましたが、さまざまな症状のおおもとは、妊娠によって引き起こされた高血圧であることが明らかになって以降、「妊娠高血圧症候群」と呼ばれるようになりました。
 予防法は、低塩分、低カロリー、高蛋白な食事を心がけることです。とくに塩分は1日10g以下(治療の際は7〜8g以下)に抑えます。バランスのよい食事、良質の蛋白質の吸収をよくするミネラル、ビタミンにも気を配ってください。

羊水過多症

 妊娠後半から臨月にかけて羊水は徐々に減っていくのが一般的ですが、羊水の量が異常に多いままの状態を羊水過多症といいます。母親の血糖が高いと起こりやすく、羊水過多症と診断されたら早産予防のため、安静入院を指導されます。

膀胱炎・腎盂炎・腟炎などの感染症

 妊娠すると一般に膀胱炎や、腎盂炎、腟炎、カンジダ腟炎、トリコモナス腟炎にかかりやすくなるのですが、糖尿病の妊婦さんの場合、発症率が一般の妊婦さんより高い傾向がみられます。とくに膀胱炎は、約6倍も発症しやすいという調査もあります。排尿後の痛み、残尿感があるときは、早めに受診しましょう。腎盂炎は、腎盂腎炎を起こし、さらに腎機能を悪化させます。

II. 妊娠糖尿病

妊娠によって生じる軽い糖代謝異常

【妊娠糖尿病の診断基準】
75gブドウ糖負荷試験で
右のうち1項目でも満た
した場合(糖尿病と診断
されるものは除外)
空腹時値92mg/dL以上
1時間値180mg/dL以上
2時間値153mg/dL以上
 妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めて発症または発見された、糖尿病には至らない高血糖のことです。
 さきほども書きましたが、妊娠によってインスリン抵抗性が現れるので、ふだんよりもインスリンの必要量が増えます。健康な人であればそれとともに膵臓から必要なだけのインスリンが分泌されるので血糖値は変わりません。しかし、もともと体質的に糖尿病になりやすい人は、インスリン分泌を十分に増やすことができず、血糖値が高くなるのです。
 なお、妊娠前に診断されていたり、診断されていなくても見逃されていた糖尿病や、糖尿病の診断基準を満たす高血糖の場合は、妊娠糖尿病とは言わず、糖尿病合併妊娠です。

妊娠前に検査を受けておくと安心です

 妊娠糖尿病は、詳しい検査をすれば妊婦さんの1割以上に見つかり、決して稀なことではありません。とくに、血縁者に2型糖尿病の患者さんがいる人、肥満・太り気味の人、過去に巨大児分娩や原因不明の早産・流産の経験がある人などは、注意が必要です。該当する方は、妊娠に気付いたらできるだけ早めに詳しい検査を受けましょう。
 また、なるべくなら妊娠する前に検査を受けて、異常がないか確認しておいたほうがよいでしょう。ひょっとしたら、隠れている糖尿病が妊娠前に見つかり、計画妊娠が必要になるかもしれませんが、それによってより安全な出産を迎えられます。

妊娠中と出産後の注意点

 妊娠糖尿病は糖尿病合併妊娠よりも高血糖の程度は軽いものの、妊娠中に厳格な血糖コントロールが必要なことは同じです。妊娠中の血糖コントロールがよくないと、巨大児出産や難産、胎児仮死などの心配が出てきます。ただ、妊娠初期の血糖値は正常のことが多いので、胎児奇形についてはあまり心配ありません。また血糖の正常化も糖尿病合併妊娠よりは比較的容易です。
 多くの場合、出産後に血糖値は自然に正常に戻ります。ただし、将来、糖尿病を発症しやすいことがわかっているので、引き続き肥満予防の食事や運動を心がけ、定期検診を忘れずに受けてください。

III. さあ出産です!

自然分娩も可能です

 今は糖尿病だからといって出産が帝王切開になるとは限りません。合併症がなく、妊娠中に血糖を良好にコントロールしていれば、自然分娩も十分可能です。とは言っても、糖尿病の妊婦さんは、やはりリスクのある出産となります。糖尿病の専門医はもちろん、出産後の対応が適切にできる新生児科医など、スタッフ、設備が充実した病院で出産してください。
 進行した合併症があったり、お母さんや赤ちゃんに何らかの危険がある場合は、出産前からの予定帝王切開となります。事前に主治医の説明をよく聞いておきましょう。

産後のケア

 糖尿病の人も基本的に母乳で赤ちゃんを育てることができます。その場合、妊娠前に飲み薬を使っていた人も、授乳期間は妊娠中と同様、インスリン療法を続けます。飲み薬だと母乳に薬の成分の一部が出て赤ちゃんの体内に入り、赤ちゃんの低血糖を引き起こすことがあるからです。
 また、妊娠によって増えた体重を元に戻し、太りすぎを予防するためにも、授乳中の摂取カロリーに気をつけてください。基本カロリーは〔標準体重1kgあたり30kcal+付加エネルギー量600kcal〕を目安にします。

おわりに

     コントロールが悪いと、糖尿病の妊婦さんに、トラブルが多いことは事実ですが、今では妊娠中の糖尿病治療が充実して、糖尿病であっても、妊娠・出産が十分にできるようになりました。
     しかし、安産のために一番重要なことは、日常の血糖コントロールです。日頃から自己管理を十分に行って、健やかな赤ちゃん誕生にトライしてください。
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