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I.肥満と糖尿病

肥満で糖尿病になる人が急増しています

 現代人は、過食や運動不足で肥満になりがちです。肥満になると、耐糖能(血糖を処理する能力)障害などの、軽い糖尿病状態になる人が増えますが、初期のうちに肥満を解消すれば、また正常に戻ることができます。
 しかし、そのまま肥満を放置し続けると、糖尿病になってしまう人が少なくないのです。このような、明らかに肥満が原因で発症する糖尿病を、「肥満糖尿病」といいます。

肥満がなぜ、いけないのでしょうか?

肥満糖尿病の患者さんがかかりやすい病気
網 膜 症腎 症神経障害高血圧狭心症心筋梗塞
脳 梗 塞下肢動脈閉塞高尿酸血症(痛風)
脂質異常症脂肪肝不妊症関節障害など
 肥満は、おそらく私たちの体にとって、ひとつの異常事態だと考えられます。肥満の程度が高くなるほど、糖尿病や動脈硬化症など、さまざまな生活習慣病になりやすくなり、死亡率も高くなるからです。肥満になればなるほど、健康や長寿から遠ざかるということが、肥満の最大の特徴といえます。

肥満とはどんな状態をさすのですか?

 肥満は、単に体重が増えることではありません。摂取エネルギーが、消費エネルギーを上回った結果、予備のエネルギーとして蓄積された体脂肪が、必要以上に増えた状態なのです。つまり、肥満かどうかは、体内に占める脂肪の割合で決まるのです。
 しかし、体脂肪だけを正確に測定するのは大変なため、だれにでも簡単に計算できる体格指数(body mass index〈ボディー マス インデックス〉:BMI〈ビーエムアイ〉)を使って、肥満の程度を判定する方法が一般的になりました。BMIは、体脂肪量とよく相関する肥満指数で、国際的に使われています。

BMI25kg/m2だと「肥満」です

 BMIは、[体重 (kg) ÷身長 (m) ÷身長 (m)]で計算されます。この計算結果が22に相当する体重が標準体重です。なぜかというと、その体重が最も病気になりにくい、統計的に理想的な体重だからです。身長から標準体重を出すには、この式の答えが22になように逆算すること[身長 (m) ×身長 (m) ×22]で求められます。
肥満の判定基準
BMI判 定
18.5未満 やせ(低体重) 
18.5以上25未満普 通
25以上肥 満
 BMIによる肥満の判定基準は、右の表のようになっています。25以上が肥満とされるのは、25を超えると、糖尿病や高血圧、脂質異常症(高脂血症)など、多くの生活習慣病が起きやすくなるからです。最近の研究ではBMIが27で、糖尿病になる危険は2倍になることがわかりました。
 糖尿病の予防や血糖コントロールの改善には、BMI20〜24に相当する体重、つまり、身長×身長×20 と身長×身長×24の間の体重を目標とするのがよいと思われます。
例:身長160cmで体重70kgの人のBMIは?
 70÷1.6÷1.6=27.34。BMIは27.3(小数点以下2桁四捨五入)です。25以上ですから、この人は肥満になっているということです。
この人の標準体重は?
 1.6×1.6×22=56.32。身長160cm の人の標準体重(理想とされる体重)は、約56kgです。

II.肥満糖尿病の原因

 肥満になると、インスリンの必要性が増すため、糖代謝(体内で糖をエネルギーとして消費したり蓄えたりする作用)を支えるすい臓などの各組織が、それぞれの持ち場でフル回転し、肥満という事態に対応します。
 しかし、その状態が長引くと、血糖を処理する役目の部分に、次々異常が起こり、糖代謝のサイクルが狂ってきます。いくつかのそうした異常が重なって、糖尿病が発症します(下図参照)。


 肥満が糖尿病を起こすメカニズム 
 私たちが、活動するにはエネルギーが必要ですが、そのエネルギーは、血中のぶどう糖(血糖)を、筋肉や脂肪細胞などの組織が、細胞内に取り込むことでつくられます。血糖が細胞内に入るには、すい臓から送られるインスリンと、細胞側にあるインスリン専用のレセプター(以下レセプターと略す)が結合して、初めて入れるしくみになっています。
 肥満になると、インスリンの血糖降下能が低下してインスリンの必要量が増えるので、すい臓にあるβ細胞が、インスリンを増産し、体内にはたくさんのインスリンが出回るようになります。(高インスリン血症)。
 しかし、インスリンが一定量を超えると、レセプターの量が、相対的に減少する現象(レセプター異常)が起きるため、血糖の利用効率がさらに落ちて(インスリンの感受性低下。インスリン抵抗性ともいう)、人によっては、高血糖が始まり出します。
 次いで、インスリンとレセプターが結合したあとの異常(レセプター結合以後の異常)も加わってくると、すい臓はそうした状態を正常化しようと、さらにインスリンを増産しますが、血糖処理が追いつかず、ここで糖尿病が発症してきます。レセプター結合以後の異常が発生するのは、肥大した脂肪細胞から、TNF-α、インターロイキン6、レジスチンなどの、インスリンの効き目を下げる物質(サイトカイン)が出ることが主な原因です。
 こうした異常が続くと、今度はβ細胞にも異常が起き(β細胞障害)、インスリン分泌も不足する事態になります。糖尿病は重症化して、SU薬やインスリン注射が必要となり、たくさん食べてもやせてきます。
 ただ、β細胞が障害されるまで重症化するのは、2型糖尿病の遺伝的体質をもつ人に多いと考えられています。なお、アジア人の糖尿病は糖尿病発症時にはインスリン分泌不全になる場合が多いのですが、欧米人では発症時にもインスリン分泌が過剰の場合が多いという違いがあります。

肥満

高インスリン血症

 インスリンレセプター減少

インスリンレセプター
結合以後の異常
糖尿病発症

β細胞障害

糖尿病重症化
 

III.肥満糖尿病の治療

体重減少が治療の原点です

 肥満糖尿病の治療の最大の目的は、細胞がもっているインスリンの感受性(効き目)を回復させ、正常な血糖状態をとり戻すことです。
 それには、まず、体重を減らすことが先決です。日本人の場合、まず3kg 減らすだけで、インスリンの感受性や血糖コントロールが、目に見えて改善してきます。
  
減量による治療効果

(1) インスリンの感受性が回復します。
(2) インスリンの分泌量が適正になります。
(3) 血糖コントロールが改善します。
(4) 血中脂質異常が正常化します。


食事療法と運動療法のふたつが基本

 減量は、食事療法と運動療法の組み合わせで行う方法が無理なく、効果的です。食事療法で摂取エネルギーを制限し、運動療法で代謝を改善して、太りにくい体質に変えていくのです。
 減量しても血糖コントロールが改善しにくかったり、減量ができない状態にあるなどの場合に限って、補助的に、SU薬やインスリン注射などの薬物療法を行います。しかし、肥満糖尿病の場合、多くの患者さんは、発病初期は食事と運動による減量だけで、血糖コントロールが可能です。
 なお、減量は、目標によって短期と長期に分けた2段階方式が失敗しません。まず、短期プランで大きく減量し、次に、長期プランでじっくり確実に減量します(囲み記事参照)


●短期プラン
 まず、1日でも早く血糖の正常化をはかるために、食事療法を主体にした方法で、2〜3カ月かけて3〜5kg の減量をします。
 摂取カロリーを、標準体重×20〜25キロカロリー/1日と低めに抑え、補助的に運動療法を行うものです。この間、空腹にはがまんが必要です。

  ●長期プラン
 3〜5kgの減量ができたら、次は、運動療法を主体とした長期プランに切りかえます。これは、極端な効果は求めず、毎月1〜2kgの減量を目標とし、確実に持続的に減量することに、重点をおくものです。
 食事量の制限は、標準体重×30キロカロリーと、短期プランよりもゆるやかにし、その分、運動量を増やします。太りにくい代謝状態をつくるため、1日最低200〜300キロカロリーの運動を日課にします。

●減量の最終目標
 最終的には、BMI20〜24kg/m2程度に落ちつくことが目標ですが、個人差があるため、必ずしもこれにこだわりません。減量はあくまで手段であり、肥満糖尿病の減量の目標は、薬物療法の助けを借りなくても、血糖値を正常範囲に保てるようになることです。5%減量すると効果があるといわれています。
 目標達成後は、適正体重と良好な血糖値の維持に努めてください。


うまくいかない時は、主治医に相談してこんな方法で乗り切ります

超低カロリー食
 インスリンの感受性や分泌量の改善を一気にはかりたい時は1日600キロカロリー以下の低カロリー食を、短期的に行う方法もあります。
行動修正療法
 太る人は、食べ方に問題がある場合が多いので、食事日誌をつけ、減量の妨げの原因をみつけて、生活行動を修正します。
教育入院
 自分ではうまく生活改善できない場合は、この方法も有効です。
SU薬以外による肥満糖尿病治療
 血糖値を下げる薬として古くからスルホニル尿素(SU)薬という薬が使われていますが、SU薬はインスリン分泌を増やすために体重が増えてしまいがちで、肥満糖尿病には使いにくいことがあります。そのため最近はSU薬以外の薬がよく処方されます。
 例えばビグアナイド薬やチアゾリジン薬はインスリン抵抗性改善薬とも呼ばれ、インスリンの感受性を高めることで血糖値を下げます。α-グルコシダーゼ阻害薬は、食べ物(炭水化物)の消化吸収を遅くして食後の急激な血糖上昇を抑えます。DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬は主として食後の血糖値が高いときにインスリンの分泌を増やします。速効型インスリン分泌促進薬も服用後(食後)の短時間に限ってインスリン分泌を増やします。SGLT2阻害薬は血中のブドウ糖を尿中に排出することで血糖値を下げます。
 このほか、高度肥満患者さんに期間を限って中枢性食欲抑制薬が使われることもあります。
注意! これら薬物療法は、主治医が処方します。

IV. 治療を成功させるアドバイス

太っている今が治療のチャンスです。

 現在肥満状態にあるということは、すい臓のβ細胞が障害されるところまで、まだ病気が進行していない可能性が高いということです。β細胞が障害された結果、インスリンの分泌が不足し始めると、減量しようとしなくても、やせてきます。糖尿病を、軽度のうちに治せるチャンスは、今なのです。

運動療法を始める前にメディカルチェックが必要です。

 高度の肥満者や、膝や股関節の関節症、そのほかの合併症がある場合は、運動内容に制限があるので、事前に諸検査を受け、注意点を知っておくことです。
 また、いきなり運動を始めると、筋肉が断裂したり関節を傷めるので、軽い運動から始め、筋力をつける運動もメニューに入れます。

減量には、適応現象がつきものです。

 減量を続けると、途中で体重減少が停滞する時期が必ず起きてきます(適応現象)。そんな時はあせらずに、軽い摂取カロリー制限と運動を続ける日々の努力により、乗り切ることができます。

極端な減量はやり直しがききません。

 極端な減量を繰り返していると、減量に対する抵抗力がつき、かえって体重が前より増えて、体重コントロールが不良になります。一度始めたら、途中で投げ出さないよう、ゆっくりやせるようにしましょう。

薬を減らす努力をしましょう。

 安易に薬物を使うと効き目が減退し、さらに強い薬に頼らざるを得なくなります。現在、SU薬、その他の経口薬やインスリンなどの薬物療法をしている場合でも、薬だけに頼らず、食事と運動による減量を着実に行うことで、薬から脱却できることもよくあります。また、インスリンには肥満を助長する作用もありますので、使用量は最小限に抑えながら、より良い血糖コントロールが保てるように努力してください。

つねに、治療の原則である食事と運動による減量にたちかえることこそ、治療の最大の近道です。


肥満糖尿病の手術治療
 内科的治療を十分に行っても減量効果が上がらない重度の肥満糖尿病に対して近年、手術で治療することが徐々に増えてきました。胃を部分的に切除したり、胃の内腔を狭くするバイパスを作ったり、胃バイパス術と小腸短縮術を組み合わせる(ルーワイ手術)などで、食欲を抑え、食べた物の吸収を減らします。術後には体重が確実に減り血糖値も改善しますが、食事・運動療法等の継続や定期的な検査が必要です。
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