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インスリン療法(2型糖尿病)

監修
東北大学名誉教授 後藤由夫先生

編集
順天堂大学大学院教授 河盛隆造先生


インスリン療法は特殊な治療法ではありません

 糖尿病は、インスリンという、膵〈すい〉臓から分泌〈ぶんぴつ〉され血糖値を調節するホルモンの作用が不足して、高血糖になる病気です。この状態に対して、インスリンを注射して補い、血糖値をコントロールするのがインスリン療法です。
 膵臓のインスリン分泌がほとんどなくなる1型糖尿病では、インスリン療法が治療の基本となり、生きるためにもそれが欠かせません。一方、2型糖尿病では、膵臓のインスリン分泌はいくらかは残っているので、インスリン療法をしなくても、すぐに命〈いのち〉にかかわるわけではありません。しかし、食事・運動療法や飲み薬による治療では血糖値を管理できない場合、また血糖値がとくに高い場合には、インスリン療法を行います。
 2型糖尿病でも、インスリン療法が必要なことは珍しいことではありません。国内でインスリン療法を行っている約70万人の患者さんのほとんどは2型糖尿病です。インスリン療法のことを、重症の糖尿病の人のための、最後の治療手段だと悲観的にとらえたり、わずらわしそうだと敬遠する患者さんがいますが、治療が進歩し、注射器具の改良が著しい現在では、そのような考え方はあてはまりません。

インスリン療法のめざすもの


インスリンは、分泌のしかたで基礎分泌と
追加分泌に分けて考えると、わかりやすい
 インスリン療法は、糖尿病のタイプや病状によって、治療の内容が異なります。
 膵臓からのインスリン分泌は、24時間ほぼ一定量が出続ける基礎分泌、食事などの血糖値の上昇に対応してタイミングよく出る追加分泌に分けられます。
 1型糖尿病では追加分泌も基礎分泌もほとんどなくなっていますが、2型糖尿病の場合、インスリン分泌力自体は比較的保たれていることが多いのです。しかし、分泌量が少なかったり、分泌のタイミングが悪い(食後に血糖値が上昇しても、少し間を置いてから分泌され始める)ため、高血糖になるのです。
 2型糖尿病のインスリン療法は、この残っているインスリン分泌力を効率よく活用し長持ちさせ、よりよい血糖コントロールを保ち続けることが目標です。

こんなときには、インスリン療法

飲み薬を服用しているのに血糖コントロールがよくない
薬の副作用・相互作用や内臓の病気で、飲み薬を服用できない
著しい高血糖で、すぐに血糖値を下げる必要がある
糖尿病以外の病気にかかったとき
(手術の前後や感染症にかかったときなど)
妊娠中(または妊娠希望時)・授乳中

インスリン療法の効果

●2型糖尿病の場合
追加分泌は低いが、基礎分泌はある程度保たれている2型糖尿病の場合、追加分泌の部分を超速効型や速効型で補うと、健康な人のインスリン分泌に近づけることができ、血糖値が改善します。


健康な人の血糖値
インスリン療法をしない場合の血糖値(2型糖尿病)
インスリンを1日3回食前に注射した場合の血糖値


健康な人のインスリン分泌
注射をしない場合のインスリン分泌(2型糖尿病)
インスリンを食前に注射した場合

●1型糖尿病の場合
追加分泌も基礎分泌もほとんどなくなっている1型糖尿病の場合、その両方をインスリン注射で補う必要があります。追加分泌を補うのには超速効型や速効型、基礎分泌を補うのには中間型や持効型溶解インスリンを注射することで、健康な人のインスリン分泌に近づけることができます。

インスリン療法の実際

 飲み薬のことを「飲むインスリン」と思っている人がいますが、それは違います。飲み薬は、膵臓に働きインスリン分泌を刺激したり、肝臓、筋肉などに働きかけインスリンの作用をよくします。血糖値がどのように変化するかは、病気の状態などによる個人差が大きく、同一人でも治療により変化します。
 それに比べてインスリンを直接補給するインスリン療法は、作用の強さやその効果をとらえやすく、血糖管理が容易です。飲み薬が効かなくて苦労を重ねた2型糖尿病の患者さんがインスリン療法に変えると、コントロールが良好になります。
 実際に、どんなインスリン製剤を用いて、どの程度の量をいつ注射するかなどは、主治医がその人の病状にあわせてきめ細かく指導します。したがって、ここでの治療内容の解説は、基礎的知識にとどめます。

これだけは知っておきたい基礎知識

製剤の種類

 インスリン製剤は、皮下に注射後の効果の発現開始時間・ピーク・持続時間の差によって、超速効型、速効型、中間型、持続型(持効型溶解)の4種があり、またそれらを混ぜあわせた混合製剤があります。それぞれの特徴を生かして使い分けます。自分がどの種類の製剤を使い、そのインスリンがどのように作用して血糖値がどう変化するのか、特徴をよく理解し、使いこなすことが大切です。
インスリン製剤の種類

注射の方法と器具

 近年は、ごく簡単な操作で注射できるペン型やキット製剤が主流になっています。ただ、万一の故障を想定し、注射器による昔からの方法もマスターしておいたほうが安心です。

注射部位と吸収速度

 通常は皮下組織に注射します。注射したい部位の皮膚をつまみ垂直に針を刺せば、皮下に注射できます。注射に適した部位は、(a) 腹部、(b) 上腕、(c) 臀部〈でんぶ〉、(d) 大腿〈だいたい〉(ふともも)などです。吸収速度は (a) が一番早く、以下 (b)、(c)、(d) の順に遅くなります。通常は、吸収が早くて安定している腹部にするのが最適です。なお、注射後にその部分の筋肉を使うと吸収が早くなります。
 また、毎回同じ場所に注射し続けると、その部分が固くなることもあるので、少しずつ(1cmぐらい)ずらして注射するようにしましょう。

血糖自己測定

 血糖値の動きをリアルタイムでつかめる血糖自己測定は、インスリン療法をより効果的にするうえで有効な手段です。また、低血糖が疑われるときにそれを確認するためにも役立ちます。なお、血糖自己測定で得たデータは必ず記録し、主治医にフィードバックしてください。的確な治療のための貴重な情報源になります。
HbA1C
 

治療の目標

 近年、血糖コントロールのよし悪しと合併症の起きやすさの関係を調べた、いくつかの研究結果が、国内外で発されました。それらはいずれも、厳しく血糖値をコントロールするほど合併症を阻止できることを証明し、治療を続ける患者さんを勇気づけるものです。
 一方で、合併症を確実に抑えるための治療目標は、それまでよしとされてきた値よりかなり厳しいことがわかりました。しかし、適切な治療、患者さんの努力次第で、実現可な値です。目標は、HbA1Cを 6.5% 未満に保つことです。
    HbA1C:2カ月前から採血時までの平均血糖値をす指標。基準値は 4.3〜5.8%。
インスリン療法にまつわる勘違い

インスリン療法が必要ということは、病状がだいぶ悪いということ?
 糖尿病は、合併症が怖い病気です。合併症の進行しやすさは、血糖コントロールのよし悪しに左右されます。仮にインスリン療法を行っていなくても、血糖コントロールが不十分なら合併症の発症・進行は抑えられません。反対に、インスリン療法が必要な人でも、それによってよいコントロールを保っていれば、合併症は抑えられます。インスリン療法が必要ということと、病状が軽症か重症かということは、直接関係ないことです。

一度インスリン療法を始めたら、一生やめられない?
 血糖値が高いと、それ自体がさらにインスリン分泌を低下させたり、筋肉や脂肪細胞でのインスリンの働きが悪くなるという悪循環が起きます。インスリン療法によってその状態を改善すると、高血糖改善の好循環が始まって、インスリン療法が不要になることが少なくありません。

インスリンを注射すると膵臓のインスリン分泌低下が早まる?
 全く逆です。インスリン療法を開始し、血糖値をよくしておくと、膵臓を休ませることになり、インスリン分泌力が回復することがよくあります。例えば、飲み薬が効かなくなってインスリン療法に切り換えたときなど、しばらく経って再び飲み薬による治療に戻すことも珍しくありません。

インスリン注射は痛い?
 注射器具はどんどん改善されていて、今のものは全くといってよいほど痛みはありません。

インスリン療法を始めるには入院が必要?
 外来(通院)で始められるケースも、たくさんあります。

インスリン療法で太るってホント?
 人によっては、インスリン療法を始めて血糖コントロールが改善すると、安心してつい食べすぎたり、「低血糖予防のため」といいつつ間食〈あいだぐ〉いをすることがあり、そうすると太ってしまいます。でも、食事療法や運動療法を守り、きちんとした低血糖対策を立てれば大丈夫です。

食前の血糖値が高くなければ、低血糖の心配もあるのでインスリン療法は向かない?
 2型糖尿病の場合は、食前の血糖値が正常に近くても、食後に高血糖になるケースがあります。そのような場合も合併症(とくに動脈硬化)は起きるので、インスリン療法が必要なことがあります。


効果を高めるアドバイスと注意点

治療の中身と自分の現状を、理解しておきましょう

 今、どの種類のインスリンをどのくらい注射しているのか、HbA1Cはいくつで目標との差はどのくらいか、管理はうまくいっているのかよりよい血糖管理のため、この程度のことは、だれから聞かれてもすぐに説明できるくらい、治療について理解しておきたいものです。

感冒や消化器症状のあるときはあまり食事ができなくても、インスリンはいつもと同量か2分の1は注射しましょう

 病気のときはインスリンの作用が弱くなるため、インスリンを注射せずにいると、著しい高血糖になり昏睡に陥ることがあります。また、熱があるときは、脱水を防ぐために、みそ汁やスープ、ジュースなどの液体を必ず補給します。

【詳しくは、このコーナーの「病気になった時の対策」のページをご覧ください】


間食は禁止!

 自力でインスリンを追加分泌できない2型糖尿病の人にとって、間食は予定外の負担になり、コントロールを乱します。食事の量をきちんと守り、決められた食事以外の飲食は控えましょう

凍らせた製剤は解氷しても使えません

 使用中のインスリン製剤は、直射日光が当たったり、暖房機具のそばなどのとくに暑い場所でなければ、室内に置いて問題ありません。未使用のインスリン製剤は冷蔵庫で保存しますが、インスリンは凍らせると変質するため、凍る可性のない場所にします。なお、ペン型やキット製剤は、冷蔵庫に入れると結露して作動しなくなることがあります。
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